セウヌスの日記と始まり
初投稿です。お目汚し失礼します。
拙い文でありますが、読んでくださったら幸いです
僕達が住んでいるこの世界には夏がやって来ない。春も、秋も。この世界に季節の移り目なんて物はとうの昔になくなった。だから、ずっとキラキラと白く輝くこのモノクロな世界しか僕らは知らない。
ここは所詮並行世界からは異世界と呼ばれる場所だそう。その並行世界の人間の創作のように、あまり愉快なものではないと思っている。
まあ、魔法も使えるような人間だって大昔には大勢いたらしい。でも、魔法が使えない人間によってその数はどんどん減らされていき、今では本当に一握りの人しか使うことが出来ない。
魔法だって勉強のように、適正がある人、ない人が居る。使える人は滅多にいないので、魔法が使えると知られれば、羨望の声、媚びへつらう周囲の人間の声・視線・態度。そんなものにうんざりしてそのまま退屈に人間としての生を終える人ばかりだ。
でも、僕の友人はそんな魔法が使える。教えてもらった僕も、魔法が使えるようになった。簡単なものしか使えないけど、こんな僕にも少しでも適正があると知ればやはり嬉しいものだ。
僕の魔法での適正を知った友人は、とても悲しそうな、堪えるような辛い顔をしていた。僕はその顔が不思議で堪らなかったので、よく覚えている。
他人事のように説明するんじゃなくて、彼女の事を一個一個思いだそう。
容姿端麗、文武両道、愛想もよく、まさに世間様で言う”優等生”なセウヌス。
それに比べ、僕はどうだ。容姿も普通で、勉強も運動も平均的。人と話すのも苦手。
正しく正反対という言葉が相応しい僕達は、二人して本が好きだった。本には、人の考える心の内が事細かに書かれていたり、誰も予想できない様な展開で、まるで自分が主人公になったかのような視点で見ることができるので、感情移入しやすいし、沢山の魅力がある。二人はだから、とても本が好きだった。
そんな二人は、学校にある閉架図書室へ赴き、一緒に勉強会をしたり、おすすめの本を交換したり等、図書室なので静かに過ごす事が多くなっていった。
そんなある時、閉架図書室の端っこの棚にホコリをまとって置いてある異質なオーラを纏っている本、所詮、『魔導書』と呼ばれる分厚い本を手に取るセウヌス。その瞬間、光がセウヌスを包みこんで、セウヌスをスポットライトに当てられたように、光を全身に纏っていた。暫くして消える光の粒達に別れを告げ、直ぐ様セウヌスの安全を確認していた。セウヌス本人には無事だと言われたが、とてもそうは思えなかったが、セウヌスと口論はしたくないので、僕の言いたげな口を謹んだ。
ある程度の魔法を教えてもらったその後、ごめんなさいと泣きながら謝って、僕に教えた魔法で『殺して』と強請っていた。僕に出来るのならとその場でさっと魔法で君の胸に高圧な電流を流した。一回で死ぬように。長く苦しみを与えないように。涙で歪む視線と本人が望んだとしてもやはり人を殺すのは心に大きな後遺症が残る。だから、自ら犯した罪、殺人がバレる事を恐れ今まで生きている。
初めて出来た友人のセウヌス=ウィウニー。
そんな僕の友人であり、理解者であるセウヌス=ウィウニーから手渡された、最後の日記をここに記す。
『拝啓、私の友人、ヴィアラ・エニュー様へ。
私があなたに出来ることはなんだろう。 とふとした瞬間にずっとぐるぐると考えます。
あなたへ向けるべき感情は、慰め?同情?私にはわかんないかな。
何であの時君に魔法を教えてしまったのだろうといつも後悔しています。
その腹いせに恨んでくれたほうが幸せとすら思っています。
あなたが苦しんだ分だけ僕に感情を向けると良いでしょう。
まず、魔法は、本来禁忌とされるものでした。
魔法は、自分自身の精神や感情をすり減らして使用する、呪いのようなものです。』
途切れたページの合間には、何ページも千切られている後があった。何度も書き直したのだな、と誰が見ても解る程にあからさまに。
魔法を教える時に辛い顔をしているのは、そういうことだったのか。…なんて、この文章を読んで最初に出てきたのは何処か達観したような感じ方で。ーーーまるで他人事のように。
亡き友に向ける感情はいつだって心に深く残っている。この文章を読んで、今まで見て見ぬふりをしていた彼女への恋煩いを思い出し、密かに目尻に熱が灯り始めていた。これ以上は駄目だと思い、自責の意味で自身の指に微かに電流を流した。痛みで我に返ると、早く次のページを読もうと現実から目を背けようとした。
『精神や感情を生贄に使う呪いで、使う分の感情が足りなくなったら寿命を使います。
砂上に乗せた石のように、潜り込もうと必死に頑張って時間をかけたのに、
砂に埋まった後は抜け出そうと思えどそう簡単には抜け出せない。
少しづつ砂で削られていっていつしか砂になってしまう。
ちょっと解り難い事を言ったね。
じゃあさ、君は知ってるかな。この世界に雪解けが来ない理由、春がやって来ない理由。
その理由を私は知ってしまったんだ。君にもきっと分かるはずだよ。
そこで、君には自由に旅をしていってほしい。
まだ四季がある地域が有るはずだから。そこを目指してね。』
ポタポタと数滴、水でもこぼしたのか、数滴ほどの水が乾いたような跡があった。きっとこの文を書いている合間に泣いていたのだろう。涙で滲んだ文字の数々を、僕はただ読むことしか出来なくて。
亡き友人の隠した理由を、僕は知らないけれど。この日記、いや僕に向けて書かれた文章を。彼女の遺志を僕は達しなければと早速行動へと移す。
はあ、と溜息をつくと、直ぐ様吐き出した息の分、白い息が出る。ずっと前、君と一緒に見たこの懐かしい現象。もうここには君がいなくて。でも、それを嘆いたとて、何も変わらなくって。変わらないことだ。人はどう足掻いても生き返ることは叶わない。この常世の法則だ。
君が望むのなら、僕は何処へだって行こう。
何処へ行ったって、僕は君のことを永遠に忘れはしないんだろうけど。