パパと呼んで…。 vol.002 「…そ…んな…、はず…ないでしょ。」
東亜銀行東京西支店融資課。課長席、
「何―――――――っ!!!今、何てった。ママ!!!」
順子からの電話を受けて中川敏光。
「すぐ行く。病院は何処だ。」
すぐさまメモをして、
「分かった。なんてこったい、高志君。」
敏光もそのまま病院へ。
霊安室の中、麻衣子。
「…そ…んな…、はず…ないでしょ。」
ベッドの上の…白い布を掛けられたままの姿の見えないその光景に、
「高志が…、こんなところに…、いるはず…。」
頭を深々と下げて、シーツ姿の男性。
「中川…高志さんの…。」
ゆっくりとベッドの頭の部分に近づく麻衣子。
「…妻の…。」
ゴクリと口の中の物を飲みこんで…、
「中川…高志の…。妻の…、ま…い…こ…。です。」
唇を震わせながら…。両手を震わせて…。
男性、
「この度は…。…申し訳…ありませんが…、ご確認…、戴けますか…。」
手が動かない麻衣子。自然に首を横に振り、
「ち…がう…。高…志じゃない。別の…。」
布に手が伸びない麻衣子。
男性、
「…失礼…します。」
白い布をゆっくりと捲る。顔が露わになる。
目を閉じた白い顔が麻衣子の目に…。
その途端、目が閉じていきなり身体を崩す麻衣子。
ベッドの端にいたもう一人の男性が素早く動き、
「奥さん、奥さん。」
抱えるように…。
その声に、ようやく、我に帰る麻衣子。目の前の白い顔に、いきなり今度は、
「わ――――――っ。わ――――――っ。」
そのままベッドに被さるように、
「わああ・あ・あ。たか…し―――――――っ!!!あっあっあ。あ――――――っ。」
そして、高志の顔を両手で抱き締めて。
「どうして…。こんな…。」
ボロボロと流れる涙。
男性、
「…ご愁傷様です。お気の毒に…。」
そのまま数分…。そして…、ドアをノックして開ける音。
敏光、
「麻衣子。」
ベッドに覆い被さるようにしている麻衣子を見ながら敏光、
「高志…君。そんな…。」
そして、ベッドの傍にいるふたりの男性に…。
「ご苦労様です。あの…。」
ふたりの男性、敏光に手帳を見せて、
「この度は…、何と言っていいか…、誠に…。」
敏光、
「すみません。何が…あったんですか…???」
そしてまたドアにノック。順子である。そして麻衣子の妹の麻美。
「マコ。」
「お姉ちゃん。」