変化
「……そうだったのですね。それは、大変な旅をなされましたね……。お二人のことも、やっと合点がいきました」
父から廃嫡宣言されたことまでは、さすがに伏せたが、シャモル地方の団結を図るため、弟と出立したこと、その弟が盗賊に襲われ、命を落としたこと、自分もその際負傷したが、ニルファルに助けられたこと、そんな彼女に嘆願されて、道連れになったことなど……。
ダストは、時に驚いたり、同情する様子を見せたが、口を挟むことなく、最後まで耳を傾けていた。
「では、お二人は、ニルファルさんの働き口を探すために、この町に寄ったのですね」
「そうなんだ。この町の有力者にでも話をして、置いてもらえるところを探そうと思っている」
「なるほど、そうですか。……もしよろしければ、私の方でも探してみますよ。大きな町ですから、選り好みしなければ、見つかると思います。もちろん、安心して働けるところというのは、大前提で」
「そうか、そうしてもらえると、ありがたい」
すでに、いくつもの酒肴が並べられた卓を前に、アルスランは頭を下げた。
「いえ、礼には及びません。ご覧になったかと思いますが、この町は、たくさんの人が集まり、日に日に大きくなっております。人手は、いくらあっても足りないくらいですよ」
穏やかな笑みを浮かべて、ダストは言った。
(この男なら、安心してニルファルを任せられるな……)
そう思うと、自然と肩の荷が下りた。
「ところで、アルスラン様は、この後、エフタル族のところへ向かわれるのですか?」
そのつもりだった、今までは……。
しかし、今は、別の考えが頭の片隅に浮かんでいた。
「そうだな……。そのつもりだったのだが……」
なんとはなしに、庭の方を向きながら、言葉を濁した。風はないが、どこか遠くで、鳥の鳴き声がする。
ふと、アルスランは、軽い口調でダストに訊ねた。
「率直な意見が聞きたい。俺は、イギ国のような外敵から、このシャモル地方を守るため、六部族を中心に一致団結すべきだと思った。でも、ニルファルは、そんな必要はないのではないかと言う。アルサル族に地代や馬を徴収されたりなど、あまりいい思いをしてこなかったというのもあるんだろうが……。
ダストは商売を生業としているから、バカラ族やセガラ連邦のことも、よく知っているだろう。そういう者からして、俺の考えは、どう写る?」
突然の質問だったが、ダストはあごに手を当てると、うーんと考え込んだ。
その目がちらと、自分に向けられた。
「言いづらいかもしれないが、率直に言ってもらって構わない。ここだけの話としよう」
その言葉を前にしても、少し躊躇う様子を見せたが、軽く息を吐くと、アルスランの視線を正面から受け止めた。
「では、率直に申し上げます。ご無礼がありましたら、ご容赦ください。
あくまで個人的な意見ですが、私は、以前のように、六部族が団結してこの地を守らなければならない、ということはないのではないかと考えます。
もちろん、六部族は今まで外敵を前に、盾となって戦ってきてくれた。それは、疑いようもない史実です。しかし、バカラ族が力を増してきている中、以前と同じである必要はない、いや、戻れないのではないかと思います」
「では、イギ国のような外敵に対し、どうすればよいのだ? 今は、友好的な関係を結べている瑞穂帝国だって、いつ、態度を変えて、こちらに攻めいるかわからないぞ」
「……思うのですが、どうして、周囲の国が攻めてくると言えるのでしょう? 逆に、六部族が団結すること自体が、他の国にとって、脅威と写るのではないでしょうか?
……それに、実を言うと、我々もニルファルさんと同様、この地を納めるエフタル族から、地代を増額すると宣告されております。もちろん、我々は遊牧民と異なり、一ヶ所に定住しておりますので、ある程度納めるのは致し方ないことだと考え、今まで納めて参りましたが、最近の町の発展から、その地代を三倍に引き上げると通告されたのです。
……正直、それは納得がいきません。だって、町の発展とエフタル族と、なんの関係があるというのでしょう?
……すみません、話が逸れました。しかし、私が言いたいのは、もう時代は変わってきている。昔のようには戻れない、ということです。そして、率直に言って、同じように思っている商人は、少くありません」
ダストは、そこで言葉を切った。
静寂が、座敷を包む。
(ニルファルと同じ考え、ということか……)
そう思っても、そこまで気落ちしない自分がいた。
短い期間ではあったが、今まで見聞きしてきたことから、心のどこかでわかっていたのだろう。むしろ、胸の奥がすとんとして、すっきりしたように思えたくらいだ。
(…ダストの言う通り、時代は変わったのだ。……おそらく、父上もそれを理解されておいでで、今までとは違う道を模索されていたのだろうな……。となると、俺の採るべき道は……)




