お供(仮)との対談
列車を降りて、列車の中よりも遥かに寒い空気に身を震わせている僕を横目に、その人は僕の手を引く。
一体何処に行くのかもわからないまま、混乱している僕を連れて駅を出ていく。
駅を出てすぐのところにあるカフェに、強引に押し込まれると、暖かいブラックコーヒーを頼むと、二人で席に座った。
深刻な顔つきで見つめてくるその人に、かける言葉が中々見つからなくて、頭の中でぐるぐる考えていると、店員さんの足音で我に返る。
ハッとしている僕に、真っ黒なコーヒーと、それに添えられている角砂糖、ミルクをテーブルに置く女性の店員さんの目線はやはり僕と相席の人に向いている。ほんのり頬を赤らめてギュッと目を瞑って、そそくさと厨房の方に駆けていった。やはり顔がいいと異性にもてるんだな、と今の状況には似合わない事を考えていると、ついにカフェまで強引に連れてきた本人の口が開く。
「旅、してるんだよね。俺にも、お供させてほしいな、なんて…」
先程まであんなに自信満々というオーラを纏っていたのに、どんどん声が小さくなっていく。最後の方は辛うじて聞こえたが、蚊の鳴くような声になっていた。最初からこれを言っておけば僕も旅を中断する必要がなかったのに、と思ったが、流石にこの状況でそんな事を言えるほど僕は無慈悲ではない。それに、何故名前も知らない僕にお供したいなんて言えるのか、と、疑問しか浮かんでこない。僕が持っているこの日記は、本当に僕の友人であるセウヌスの日記なので、僕の実力ではない。それもちゃんと説明したはずなので、力に惹かれてとかではないと思うし。取り敢えず、こんな所で頭を下げてくるイケメンが目立たないはずがないので、頭をあげさせなければ。
「…あの、頭をあげてください。僕、君の名前すら知らないので、話は一度二人で名乗ってからにしませんか?」
僕の事を上目遣い+うる目で見つめてくるその人は、自分の顔がどれほど美しいのかを自覚してほしい。自覚しながらこんな事をやっているのだったら決して侮れない。…そんな仕草やって堕ちるのは面食いな女性位だと思った。
こくこく、と頷いたその人は、先程のうる目は何処へやら。嬉しいという感情を隠そうともせず、いたずらが成功したいたずらっ子のような顔をしている。こういう顔はどうせなら女性にしてあげてほしい。周囲の視線が僕に一点集中する。僕は、あまり人に注目されるのは得意じゃないのでこの状況から一刻も早く抜け出したい。と切実に思う。
「…僕はヴィアラ。で、君は?」
「お、俺はハルネス。一応元冒険者で、今は魔法を中心に研究してる。」
ふむ、中々良い人材だと思う。あ、今の言い方はちょっと上から目線だったか。まあいいや。話を戻すと、ハルネスさんが本当に信頼できる人物かどうかはまだ僕はわからないし、一回この件は保留にしようと思う。つい押しに負けてこのカフェに入ってしまったけど、ここのコーヒーはとても美味しかった。またここら辺に来ることがあったら、ぜひとも寄りたいものだ。そう思ってカップに入っている、自分好みに砂糖とミルクを入れたコーヒーを一気にグイッと飲む。ハルネスさんは、僕の入れる砂糖とミルクの量をみて絶句していた。まあそうだろう。角砂糖を手渡された分だけではなく、ハルネスのコーヒーに付いてきた砂糖まで全部入れて、ミルクも全部入れてる人なんて結構珍しいと思うし。人がどんなに甘党でも別にいいじゃないか。減るものじゃないし。いや、砂糖とミルクは減るか。
ハルネスがまた何か考え込んで、上の空になっている状態から一向に戻ってこないので、セウヌスから貰った日記、というか旅のガイド的な本を手に取り、ページを捲る。
『多分ずっと季節が変わらないのは
この、君が住んでいるこの地域だけじゃないかもしれないな、
って思って、私調べてみたの。
そしたら案の定、私達が住んでいった地域だけじゃなかった。
でも、他にも春しか来ない所、夏しか来ない所、秋しか来ない所が
あってね。最初、その地域に行ってみた時、
春は、暖かい色の、オレンジやピンク、薄黄色とか。
季節によって色が決まるみたい。
私達のところは、ずっと冬だから、白黒とか、淡い水色だったんだね
これ知った時、ちょっとテンション上がっちゃったよ
それぐらい私にとって、の大発見だったんだ〜!!
ヴィアラにお供してくれる人、出会える様に祈っとくね!』
思いっきりあたってるセウヌスの日記が、未来予知したみたいでちょっと怖かった。凄いベストタイミングだったけど、恐らく偶然だろう。多分きっとそうだそうに違いない。でも何か魔法とか使ってるようには見えない。念じる力って凄いね。なんて遠い目をして現実から目を背けていた。
やれやれ、これからの旅路は大丈夫なのだろうか。