旅は順調に進む
その後、二人は、茶にノンだけ、という質素な食事を済ませると、敷物の上に横になり、仮眠を取った。そして、日もだいぶ高く昇ったところで荷物をまとめ、出発した。
スユンチたちは、すぐに風の通り道を見つけ、二人と二頭は順調に距離を延ばしていった。
ニルファルは、風の通り道に入るのが初めてだという。そのあまりの速さに、最初こそ、アララトの首にしっかりとすがりついていたが、速さに反して揺れが少ないことに気がつくと、すぐに体を起こし、気持ち良さそうにその流れに身を委ねていた。
途中、遠くの方に、小さな部族のユルトの群れを見かけたが、その他に、人の生活の痕跡を目にすることはなかった。昼前に、また少しばかりの休憩を取ったが、それもすぐに出発し、ただひたすら東へと進んでいった。
そして、日が暮れ始める頃、小さな湧水が起こる場所を見つけると、そこを今日の野宿する場所と定めた。そこは、この辺りを行き来する者たちが休憩地としてよく使う場所なのだろう。目を凝らしてみると、ところどころに火をおこした跡が見られ、炭が残されているところもあった。
アルスランは、早速馬を自由にしてやると、その炭を使って、火をおこそうとした、その時だった。
「あ、うさぎ!」
ニルファルの声に、アルスランはぱっと顔を上げ、辺りを見回した。
すると、少し離れたところに、茶色いうさぎが一羽いるのが見えた。食事中だったのか、口をモグモグさせながら、ひょこんと立って、こちらを見つめている。
その光景に、アルスランは何気なさを装いながらも、背にくくりつけていた弓を素早く下ろすと、矢をつがえた。うさぎも、本能的に自分の危機的状況を察知したのか、文字通り脱兎のごとく、逃げ去ろうとした。
しかし、アルスランの瞬時の判断が、うさぎの危機管理能力に勝った。
矢は、うさぎが茂みに飛び込むのとほぼ同時に、放たれた。
「ギュイッ!」
断末魔のような鳴き声を前に、仕留めたことを確信したアルスランは、すぐさま茂みへと近づいていった。すると、矢が横腹に貫通したうさぎが、ビクビクと痙攣している。
アルスランは、腰元に装着している短剣を手にすると、命の灯火が消えようとしているうさぎに手を伸ばし、その腹を押さえながら短剣を首筋に当て、シュッと一気に引いた。
一度、大きくビクンと体を硬直させたうさぎは、ふぅと小さな息を吐くと、すぐに動かなくなった。苦しませない方がうさぎのためでもあり、また、肉も不味くならないのだ。
すぐに、解体へと取り掛かる。
まず、下腹部に短剣をぐっと突き刺し、のどの辺りまで切り裂く。それから、胃と腸を取り出し、足を脱骨させて、さらにお腹を切り開く。そして、肛門まで切り開いた後、動脈部分に切り込みを入れて、血を出した。血は、ドクドクと音をたてて、流れ落ちていく。血がほぼ止まると、ニルファルが汲んできてくれた水で、腹の中を洗った。次は、毛皮剥ぎだ。
まだ温かいうさぎのぽっかりと開いた腹に短剣を入れ、外側に向かって皮を削いでいく。ある程度削ぐと、今度は、皮を手にしてぐーんと引っ張る。すると、きれいに皮が剥けるのだ。ときおりつっかかるところは、短剣で切れ目を入れていき、そして、最後に顔の皮を剥がし、耳の付け根まで来たところで耳の骨を切り落とすと、皮と肉がきれいに剥がれた。後は、手足や胴体、顔を切り分ければ、解体は終了。
その一連の作業を、アルスランは慣れた手つきで、手早く進めていった。
切り分けた肉は、串に刺した。今日は、焼いたウサギ肉とノンが、夕飯を彩ってくれることになる。




