『administrator』の続き
評価や感想ありがとうございます。
やっぱりもらえるとうれしいです。
『administrator』の続きはイベントムービーから始まった。
「ほら! リスナーさん見て! レイチェルの服! めちゃくちゃ可愛いですよね!」
「前回の振り返りの時に話したお洋服です。小さい礼ちゃん、とても愛らしいですね」
「小さい礼ちゃんって呼ぶのやめて」
「やめない」
「んむあっ」
「礼ちゃん暴れないでっ……」
〈かわいい〉
〈うんwかわいいねw〉
〈お嬢がかわいくて草〉
〈レイラ嬢が一番かわいいw〉
〈めっちゃかわいいよな〉
〈外見だけは完璧なレイチェルだからな〉
〈まじでかわいい〉
〈お洋服気合い入りすぎだろw〉
〈また怒られてて草〉
〈やめないw〉
〈悪魔兄妹しか勝たんw〉
〈拒否したw〉
〈てぇてぇ〉
〈てぇてぇなぁ……〉
〈勝たんしか悪魔兄妹〉
ショッピングモールを命からがら脱出した主人公とレイチェルの二人は、ゾンビの目を掻い潜るようにしてさらに歩みを進める。途中、ゾンビの数が多すぎて隠れて進むことができない道があったので、その道を迂回するように工場地帯に入った。
工場地帯にはゾンビの数は比較的少なく、かつ姿を隠すような遮蔽物も多くあったので安全に進んでいたが、ここにきて見るからに怪しい第三勢力が現れた。
暗い色彩の迷彩服に身を包み、その上からベストやアーマーなどを装備して、主人公とは比較にならないほど強力な銃器を持った集団。連携の取れた動きから察するに、この手の展開にはお決まりの特殊部隊だろう。
主人公とレイチェルが逃げ込んだ工場地帯に第三勢力の特殊部隊の隊員たちも参戦してきた、というところでムービーが終了。主人公の視点になった。
「……きっとあの隊員さんたちも敵だよね?」
「さあ、それはどうだろ? お兄ちゃん次第じゃない?」
「むっ……礼ちゃんが含みのある言い方で誤魔化す。ということは、おそらくルートによってはあの隊員さんたちと共闘することもある、というところかな?」
「察しがよすぎるっ! 察しがよすぎるよお兄ちゃんっ! 私そんなネタバレになるようなこと言ってないよね?! ねえリスナーさん?! 私ヒントになるようなこと言った?!」
〈怪しくて草〉
〈確実に悪い奴らやん〉
〈敵かなー味方かなー〉
〈どっちだろうねー?〉
〈するどw〉
〈読み鋭くて草〉
〈大正解w〉
〈お嬢悪ないわこれw〉
〈お嬢は悪くないよw〉
〈相手が悪かったw〉
「これからは元人間様に加えて特殊部隊の隊員さんにも見つからないように進むことになるようですね。頑張ります」
「がんばってね、お兄ちゃん。大変だろうけど」
「隠れながら進めばいいだけでしょ? スニーキング系は普段やらないけど、見つからないようにするなら射線管理と考え方は同じだよね。さ、小さい礼ちゃん、気をつけて進もうね」
「今だけだよ、そうやって優しくできるのは。今のうちに小さい礼ちゃんとやらをかわいがってるといいよ」
〈隠れんぼがどこまで続くかな〉
〈兄悪魔なら行けそうな気はするw〉
〈ここ進める配信者見たことない〉
〈声優しすぎw〉
〈まじで声やさしいw〉
「大きい礼ちゃんのことは気にしないでいいからね。ゆっくり進んだらいいからね」
「私のこと大きいって言うのやめてよ! 大きい小さい以前に私しかいないよ礼ちゃんは!」
「あははっ、ふふっ」
〈お嬢辛辣で草〉
〈気持ちはわかるけどw〉
〈大きいレイちゃんw〉
〈草〉
〈それはそうw〉
〈大きいも小さいもないのよねw〉
レイチェルの隣に立つと、レイチェルは主人公の顔を見上げながら小さな手を伸ばした。その手を包むように握る。手を繋ぎながら歩き始めた。
「わあっ……小さい礼ちゃん可愛いっ」
「ふ、ふんっ! はたしていつまでその優しい態度が持つかな?! その余裕がいつ崩れるか、楽しみだよ!」
「なんで急にそんな小悪党みたいなことを……」
〈かわいい!〉
〈かわいっ〉
〈レイチェルこんなにかわいかったんか〉
〈お嬢妬いとるやんけ!〉
〈あんまりレイラ嬢いじめないであげて〉
〈やられ役やw〉
〈いつ見限るか見ものではあるw〉
レイチェルの手を引きながら、工場のパイプやコンテナで視線を切って進んでいく。
礼ちゃんやリスナーさんはなにかのイベントを期待していたみたいだけれど、特にこれといってアクシデントが起きることもなく、順調に工場地帯を攻略していく。スニーキングやステルス系の要素もあったのかこのゲーム。
「…………」
「あっちから視線があって……こっちの元人間様が邪魔だから石ころ投げて、向こうに誘導して……よし。さ、小さい礼ちゃん行こうねー」
〈なかなか足止めないな〉
〈ずっとついてきてる〉
〈なんで?〉
〈ご飯食べたからか?〉
〈めっちゃ順調で草〉
〈射線管理技術が効いてる〉
〈判断早いな〉
「なんなの!」
「わあ。なんなのはこっちのセリフだよ。どうしたの、礼ちゃん。急に大きな声出して」
〈びっくりした〉
〈なん〉
〈びっくりしたw〉
〈なんだどうした?〉
〈兄悪魔なんで驚かんねんw〉
〈義務わあやめろw〉
〈わあ草〉
〈義務びっくりやんけw〉
突然大声を出して怒りだした礼ちゃんに驚いて訊ねた。リスナーさんもびっくりしてしまっている。
「だって! だってこいつっ、お兄ちゃんといる時だけ素直に言うこと聞いてる!」
「こいつって言うのやめてあげて。……ん? 素直に言うこと聞いてる? どういうこと?」
「私がやってる時はレイチェルぜんぜん言うこと聞いてくれなかったの! こいつっ、人を見てる!」
「そんなことないでしょ。小さい礼ちゃんは頑張り屋さんのいい子だよ」
〈こいつ呼ばわりw〉
〈でもたしかに素直だな〉
〈めっちゃ言うこと聞いてる〉
〈もっと動き止まってたはずだけど〉
〈人見て指示に従うのは草〉
〈イケメンの指示には従うのか……〉
〈ほんなら俺の言うこと聞かなかったの納得だ……〉
〈カメラとマイク使うゲームだったのか〉
「お兄ちゃんに色目使ってるんだっ!」
「もっとないよ。どういうこと色目使ってるって」
「お兄ちゃんの好感度稼ごうとしてるんだっ!」
「僕がレイチェルの好感度稼ぐんじゃなくて、レイチェルが僕の好感度を稼ぐんだ……。斬新だなあ……」
〈色目www〉
〈相手子どもやぞw〉
〈そういえばこれだけ甘やかしてるのにロリコンっぽくないなこの悪魔〉
〈必死で草〉
〈兄悪魔は子どもが好きなんじゃなくてお嬢が好きなだけ定期〉
〈これはエンヴィです〉
〈嫉妬の悪魔w〉
〈レイチェルがデレてるな〉
礼ちゃんが言うには、レイチェルはプレイヤーの言うことを聞かない我儘な子らしい。リスナーさんも礼ちゃんの言い分を支えるようなコメントをしていた。
きっと礼ちゃんもリスナーさんも嘘をついてはいないのだろうけれど、主人公と手を握っているとっても可憐なレイチェルは一度も我儘なんて言ったことがない。僕が知っている限りのレイチェルの我儘は前回やった時の回想シーンにしか存在しなかった。
どういうことなんだろうと考えて、一つの可能性に思い至る。
「この泥棒仔猫! お兄ちゃん離れたほうがいいよ! きっと貢がせようとしてるんだ!」
「お洋服なら貢いでるけどそんな子じゃないってば」
「ほら! 貢がせようとしてるんだ! 今すぐ別れるべきだよお兄ちゃん!」
〈泥棒こねこw〉
〈泥棒猫にしては小さいもんねw〉
〈草〉
〈かわいさ響いてるんだよなw〉
〈貢ぐってなんだよw〉
〈貢いでて草〉
〈服あげてたわw〉
〈悪い女に騙されてるのよ!〉
〈草〉
「別行動しろってことかな? 交際してるわけじゃないからたぶんそういうことだよね。いや別行動もしないけど。いくつか訊きたいんだけど、レイチェルが素直に言うこと聞かないっていうのは、具体的にどんな感じで?」
「具体的にって……ついてこいって指示してもついてこなかったり、急に視線の通る開けた道で立ち止まってしゃがみ込んだり、とか。逆に待てって言ったのについてきたりとかもあったかな」
〈完全に付き合ってるかのような言い方で草〉
〈歳の差いくつよw〉
〈ここで別行動は悪魔こえて人〉
〈予兆もなく停止するから困るんだ〉
〈時間なのかと思ったけど違ったんだよなー〉
「ふむふむ……。礼ちゃんの時はレイチェルにお洋服買ってあげた?」
「買うわけないよね。当たり前にガンショップ行ったよ」
「なるほどなるほど……。ショッピングモールの時、フードコートには寄った?」
「寄るわけないよね。ぜんぜんドラッグストア行ったよ」
「うーん……それじゃない?」
「なにそれっ?! レイチェルの好感度稼いでないと言うこと聞かないのっ?! 私たちは善意で研究所まで送ってあげようとしてるのに!」
〈まぁアパレルショップは寄らんねw〉
〈ふつうの人間は銃なかったら進めないんだ〉
〈フードコート寄るの兄悪魔くらいだろw〉
〈一般人はモールの敵の数見てびびって回復アイテムほしがるんだわw〉
〈なんならモールの二階を通らなきゃ選択肢も出てこないし〉
〈マスクデータがあるのか〉
〈好感度w〉
〈ギャルゲーで草〉
〈たしかに命がけで運んでるってのにな〉
礼ちゃんは好感度と表現したけれど、僕の推察だとその表現は適切ではない。言うなれば、サバイバルゲームでいうところのスタミナゲージなどに近いのではないかと考えている。
「好感度みたいな感じじゃなくて、もっと人間っぽい理由だと思うんだ。可視化されてないけど、もしかしたら内部データでレイチェルにはスタミナとかエネルギー、体温とかが設定されているんじゃないかな」
「人間っぽいっていうわりに使われてる単語には人間味がないんだね……」
「他の人たちの服装からしてゲーム内の時季は冬みたいで、最初のレイチェルの服装は明らかに部屋着だったよね。そんな服装ではとても体温の漏出を防げない」
〈急にゲーム的な考え〉
〈シンプルにお腹空いたからって言えんのかw〉
〈悪魔には人間の体調はパラメータにしか見えないのかもしれない〉
〈説明に血が通ってないんだよね〉
「まぁ……そうだね。お兄ちゃんもレイチェルが寒そうにしてたからアパレルショップ寄ったわけだし」
「そう。そしてあの家には見た感じ食材が用意されていなかった。きっと普段はハウスキーパーさんが食材を買ってきて調理してたんじゃないかな。でもこんなパニックホラーみたいな騒動が起きちゃったからハウスキーパーさんは研究員さんの家には行けなかった。だからレイチェルは朝ご飯も食べられずに家を出ることになった」
「たしかあの時、お兄ちゃん探してたもんね。レイチェルの朝ご飯。だけどあのお家にはなかったから諦めて出発した、って感じだったはず」
〈言ってたわ〉
〈ご飯ないねーって言ってたな〉
〈繋がんのか〉
〈意味があったのか〉
「よく憶えてたね。そうだよ。ここで礼ちゃんのルートのレイチェルの状態を再確認すると、防寒具なしの部屋着で食事も摂れずに長時間活動していた、ということになる。エネルギーを補給できてないから体温を上げられない。きっと長時間歩いた疲れなんかも考慮されてるんじゃないかな。そりゃあ疲れ果てて屈みこんじゃうよね」
「はあー……だから好感度よりもスタミナとかエネルギーってことなんだね。実は家を出た時から目には見えないけどレイチェルのスタミナだか体力だかのゲージは徐々に削られてて、このマップで体力が尽きて立ち止まったりしていた、と」
「そういうことなんじゃないかなって僕は思ってるよ。そう考えると、僕のルートでレイチェルが言うこと聞いてくれてることへの辻褄は合うしね。お洋服で体温の減少を抑えて、フードコートでカロリーの補給。ついでにショッピングモールのアパレルショップで休憩もできてたしね」
「そういえばお兄ちゃんあのお店でレイチェルに回復アイテム渡してた! うわーっ! そういうことなの?!」
〈いろいろ考察してたもんな〉
〈兄悪魔ドアノブとかも見てたしな〉
〈はー考えてんなー〉
〈何周もしてるんじゃないんだぞこれ〉
〈モールの休憩は意味があったのか〉
〈回復渡してたわ!w〉
「実際はわからないけどね。そう考えることもできるよねってだけで。だから何が言いたいのかというと、小さい礼ちゃんは我儘な子じゃないよってこと」
「結論はそこに着地するんだ……」
〈レイチェルの風評被害を防ぎたかったんだなw〉
〈いい子だよって言いたかったわけねw〉
〈結論レイチェルに甘いお兄ちゃんで草〉
たくさんのルートがあって選択肢によって枝分かれしていくこのゲームを、僕はまだ一周しかしていないから裏づけは取れていない。確証はないけれど、礼ちゃんの話と照らし合わせるとこういう見方もできる。
僕は違うルートを進むつもりはないので、検証は他の人にお任せしよう。
なんなら情報サイトにはルートの条件などは載っているんじゃないのかな。きっとコアゲーマーがすべてのルートを解明してくれているはずだ。雑談の件でも多くのリスナーさんが自制してくれていたことだし、おそらく知っているリスナーさんはネタバレ防止という意味でコメントを控えてくれてるんだろう。
「ん? なんだか趣が違うところにきたね」
「ゾンビにも軍人たちにも見つからずにここまでこれるんだ……」
似たような風景が続いていたけれど、それが途切れるように広い空間に出た。ここまでの隠密潜入とは雰囲気が変わっている。
イベントが発生するポイント的な気配を感じていると、予感は的中した。プレイヤーの操作を離れ、イベントムービーが流れた。
「やっぱりイベントなんだね」
「スニーキングはここでおしまい。いや本来ならもっと早くに終わってるんだけどね」
「礼ちゃんの時はどんな感じだったの?」
「私の時はこのマップに入ってわりとすぐにレイチェルが軍人に見つかって、ばちばちの銃撃戦になったよ。レイチェルは泣き出して指示をさらに聞いてくれなくなるし、ゾンビもたくさんくるし、隊員たちは武器強いしアーマーあるし回り込んでくるしで大変だった」
「へえ……ルートによっては展開がそんなに違うものなんだね」
「ぜんぜん違うよ。今もぜんぜん違っててびっくりしてる」
そんな話を礼ちゃんとしている中、画面では主人公とレイチェルが一緒に物陰に身を隠すところが流れていた。
「……鉄錆と砂埃で全体的に褐色っぽい画面の中で、小さい礼ちゃんの服はだいぶ目立つね……」
「ほんとにね。場違い感すごいよ。街に出かけるみたいな服してるのに」
〈ここからどう立ち回るんだ〉
〈ピストルでしのげるのか?〉
〈草〉
〈目立つw〉
〈ばか浮いてて草〉
〈かわいいけどw〉
〈工場でその服はあかん〉
〈ひっかけそうで怖い〉
〈めっちゃ目立つやんw〉
小休止を挟んでいた主人公とレイチェル。二人が潜んでいたその物陰は地上からは死角になっていて安全かと思われたが、高所からは容易く見つかってしまう場所だった。
頭上にいくつも通っている太いパイプの上にいる隊員に、二人は気づかなかった。
高所を陣取る隊員は仲間に主人公の位置を報告しながらライフルの銃口を向ける。
主人公は咄嗟に射線が通らないところへレイチェルを突き飛ばして、ここでイベントムービーは終了した。
レイチェルを守ったのは評価するけれど、高所への警戒を怠った主人公には辟易する思いである。高所にいる敵との戦闘なんて分が悪いにもほどがあるのだから、もっとも警戒しなければならないポイントだ。僕は移動しながらも工場の屋根や、工場と工場を繋いでるパイプにも注意を払っていたというのに。
しかも小さい礼ちゃんを突き飛ばしている。これでは僕的な評価はプラマイでマイナスだ。小さい礼ちゃんになんてことするんだ。
プレイヤーの技術や警戒がまるで関与できないところで劣勢に追い込んでくるのはやめてほしい。
「イベントムービーが挟まるたびに窮地に追い込まれてる気がするよ」
アクションらしい選択肢がポップした。久しぶりに見た気がする。
選択肢は『銃を構える』と『隠れる』と『前進する』の三つ。
最後の『前進する』というのはあえて遮蔽から出て隊員さんに近づくということだろうと判断し、真っ先に候補から除外した。
本当なら銃は使いたくなかったけれど、使う以外に選択肢がなかった。
『隠れる』というのは一見安全策なように思えるが、頭を抑えられている状態で相手の姿を見失ってしまうとこちらの動きが制限される。ここからはおそらく遮蔽物の少ない広場に出ないといけない上、こちらは小さな女の子を抱えているのだ。走ってしまうとレイチェルがついてこれない。
撃ち始めが遅れているし地形も不利だけれど、敵が姿を見せているここで確実に仕留めておかないとジリ貧になる。
操作できるようになった瞬間に銃を構えて引き金を引いた。
「はやああっ! ヘッショ早すぎるよっ! お兄ちゃんっ!」
「撃ちたくなかったんだけどね……。でも隊員さん相手にもヘッドショットで一発なのを知れたのは収穫かな」
〈ええええ〉
〈は〉
〈はっや!〉
〈すごすぎいい〉
〈一瞬やんけ〉
〈えぎい腕だな……〉
〈神エイム〉
〈相変わらずの腕〉
〈ここまで撃ってこなかったのによく頭合わせたな〉
〈うますぎいいいい!〉
〈すげええええ!〉
〈フリック一発かよw〉
〈クリップ級のエイム〉
〈相手一発も撃っとらんw〉
これまでゾンビの足音くらいしか聴こえなかった工場地帯に炸薬の爆ぜる音が鳴り響いた。遅れて、どさっと軍人が地面に落ちる音。
銃声にすぐさま他の隊員たちは反応した。パイプの上にいた隊員はすぐに撃ち殺したけど、それでも報告は届いていたのだろう。確実にこちらの居場所を把握した上でライフルを乱射してきた。
「まずいなあ……。足止められると、元人間様から逃げられない……。隊員さんたちをすぐに排除したほうがいいかな」
「ピストル一丁で戦えるのー?」
「ADZでもピストル一つで戦ってきたんだから戦えるし、それに守るよ」
「かっこいい……」
〈装備差えげつないぞ〉
〈弾幕えぎいw〉
〈人数も銃もアーマーも差がある〉
〈いつ顔出せるんだこんなの〉
〈お嬢w〉
〈がちかっこいいが出てもうとるw〉
〈がちトーンで草〉
〈これはかっこいい〉
〈イケボ注意!イケボ注意!〉
〈こーれ男でも効きます〉
〈めちゃくちゃかっけーよ〉
ADZでの基本戦術『同じ場所から顔を出さない』に則って遮蔽に沿って、警戒されてなさそうな位置へと移動する。
銃を構えながら顔を出す。一発受けた時のダメージを僕は知らない。もしかしたら銃弾一発でゲームオーバーになる可能性を踏まえ、ADZの強化兵士と同じレベルだと想定して動く。
ピークして、敵を見つけて、エイムを合わせて、銃を撃って、相手が撃ち返してくる前に遮蔽に隠れた。
「とりあえず一つ」
やることの一つ一つはFPSの基本的な操作だ。それに銃弾の一発も受けられないというシチュエーションはADZで慣れている。
なにより小さい礼ちゃんという守るべきものを背負い、目の前というか膝の上で礼ちゃん本人が僕のプレイを見守ってくれている手前、負けられない。いつも以上に集中している。難しいことではない。
「えっ……さっきの倒したの?」
「倒せたよ。頭入ってる」
「画面見てても見えなかった……」
〈?〉
〈はやすぎ〉
〈見えん〉
〈FPS配信か?〉
〈ピストルの動きじゃない〉
〈草〉
〈バケモンで草〉
〈撃った弾あたるまえに隠れてね?〉
〈はやすぎる〉
〈兵隊の反撃遅すぎやろw〉
〈悪魔が速すぎる〉
さっき顔を出したところが銃弾の雨に打たれている音を背中で聴きつつ、またポジションを移動する。
やることは同じだ。遮蔽から出て、敵を見つけて、照準を合わせて、撃ったらすぐに隠れる。
二人目を取れたけど、嫌な光景も見てしまった。
「二つ。……増援は厳しいなあ」
「そう、そうだよっ! 兵隊たちはいくらでも出てくるし、それに敵は兵隊たちだけじゃないよー!」
「元人間様もいるんだもんね。……弾、足りるかな」
「ぜ、全員殺す気だ……」
〈時間かけりゃまじで勝てる〉
〈増えんのかよ〉
〈無限湧きだ〉
〈目的地着くまで出続ける〉
〈ゴリ押しが正義なんだよなー〉
〈ゾンビもいるしな〉
〈強すぎて草ぁ!〉
〈ゾンビ呼んでない〉
〈草〉
〈ピストルで全滅させる気かよw〉
〈泣いてねーな〉
〈全員やりかねん〉
〈やれそうで草〉
〈不安とかないんかw〉
〈びびる〉
〈兄悪魔は銃持つゲームに強すぎる〉
〈レイチェル泣かない?〉
「また移動して……撃って、三つ。どこかで打って出ないと状況が変わらないか……」
「ほんとだ……レイチェル泣いてない」
「ん? どういうこと?」
「兵隊たちと戦い始めたらレイチェル泣いてたの、私の時。なのに泣いてない。なんでー?」
「……それって、ショッピングモールの時は? 泣いてた?」
「いや……泣いてなかったはずだよ。このマップにきて兵隊たちと戦い始めたら泣き出してゾンビ湧きまくって、なんだこいつっ……って思ったからよく憶えてる」
「間近で銃撃戦始まったら普通の感性してる子どもは泣いちゃうと思うから許してあげて……。それにしても、ここでってことは……」
〈弾が減るだけや〉
〈ノーミスで草〉
〈ヘッショ外さんな……〉
〈ノーダメかよw〉
〈そういえば泣いてない〉
〈泣かないパターンあるんだな〉
〈これも好感度上げたおかげか〉
〈草〉
〈わかるw〉
〈ヘイトたまるよなw〉
〈いらっとするよねw〉
特殊部隊の隊員がこちらに近づいてこないよう一人ずつ摘み取りながら考える。
礼ちゃんと僕では取った選択肢がまるっきり違うようだし、ショッピングモールや工場地帯など同じ道を通ってはいても、ストーリー的な意味でのルートはおそらく同じではない。
それを念頭に置いて、選択肢のあったポイントを思い浮かべ、レイチェルが泣き出すことと銃というワードが重なるところ。そんなの一箇所しかない。
「お兄ちゃん? なにかわかったの?」
「うん。礼ちゃん、研究員さんの家にいた強盗犯、銃で撃ったでしょ」
「え? う、うん。そうだけど……。銃で撃つっていう選択肢があるんだし……」
「きっとそれが理由だね。トラウマになっちゃってるんじゃないかな」
「えっ?! PTSD?! 私のせいで?!」
〈考察の悪魔〉
〈なんで喋りながらこんだけ撃てんだ〉
〈特殊部隊無限殺戮編〉
〈ピストル一本で抑えてんの草〉
〈見えないんだけどw〉
〈エイム早すぎだろw〉
〈あー〉
〈あったね〉
〈兄悪魔は殴ったな〉
〈トラウマかー〉
〈そこでフラグがあったのか〉
〈でもあそこのアクションむずいし……〉
〈クリアするだけなら銃が一番楽〉
〈PTSD……〉
〈おおう〉
「PTSD‥…うーん、この場合は急性ストレス障害だと思うけど、まあ細かい話はいっか。礼ちゃんのせいっていうか、そもそもの原因はあの強盗してた男だけどね」
「で、でもなんでショッピングモールでは泣かなかったの? 結局銃撃ってるし、お兄ちゃんほどじゃないけど私もヘッドショットしてたのに」
「それは僕もわからないや。精神的なストレスが積み重なって工場地帯で爆発したのか。一番ありえそうなのは、元人間様なら言葉が通じないからまだセーフ判定なのかなって。元人間様になっていない、言葉が通じる相手を撃つのがダメなのかもしれない」
「あー……それはありそう……。でもしょうがないじゃん! ふだんはFPSやってて、選択肢に銃が出てきたらそりゃ銃選ぶよ! 得意なんだもん!」
「あははっ、たしかにね。先手が取れる状況だったし、十メートルもないあの距離だしね。あの選択肢は、FPSに自信があればあるほどひっかかっちゃいそうだ」
〈トラウマにもなるか〉
〈目の前で頭弾けたらそりゃあな〉
〈でもあっこのコマンドむずいんだよ〉
〈どっちもありそうだね〉
〈選択肢次第でここ通れるか決まるって感じか〉
〈このゲーム工場通す気ねーからな〉
〈情報サイトでは関所って呼ばれてる〉
〈FPS得意なら撃ちたくなるよねw〉
〈実際お嬢強かったしw〉
〈兄悪魔も銃使ったら秒だったろうな〉
〈ゲームうまくないと進めないのにうまいと引っかかる〉
〈罠だろあの選択肢〉
〈兄悪魔が特殊な例すぎる〉
礼ちゃんとのお喋りを楽しみつつもどうにかこの状況を打開する策を考えていたけれど、どうにも難しそうだ。
隊員たちを近づけさせないことはできるけど、裏を返すとそれしかできない。
レイチェルを連れて遮蔽物から出られるほどには数を削れないのだ。削ってもすぐに補充される。隊員の数を減らさなかったらもしかしたら数は増えていかないのかもしれないけれど、牽制し続けなければ接近を許すことになる。あの隊員たちのエイムはADZの強化兵士ほどに研ぎ澄まされていないけれど、距離を詰められればそれだけ被弾の可能性は上がる。
隊員を殺さずに放置して増援がくるのかどうか検証したいけれど、その場合隊員に接近を許すことになり、ひいてはレイチェルの身が危険に晒されることに繋がる。
そんなリスクは冒せない。
「……こんな博打みたいなことに使うの嫌なんだけどなあ……」
「ここからどうするの?」
「こういう時のための投げ物だよね」
牽制してた時と同じように遮蔽物から顔を出し、今回は銃ではなくアイテムを使用する。レイチェルに服を貢いだ時にもらったスタングレネードを投げ、再び遮蔽物に隠れた。
工場地帯とはいえ屋外で、しかも装備を整えてそうな特殊部隊の隊員にどれほど効果があるかわからないけれど、効果があると信じる。
「あっ、それってレイチェルからもらったやつ?」
「そう。敵の数を減らしても減らした端から補充されるから、それならいっそ減らさないで足を止めたらいいのかなって」
「どうなんだろ? これでも増援くるのかな?」
「わからない。でももう他に手段はないからこれで進む」
「えっ?!」
隊員たちがどうなったか確認もしないまま、レイチェルに話しかけてついてきてもらう。
スタングレネードが効いている前提で動かなければ、結局のところ手詰まりなのだ。増援がくるかどうか、スタングレネードが刺さっているかどうかの確認に時間を使ってしまえば、その時間で隊員たちは閃光と音による混乱状態から復活してしまう。
混乱から復活してしまえば、アイテムを消費した状態でさっきの千日手に逆戻りだ。それこそ打開の方法がなくなる。行き着く先は緩やかな死だ。
それなら、ここで動くのは分の悪い賭けでもなんでもない。勝ちの目を追い求める挑戦だ。
「あんまり無理はさせたくないけど……小さい礼ちゃん、ここだけ頑張って」
「がんばれ! 走れレイチェル!」
〈まじか〉
〈進むんか〉
〈がんばれ!〉
〈レイチェルがんばれ!〉
ゾンビにも狙われ、助けにきてくれたのかと思いきやなぜか特殊部隊からも狙われ、精神的にも肉体的にも疲労は限界にきているはずだがレイチェルは頑張って走ってくれた。
しかも、どうやらしっかりとスタングレネードは特殊部隊の目と耳に刺さっていたらしく、遮蔽物から出てきた主人公とレイチェルが撃たれることもなかった。
これが正攻法かどうかはわからないけどスタングレネードが攻略の鍵になってくれた。これまで使うタイミングがなかっただけなのだけど、使わずに置いておいてよかった。
「工場地帯突破。ふう。小さい礼ちゃんよく頑張ったよ」
「レイチェルっ……ふ、ふんっ。まあ……やるじゃん。ちょっと見直した」
「ふふっ、よかったよ。礼ちゃんの中のレイチェル評価が見直されて」
「いくら印象悪くたってがんばりは正当に評価するよ、私は」
〈おおー!〉
〈突破!〉
〈難関突破!〉
〈レイチェルがんばった!〉
〈兄悪魔うますぎだろ〉
〈強いのはエイムだけじゃなかった〉
〈お嬢ちょっと感動してるでしょw〉
〈ようがんばったなぁ〉
〈レイラ嬢声震えてたよw〉
〈そういやゾンビ寄ってこなかったな〉
〈ゾンビはぜんぶ特殊部隊がヘイト買ってくれたのが助かった〉
「そうですね。元人間様はすべてが隊員さんのほうへと駆けて行きましたね。あれだけ乱射していれば、さすがに注意を引いてしまうでしょうから」
「うん? ああ、コメントね。んー? そういえばそうだね。ぜんぜんゾンビに狙われなかった……。そりゃ兵隊のほうが目立ってたけど……あれだけ狙われないのも不自然だなー」
「狙われなくて助かったよ。ピストルでは苦しいし」
「私の時はゾンビも兵隊もどっちも相手したんだけどっ! 不公平だー!」
「不公平と言われても。元人間様からヘイト買いすぎたんじゃない? たしか礼ちゃんはアサルトライフルを持ってたんだよね?」
「うん。ARじゃないとモールも工場も突破できなかったよ」
「銃声で呼んじゃったんじゃない? 撃ちすぎるから」
「そんなことないよ! 私じゃなくて、レイチェルが泣き叫んでたからその声にゾンビは引き寄せられたの! 私のせいじゃないから!」
〈不思議なくらいこなかったな〉
〈兵隊のほうが人数も音もあるしな〉
〈ピストルだけで兵隊捌いてるのもおかしいよ〉
〈不公平w〉
〈大変だったもんねw〉
〈草〉
〈銃声で呼んだか〉
〈撃つ数違うしな〉
〈認めないw〉
「ふふっ、本当かなあ?」
「ほんとっ、絶対そうだよ! 絶対!」
「それじゃあそういうことにしておこっか」
「信じてないでしょ! 疑ってるっ!」
「信じてるよ信じてる。ほんとほんと」
「ほんとに私のせいじゃないからっ! お兄ちゃんっ!」
「あははっ、信じてるってば」
〈なんこれw〉
〈てぇてぇ〉
〈いちゃいちゃすんなw〉
〈ずっといちゃいちゃして〉
〈てぇてぇ〉
〈草〉
〈ずっと見てたいw〉
〈空気よすぎw〉
〈兄妹とは思えんくて草〉
〈末永く仲良くしてください〉
〈なんでスパチャできないんだ!〉
〈スパチャさせてよ!〉
〈てぇてぇ〉
〈尊いを超えた波動を今感じてる〉
だだっ子になった礼ちゃんをあやしながら、そしてその様子をリスナーさんに見守られながら、僕たちはストーリーを進めた。




