「趣味ではなく生き甲斐なんですけど」
『濁した?! DV彼氏……は、発言には気をつけます……。つ、次いきまふっ! 〈兄悪魔が初の外部コラボってことで応援送ります。いっぱい楽しんでください。兄悪魔はお嬢のお世話以外になにか趣味とかあるんですか?〉』
「礼ちゃんの世話が僕の趣味になってることを前提に質問されてますね。お便りありがとうございます」
『ジンさん、兄悪魔というのはジンさんのことでいいんです? レイラちゃんがリスナーさんからお嬢と呼ばれていることは知ってるんですけど……』
「ああ、そちらの説明が先でしたね。礼ちゃんが僕と初めてコラボした時にお別れの挨拶で『悪魔兄妹』と名乗って、そこからリスナーさんから兄悪魔と呼ばれるようになりました。おもに礼ちゃんの配信をよく観てるリスナーさん、眷属さんたちにそう呼ばれることが多いです。礼ちゃんのところの眷属さんたちにもたくさん応援してもらってるんですよ。幸せなことです」
『兄妹どっちも悪魔だから兄悪魔呼びなんですね。なるほどなるほど。……リスナーさんもジンさんがレイラちゃんをとても可愛がっているのは知ってるんですね』
「礼ちゃんのところのリスナーさんはよく知っているでしょうし、長く眷属をされているリスナーさんはなおのこと詳しく知っていることでしょうね。礼ちゃんは前から配信でもよく僕の話をしてますし」
『すごい兄妹だ……。それで趣味ですけど、レイラちゃんのお世話とお料理以外でなにかあります?』
「礼ちゃんのお世話はみなさんの共通認識なんでしょうか。そちらは趣味ではなく生き甲斐なんですけど」
『趣味よりもぐっと重みが増しましたね……』
「それにしても趣味、趣味ですか。んんと……僕、特に趣味と言えるものがないんですよね」
『趣味ないんですか? 最近ハマってることとかでもいいですよ? ロロは最近アロマキャンドルにハマってます! いい香りするし、なんだか気持ちがゆったりしますよ!』
「アロマキャンドル、いいですね。僕も礼ちゃんに言われて一時期やってみたことあります。なかなか奥が深いですよね。香りによって期待できる効果が違ったりして」
『ロロも知ってる! リラックスするののほかにも気持ちを前向きにするのとか、やる気出るやつとか! ……って言っても、ロロは最初、ただリラックス効果があるからって言われて使ってたんだけどね。ゆらゆら揺れる火を眺めてるとそれだけで落ち着くよ』
「たくさん種類があるのもいいですよね。飽きないです。見た目もこだわれますし」
『めっちゃわかる! どれにしよっかなって悩むのも楽しいの! 飾ってるだけでもおしゃれなのあって、すぐにたくさん使ったりできないのに気になったのたくさん買っちゃって部屋のインテリアになってるよ!』
「置いておくだけで仄かに香るものもありますし、それでもいいんじゃないですか? ボタニカルキャンドルやジェルキャンドルとかは特にそういったインテリア向けなものが多い印象です」
『あ、それってお花とか入ってるやつでしょ! ロロ持ってる!』
「きっとそうですね。装飾に力を入れているキャンドル、というイメージがありますし。燃える部分と装飾が施されている部分が仕切られているものもあって、難しいですけどそういうものだと使い終わっても見て楽しめていいですよね」
『むず? ススとかが気になるってこと? あれ知ってる? スス出にくいの。なんだったっけなぁ……ハチのやつ!』
「ビーズワックスのキャンドルのことでしょうか? ロロさん、本当にお詳しいですね。蜜蝋から採られたビーズワックスだと煤が出にくいらしいですね。僕は自分で使って比較したことはないんですけど」
『ロロ比べたことあるよ! やっぱり賃貸だとススとか気にしちゃうから調べたことある。ほんとに少ない気がしたよ。なんで少なくなるのかは知らないけど』
「一般的なキャンドルに使われているのはパラフィンワックスだと思うんですけど、それは石油から作られているんです。パラフィンワックスは先ほど言っていたビーズワックスよりも含まれている炭素の量が多くて、なので完全に燃え切らなかった炭素が煤として出てきちゃうんですよね」
『ロロより詳しいっ!? もうアロマキャンドルが趣味の人だよそれは!』
「いえいえ僕なんてそんなそんな。少し前に作ってただけなので」
『……え?』
「え?」
『……今まで作る側で話してたんです?』
「作る側……まあ、そうですね。礼ちゃんが使っている場に同席はしてたので使ってもいますけど」
『飽きないとか、難しいとかってそういう……。ロロよりよっぽどアロマキャンドルが趣味って名乗れるくらいの人なんですけど……』
「どっちがアロマキャンドルを趣味と名乗るかの勝負じゃないんですから、作る側とか使う側とか関係ありませんよ。ロロさんだってお詳しいですし」
『そりゃそうなんですけどぉ、なんかちがうぅ……』
「僕は作る側で、ロロさんは使う側で趣味の人ですね。ちょうど分かれてていい感じじゃないですか」
『なにがどういい感じなのかわかんないです。でもジンさんがどんなの作ってるのか気になります。ほしいですもん、ジンさん作のアロマキャンドル』
「僕作と呼んでいいか怪しいんですけどね。オイルのノートの組み合わせというか、調整はかなり自信があるんですけど、デザイン面の才能が絶無でして」
不思議なんだよね。ちゃんと見本として初心者でもできそうな資料を横に置いてドライフラワーの配置を確認しながら作ったはずなのに、なぜか完成品は奇怪な代物になっていた。そのアロマキャンドルを受け取った礼ちゃんは顔を引き攣らせていたし。
でも実際に火を点けてみると礼ちゃんの表情は和らいだ。香りはいい、と褒めてもくれた。いや、正確には『香りだけはいい』だったけれど。
『そんなことあります? デザインっていっても、キャンドルの外側にお花とかが見えるように、ロウを流し込む容器の内側に貼りつけていくだけですよね? 難しいとは思いますけど、そんなヘンテコなことにはならないような……』
「僕としては、結構いいんじゃないかな、と思いながら礼ちゃんに渡したんですけど、礼ちゃんからは不評で。部屋に置いてたら体に蔦や根っこが絡みつく悪夢を見そうと言われました」
『逆にすごくないです? アロマキャンドルでそんなイメージを相手に植えつけられるって』
「なので最終的にアロマオイルのバランスやロウの部分を僕が、デザインを礼ちゃんが担当して作ったんですよ。合作にしたおかげでお互い満足できる仕上がりになりました」
『いいですね! 結局は好きな人と一緒に作れたらそれが一番いいって話だよ! 一緒に作って、一緒に使って、のんびりする……。はぁ……そんな相手いないよ……』
「まあまあ……一人だとしても部屋を薄暗くしてお茶なりお酒なり嗜みながらアロマキャンドルを焚くというのも、乙な趣味ではないですか?」
『独り身おつ、とかリスナーからは言われそうですね……』
「んっ、ふふっ。それは……それはそんなことを言うリスナーさんに非があります。アロマキャンドルなんて、基本的に一人でゆっくり楽しむものです」
『へ、へへ……そっすよね。独りで味わう趣味ですもんね……』
なにやらロロさん、傷心のご様子だ。可哀想に。
どうにか慰めてあげたいけれど、ロロさんの求める男性像に当て嵌まる知り合いなんて僕にはいないし、どうすることもできない。そもそも男性の知り合いが僕にはいなかった。可哀想に。
「そうだ。同じ趣味を持つ仲間として、アロマキャンドルプレゼントしていいですか?」
『えっ?! いいんですかっ?!』
「ええ。話していたら久しぶりに作りたくなってきたので。デザインは……お洒落なものを作ろうと思うと忙しい礼ちゃんの手とセンスを借りなければいけないので、デザインを凝ることはできませんが」
『シンプルなアロマキャンドルでもロロうれしいですよ!』
「最近お世話になっている方がたくさんいるので、何かお返しができたらなあ、と思っていたんです。アロマキャンドルを趣味と名乗ってもいいとロロさんからお墨付きをいただいたので、気持ちばかりのものですがプレゼントしたいなと」
少し考えただけでも僕を助けてくれている人はたくさん思い浮かぶ。あまり高価だったり手の込み過ぎた物だと驚かせてしまうかもしれないし、感謝の気持ちを伝えるのにアロマキャンドルはいい塩梅かもしれない。
夢結さんや寧音さん、美影さん、めろさんといった面々はとても多忙なこともあるし、贈るのならリラックス効果のあるアロマキャンドルが適切だろうか。日々仕事に追われている母さんや父さんにも心配をかけてしまったわけだし、この機会だ。お疲れ様とありがとうの気持ちを込めて作るとしよう。
『あー、お世話に……なった、方……あー、はい、なるほどなるほど。…………ロロはおまけかぁ……』
「住所を知られずに宅配してもらう方法もありますからね。僕に住所を知られる心配もありません。リスナーさんも安心してくださいね」
『おまけでももらえるのはうれしいけど……ん? コメント欄の流れが……。〈ギターは?〉とか〈声真似あるやん〉とか〈ドライブしてるって聞いたぞ〉〈バイク〉……これって?』
「ん? ……あ、そのラインナップはだいたい礼ちゃんにやったことのあるものですね。おそらく歴戦の眷属さんのコメントでしょう。僕の配信ではちょこっとドライブやバイクの話に触れたかなといったくらいで、ちゃんとやったのは同期の声真似くらいですからね」
『えぇ……。多趣味というか、多芸すぎませんか?』
「礼ちゃんに『これやって!』と頼まれたら断れない兄の性です。やっていくうちに増えました。こればかりは仕方ない」
『……さっきの「これやって!」っていうのは誰かのマネです?』
「話の流れ的に礼ちゃんしかいませんよね?」
『レイラちゃんはそんなに声高くな……あ、めっちゃ似てるらしいですね。〈ばか似とる〉〈お嬢入ってきたかと思った〉って言ってる人いっぱい……え、そんなレベルで似てるの? いや、ていうかなに自然に女の子の声真似してるんです?! 男の人の喉から出る声じゃないですけど!?』
「まだ高い声で似せるのは練習中なんですけどね。でも礼ちゃんの声なら誰よりも聞いている自信があるので、ふふ、まあこれくらいは」
女性くらいの声の高さだと声を寄せていくのに時間がかかってしまうけれど、礼ちゃんの声真似は会話の合間だろうとすぐにできる。礼ちゃんの声なら脳髄に刻み込まれているし、たまに礼ちゃんと話している時に遊びで声真似したりしているので咄嗟に出せるようになったのだ。
『いろんなことができることよりもレイラちゃんについて自慢してる時が一番活き活きとしてますね……。ちなみに声真似ってどんなのが……』
「ロロさんは以前、とあるギャンブルのアニメを観ていると配信で仰っていましたが、まだ好きですか?」
もしかしたら雑談が弾まないかもしれないという状況を想定し、話の種にしようと思ってロロさんのアーカイブを視聴していたら、とあるアニメの話題があった。アニメの話とか共通の話題があれば多少空気は良くなるだろうと考えて、予習の一環でアニメにも目を通しておいたのだ。
おもに僕のせいで時間が押してしまっているので話題にするタイミングはないかと思っていたけれど、巡り巡ってこんなところで披露する機会が回ってくるとは。
『え、えっ、うそっ! あのアニメ、わりとマイナーだよ? ……で、できるの?』
「アニメ一通り観てきましたので」
『ええぇぇっ! なんっ、えっ……』
「んんっ……『それでは早速やりますね』」
『もう似てるっ、もう似てるよぉっ……』
今回声真似するキャラクター、というかそのキャラクターを担当されている声優さんは男性だし、声の高低も極端ではない。その声優さん独特の尖った個性なども薄いので、声を寄せるのにそれほど苦労はない。
「『後に退けないこの瞬間が、俺はッ、一番血が滾んだよッ!』」
『きゃああぁぁっ! わああぁぁっ! 本物だああぁぁっ!』
「いえ本物ではないですけども」
『やっばいっ、やっばいですって! アニメから直接切り抜いたんじゃないんですよね?!』
「ご安心ください、違いますよ。著作権の侵害になっちゃいますからね」
『あぅ、あ、疑うわけじゃないんですけどっ、ほんとにそのくらい似てて! びっくりして!』
「せっかく練習したので、もうワンシーンくらいやっときましょうか」
『っっっっ!』
「こちらに声が聞こえてないんですけど……ノイズキャンセリングがかかったのか、それとも声が出ていないのか。まあ、嫌がっている感じはないのでいいでしょう。んっ、んんっ『では、いきます』」
『っ! っ!』
「『……これで、俺の勝ちだッ! 返してもらうぞ、俺の相棒をッ!』」
『ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ゛……。ロロの一番好きなどごお゛お゛ぉ゛ぉ゛っ……』
「どうでしょう? 喜んでもらえました?」
『はちゃめちゃに嬉しいっ……。あ、あのぉ……』
「よかったよかった。準備した甲斐がありました。なんです、ロロさん?」
『ひとつ、わがまま……いいです?』
「はい、僕のできることなら」
『はっ、ぁっ、ぁの……こんなことお願いするのは、非常に恥ずかしいんですけど、ですね……。でも、こんな機会、もうないと思うので……』
「……何をお願いされるんだろう……。とりあえず内容を伺います」
『さっきのセリフの「相棒」の部分を、ですね……。「ロロ」に変えてもう一度言ってもらうことって、できたりとか……』
「ああ、なんだ。そういうこと……。はい、それなら大丈夫ですよ」
『わぁっ、ありがとうございますっ! ……うるさいリスナー! いいでしょ!〈欲望に忠実で草も生えん〉とか言わないでよ! 〈うわぁ〉とかシンプルに引かないで! 大事なのこれは!』
「あははっ、結構言われているみたいですね。でもリスナーさん? リスナーさんも、好きな俳優さんや女優さん、推しているアイドルの方や声優さんに自分の名前を呼ばれたら、きっと嬉しいですよね? そう考えると、ロロさんのお願いも致し方ない部分があるのではないでしょうか? もちろん、僕は本物の声優さんには遠く及びませんけども、寄せることだけならできますから」
『いやジンさんの声真似のクオリティ半端ないですって! ほんと自信持って……ってリスナー! 〈あーたしかに〉じゃないだろー! 〈ジンさんが言うならまあええか〉ってなんだ! ロロの時と態度違うなぁ?!』
「くすっ、ふふっ。リスナーさんと仲良いですね。あー、あー。『それではやりますね』」
『まっ、あっ、待って! 待ってください!』
「『ロロさん、どうかされました?』」
『んふっ……へへ。いや、あの……配信のBGMを、切るので……えへへ』
「『本気の度合いがすごい』」
『あはっ……もうっ、もうっ! その声やめてうそやめないで! ……はい、お好きなタイミングでお願いしますっ。……〈キモすぎ……〉とか言うなリスナー。こんな機会があったらオタクはみんなこうなるでしょうが』
「『……じゃあ、えと……やりますね? んんっ。……これで、俺の勝ちだッ! 返してもらうぞ、俺のロロをッ!』」
『かっ……ゅっ!』
「ははっ、あははっ、どう発音したんですか。『ゅっ』ってなんです? ふふっ、ロロさん、大丈夫ですか?」
『んくっ、んぐっ……っ。ぁ、あぃがどぅ……ございまずっ……』
「……泣いてらっしゃいません? 本当に大丈夫ですか?」
『ごのシーンは切り抜いて家宝にしまずっ……』
「なんだかもう、僕の声真似なのが申し訳なくなるくらいに感動してる……。本物の担当声優さんがやったんじゃないんですけど……」
『いいの! ロロには聞き分けられないから本物なの! だからいいの!』
「あははっ、わかりました。それならよかったです。喜んでもらえて」
『ロロも、ロロもなにかお返ししないと……』
「そのお気持ちだけで嬉しいですから結構ですよ。気になるようなら……そうですね。こうしてロロさんのチャンネルにお邪魔させていただいた手土産みたいなものだと思ってください」
『赤スパ投げときます』
「わー危なかったー。収益化まだだからセーフ」
『収益化してないんですかっ?! なんで?! 条件満たしてるですよね?!』
「敬語がおかしくなってますよ。というか、ロロさん、無理に敬語使わなくてもいいですよ。僕のほうが配信者歴浅いんですから」
『今それ関係ないです。収益化の話です。リスナーも言ってます。〈ほんそれ〉〈よく言ってくれた〉って。スパチャ投げれないじゃないですか!』
「まさか収益化してなくて怒られることがあるとは……」
『リスナーは推しにスパチャしたいものなんです。ファンは推しに貢ぎたい生き物なんです。ロロは感謝の意味も込めてスパチャ投げつけたかったんです。きっとジンさんを応援してるリスナーさんたちだってそう思ってる!』
「そ、そういう、ものですか……」
『そういうもんです!』
「な、なるほど……。それじゃあ、そうですね……また今度事務所のスタッフさんに相談してみます」
『はい! よろしくお願いします! ジンさんのチャンネルのリスナーさんたち! あなたたちの気持ちはロロが代わりに伝えておいた! 安心しろ!』
「なんだかロロさんが代弁者になってる……」
でも、実際に配信のコメントやSNSでもリスナーさんからそういった『スーパーチャット投げられないんですけど……』とか『収益化しないんですか?』みたいな意見は寄せられてはいた。僕の個人的な考えの下、収益化は見送っていたのだけれど、こうやってリスナーさんサイド(ロロさんをリスナーさんサイドに入れていいかは疑問の余地が残るけれど)の感情を直接耳にした以上、そろそろ方針を転換させる時期がきたのかもしれない。リスナーさんの気持ちを無視してまで自分のやり方を貫く理由は僕にはないことだし。
それに収益化を通したとしてもスーパーチャットなどの機能のオンオフはできると聞く。ならば一度収益化を申請しておいてもいいかもしれない。
ともあれ、一度美影さんに相談してからだ。この人になら任せても大丈夫だと思えるスタッフさんが身近にいてくれるというのはとても頼もしいな。安心感がある。
『それで……えっと、なんだったっけ? なんの話だったっけ……ジンさんのセリフで頭沸騰してぜんぶ蒸発しちゃった』
「趣味の話からずいぶん転がっていきましたね」
『そう! 趣味だよ! ドライブとかよくするんです? バイクって単語も出てきてましたけど。アウトドア派なんですね』
「ん……どうでしょう? アウトドアかなあ? 基本インドアな気も……うーん」
昔、僕が小学校低学年くらいだった頃は両親もまだ今と比較すると休みが多かったこともあって、家族でキャンプに行ったりもしていた。テントも設営はするのだけれど、念の為と言って父さんがキャンピングカーを借りて、それに乗ってキャンプ場まで行っていたのを鮮明に記憶している。
今もそれが続いていればキャンプが趣味ともアウトドア派とも言えるのだけれど、最近はめっきり行けていない。
ランニングはしているしドライブは礼ちゃんと行っているけれど、はたしてそれらでアウトドア派と自称していいのだろうか。
「あまりアウトドアとかインドアとか気にしたことがありませんから、どちらかって訊かれるとわからないですね」
『気にしたことが……ない? あ、そうな……ああ、陽キャ……なるほど……』
「ただ、車でもバイクでも、礼ちゃんの気晴らしで出かけていることが多いですね。礼ちゃんは勉強で疲れた時にふらっと、どこそこに連れてって、と言うので僕も、それじゃ行こっか、という感じで付き合ってます」
『うわぁっ! いいなぁっ! いいですね! そういうの!』
「僕としても助かっ」
『いいなぁっ!』
「発作みたいに『いいなぁ』が出てくる……。僕としてもそうやって誘ってくれるのは助かってるんです。礼ちゃんに誘われなければそうそう出かけることがないでしょうから」
『ジンさんが、というよりはレイラちゃんがかなりアクティブなんですね。なんだか、ロロの中にあったレイラちゃんのイメージからはかけ離れて行ってはいるんですけど』
「僕の印象だと、礼ちゃんはそんな感じなんですけどね。『風浴びたい!』って言ったら近場にツーリング行ってみたり『夜景見たい!』って言ったらドライブに行ってみたり。おそらくフットワークは軽いほうでしょうね」
『そういえば前にきてくれた時に、レイラちゃんは毎朝ランニングしてるとかって聞いたなぁ。そっか、アウトドアだしアクティブだし、文字通りにフットワーク軽いんだなぁ。それにしても……いいなぁっ! いい、いいなぁ……お願いしたら夜でもすぐにドライブデートしてくれるって、とんでもないなぁ……。……でも、レイラちゃんって学生だったよね。……今からこんなデートしてたら、同年代の男の子と遊びとか行けなくなっちゃうんじゃないかなぁ……』
「それは……きっと、大丈夫です。礼ちゃんを幸せにしてくれる人は必ず現れます。世の男性女性がほっとけないくらいの魅力が礼ちゃんにはありますので」
『男性だけじゃなくて女性も視野に入れてるんですね?!』
「このご時世、性別で選択肢を狭めるなんて合理的ではありませんからね。当人同士が幸せになれるのであれば、兄は応援するのみです」
『兄としてのプライドと覚悟が極まっている……。そういえばギターというのは? 趣味ではないんです?』
「趣味、と言っていいのかどうか。始まりは、礼ちゃんと晩ご飯を食べている時でした。『最近芸術の授業でギターやってるんだよー』という雑談からで」
『始まりの部分は変わることがなさそうですね。ずっとレイラちゃんだ。というかさっきからナチュラルにレイラちゃんの声真似挟んでくるのやめてください? どきっとするんで』
「テストもある、と話していました。授業だけだと時間が足りないかもしれないので、僕が教えられるようにと思ってギターをやり始めたんですよ。その時はまだ僕の生活にも時間的なゆとりがあったので」
前の会社に勤めたばかりの頃はまだ礼ちゃんとゲームをする時間もギターを触る時間もあった。あったはずなのに、それが時間をかけてどんどん刮ぎ取られていったのだ。職場の人間の数が目減りしていったのが原因である。怖い話だ。神隠しかもしれない。気づいたらいなくなっていた。
『その理由で音楽始める人たぶんジンさんくらいです。後半部分はちょっと闇を感じたので触れないでおきますね』
「危機管理意識が高いですね、賢明な判断です。なんだかんだでギターのテストは上手く乗り切ったとのことだったのですが、それ以降もたまにギター弾いてー、とお願いされることがあったので腕が鈍らないようにちょくちょく練習はしてます」
『もう趣味の欄に書いていいです、それは。ロロが断言します。料理とアロマキャンドルとドライブとツーリングとギターは書いていいです。いや、書いてください。書きなさい。書け』
「とうとう命令形に……。こんな半端な心持ちの僕が趣味と口にしていいのかと悩んでいたんですけど」
『そんなに重く考える必要ないです。ちょっと触ったら趣味って言っていいんです。……それで、ですね……。もしかすると、うすうす予感はしているかもしれませんが……ギターを披露してもらうことって……』
「はい、いいですよ」
『やったぁっ! ありがとうございますっ! もう手遅れなんでわがままになっちゃうんですけど、弾き語りとかって……』
「それは少し難しいですね」
『ご、ごめんなさい……。調子に乗りました……』
「え? ……あ、違います、違いますよ? 別に気に食わないからとか、疲れるからとか、準備が面倒とか、そういうことではないんです。ギターを弾くだけなら問題はなかったと記憶しているんですが、もしかしたら歌も一緒にとなると著作権周りのあれこれに引っかかるかもしれないので、念のために控えておくだけです」
『あ、なるほど……。ロロのほうが長く配信やっているのに盲点でした……すいません。音源を自分で用意していてもだめなんでしたっけ?』
「歌のほうは、また別に手続きがあった気が……こんなに早く配信上でやるとは思っていなかったので、楽曲を配信で使用する際の手続きをまだ把握できていないんです。事前に申請を出したり許可をもらわないといけないかもしれないので、申し訳ないんですが今回はギターだけでお許しいただけるとありがたいです。問題があってはいけないので」
『……ロロこそ適当なことを言ってしまってごめんなさい。注意が足りていませんでした。弾き語りは今後、ジンさんのチャンネルで行われることを期待して待機しておきます』
「あははっ、そうですね。配信でやれる機会があったらいいですね。それでは準備してきますので、少々お待ちください」
『あいっ! ごゆっくりどうぞっ!』
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