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繋がらない電話

作者: 雪月

 目の前には1,200粒の睡眠薬。昨日、薬局を数店舗回って買ってきたものだ。一店舗だけで買えれば楽だが、一度に何個も買うと怪しまれる。だから、貴重な休日を潰して薬局を巡った。

 これでやっと、このクソみたいな世界ともおさらばできる。薬を集めるために約10,000円も掛かったが、これで死ねるなら安いものだろう。

 本来、薬は水で飲むのが正解だが、今は水の気分じゃない。そうだ、酒で飲もう。我ながら天才だと思う。薬とアルコールを合わせてはいけない、と聞いたことはあるが、どうせ死ぬんだ。どうでもいいだろう。私は、鼻歌を歌いながら冷蔵庫を開けた。

 「酒がない......!?」

 最悪だ。この前、親がストックを飲み切っていたのを忘れていた。だが、もう酒の口だ。仕方がない。コンビニに行こう。そう思い、私は1万円を握り締め、家を出た。



 「あっつ......」

 薬局に行ったときは雨で気が付かなかったが、晴れの日はこんなに暑いのか。引きこもりの体には堪える。本当なら、今すぐ家に帰ってクーラーのある部屋で涼みたいが、これも最後だ、と思いコンビニに向かって歩く。

 3分程度歩いたらコンビニに着いた。家のすぐ近くにあるというのがコンビニの利点だと思う。

 「......いらっしゃっせー」

 やる気のない店員の声とコンビニの冷気が私を出迎えてくれる。私は、一目散に酒売り場まで行き、ビールやらチューハイやらをカゴに投げ込んだ。そして、それをレジに持って行く。店員はバイトの大学生だろう。慣れた手付きでバーコードをスキャンしている。

 「レジ袋ご利用っすか?」

 そうこう考えている間に全てスキャンし終わったらしい。

 「お願いします」

 そういえば、1万円札以外持って来なかったな。エコバックとスマホくらいは持って来れば良かった。

 「以上23点で4531円っす。年確お願いしゃーす」

 そう言われて私は年齢確認のボタンを押し、1万円札をトレーに置いた。というか、年齢確認はボタンを押すだけでいいのか?、といつも疑問に思う。あと、お金を乗せるトレーは、「カルトン」と言うらしい。こんな豆知識を知っていた所で、どうすることも出来ないが。

 「あざっしたー」

 そう言って酒とおつりを渡される。おつりは小銭が多く意外と重い。また、酒は言わずもがな重い。そして、自動ドアが開くとモワッとした空気が、私を出迎えてくれた。正直、この暑い中外に出るくらいなら死んだほうがマシだと思うが、死ぬためには家に帰る必要があるので、頑張って歩く。

 さっきの店員、接客態度が最悪だったな~とか、タバコも買っとけば良かったな~とか思いながら歩いていたら家に着いた。

 やっぱり家は涼しくて快適だ。さっそく酒を一口飲んでみた。これはコンビニ限定のものらしい。

 「意外と美味しい......」

 こんなに美味しいなら、もっと早く飲んどけば良かった。ゴクゴク飲める。あっと言う間に1本飲み切った。

 「さて、そろそろ薬を飲むか......」

 20粒程度薬を手に出し、口に入れ、噛み砕く。そして、それを酒で流す。これを繰り返す。薬は効くまでに30分〜1時間近く掛かるそうだ。それまでに1,200粒全てを飲み切らないといけない。きっと無理だろうが、せめて致死量以上は飲みたい。



 薬を飲み始めて約30分が経った。多分、300粒くらいは飲めただろう。気持ち悪い。吐きそうだ。だが、吐いたら死ねないだろうと思って必死に我慢する。頭がグワングワンして気持ち悪い。

 その後、30分が経った。追加で100粒くらい飲めた気がする。さっきよりも気持ち悪い。もう立てない。いよいよ死を覚悟した。

 その時、ある言葉が脳裏を過った。「死にたくない」嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。まだ死にたくない。助けて。私は必死にスマホで電話を掛けようとした。119と打とうとしたが、手が震えて上手く打てない。その時、通話履歴に一つの連絡先が残っていた。「いのちの電話」私は最後の望みを掛け、そこに電話を掛けた。

 薄れゆく意識の中、声が聞こえた。

 「ただいま、回線が混み合っております」

 そういえば、数年前、私が何百回掛けても繋がらなかったな。

 それを最後に私の意識は途切れた。



 「次のニュースです。東京都で17歳女子高生の死体が見つかりました。彼女はオーバードースで自ら命を絶った模様です」

「皆様は、自ら命を絶ってしまう前に『いのちの電話』等にご相談下さい」

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― 新着の感想 ―
現代の闇を感じられる良い作品だと思いました。 これからも頑張って下さい。
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