嘘コクされた俺は…
ある日、学校に言って自分の机の中に手を入れると手紙が出てきた。
「ん?なんだこれ」
それは便箋で綺麗に包まれておりなんだかラブレターみたいな…いやいや、それはないな。だって俺、クソ陰キャだし。
それこそ友達は一人も居ないしいつも便所飯してるようなやつだぜ?どこにそんな奴に告白する物好きが居るんだ?
ふぅ、俺が自分のことを理解していないただの陰キャだったら勘違いしてたところだぜ。そう思いながら俺は便箋を開き中から手紙を取り出した。
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柳 愁君へ
放課後、校舎裏で大切な話がしたいので待っています。
柊 未来より
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…え?い、いやいやまさかそんな訳無いよな?本当にラブレターな訳が…
しかも柊 未来ってこの学校で一番か二番目に可愛いって言われてる子じゃん…誰かの机と間違ってるんじゃ…いやこれ俺の名前だわ、柳 愁に向けた手紙だわ。
ど、どういうことだ?とりあえず落ち着きたい。トイレに行こう。
俺は席を立ってトイレに向かった。トイレに向かうには柊のクラスの前を通る。その時に彼女の方を少し見る。するとギャルの友達と何か話していた。
「えー?ほんとにするの?嫌なんだけど」
「ダメだよw罰ゲームなんだからw」
ん?罰ゲーム?なんだか不穏なワードが聞こえてきて俺はつい聞き耳をたててしまった。
「えっと…誰だっけ?柳だっけ?」
俺の名前が出てきた瞬間心臓が跳ねた。え?わかる人いない?他の人の会話に自分の名前が出てきたらビクッとなるの。
「たぶんそれ。ちゃんと罰ゲームの告白しなよw」
「分かってるよ…ちゃんと手紙机の中に入れたし」
「マジかw陰キャ君喜んでんじゃない?w」
「マジで最悪ー。なんで私があんな陰キャに告白しなきゃいけないわけ?」
「ゲームで負けたのは未来なんだから文句言わないの!わかってる?告白して一ヶ月間付き合うんだよ!それと今日から一ヶ月間放課後ずっと一緒に帰ってね!」
「もぉほんと最悪…」
なるほど、ね。罰ゲームで俺に告白するわけだ。まぁ分かってたさ。こんな俺に好意を抱いてくれる人なんて居ないって。
ただまぁ…やられっぱなしってのも癪だな。…惚れさせるか。
俺はそう決意した。
そしてその日の放課後、俺は校舎裏に来ていた。
そこには既に柊がいた。
「えっと、柊さん?どうしたのかな?」
告白するんだろ?嘘コクってやつ。
「ごめんね?急に呼び出して…」
誰だよお前。さっきまでの汚らしい本性はどうした?
「いや、別にいいんだけど…」
早くしてくれよ。もう帰りたい。
「その…単刀直入に言うね?ずっと前から好きでした!私と付き合ってください!」
ずっと前からとかwお前俺の事知りもしてなかったじゃん。
「え、えっと…お、俺で良かったらお願いします…」
お前すげぇよ。とんでもねぇ演技力だな。だが俺も負けていない!どうだ?上手いだろ?
「ほんと?じゃあ一緒に帰ろっか」
おぉっと?柊さん?大丈夫ですか?メッキが剥がれてきてますよ?ちょっと顔に『嫌だ』って書いてますよ?
さて、惚れさせると言ってもどうしたものか…まず俺の事を柊に意識させないといけないよな…
確かネットで読んだ記事だとまずはコミュニケーションが大切だと書いてあったな。
「柊さんは何か趣味とかあるの?」
まぁ無難な質問だろう。特に面白みはないが趣味について話せれば距離は縮まるはずだ。
「趣味かぁ…あ、結構写真とか撮るの好きだよ?」
写真か、なら大丈夫そうだ。
「へぇ、写真を撮るのが趣味なんだ。ちょっと見せてもらってもいいかな?」
これは少し攻めているだろう。出会って間もない男にスマホの中身を見せるのだ。かなりの抵抗があるはずだが…どうだ?
「お、いいよー。これとかどう?」
いいんかい。やっぱり嘘コクするような女はそんなこと気にしないのだろうか。まぁどうでもいい。
「おぉ!凄く綺麗に撮れてるね!」
なんかそれっぽく褒めてたらいいだろ。
「ほんと?」
「うん、でもこの写真はもうちょっと下から撮った方が綺麗に撮れるよ」
俺は柊を褒めると同時にどうすれば映えるのかを教えた。
え?どうしてそんなことを知ってるのかって?俺はぼっちを極めすぎて大抵の趣味はやり尽くしてしまったからだ。
「へぇ、そうなんだ…じゃあこれは?」
お、食いついた。案外ちょろいな!
「それは左斜め上から撮ったら綺麗に撮れるよ。ちょっとスマホ貸してもらっていいかな?」
「え?いいけど、なんで?」
「ちょっと待ってね…」
俺は柊のスマホを操作してカメラを開いた。そして太陽の向き、影の暗さ、角度を調節してパシャリと一枚写真を撮った。
そこにはとても綺麗に写った柊の写真があった。
「どう?」
そう言って俺は柊にスマホを返す。
「え!めっちゃ綺麗じゃん!すごっ!」
柊はきっとこれが素なんだろう。ギャルっぽい口調になってる。
「綺麗だよね。柊さん」
「え?!」
ほんと、顔だけ見たらめっちゃ可愛いのになぁ…性格が、その、なんて言うか…ゴミだからなぁ。
「や、やめてよ!照れるよ…」
は?お前まじちょろくね?
そんなことを思った日から一ヶ月後の今日。本来なら今日柊とは別れる日だ。
「愁君!帰ろ!」
教室で座っていた俺に柊が元気よくそう言ってきた。
「未来、いいよ。帰ろうか」
この名前呼びは柊が呼んでくれと言ってきたので呼んでいる。
そして俺たちは並んで道を歩いていた。
「あ、愁君!あそこに綺麗なイチョウの木があるよ!あそこで一緒に写真撮ろ!」
「うん。撮ろうか」
確信できる。今柊は俺に惚れている。俺に惚れてからの柊はとても可愛い。それこそ本当に彼女にしたいほどに。
パシャリとシャッターが切られ写真が画面に写る。
「上手く取れるようになったね」
「うん!愁君が教えてくれたからね!」
写真を撮った俺たちはまた帰路に着いた。そして分かれ道に着いた。ここで俺と柊は別々の道を行く。当然だ。家の方向が違うからな。
「あ、もう着いちゃった…はやいなぁ」
「そうだね」
「あ、あの、愁君…」
「なに?」
名前を呼ばれて柊の方を向いてみるとそこには顔を赤くしてモジモジしている柊がいた。
「…大好きだよ」
「うん…俺は…」
俺はあの日のことを思い返していた。嘘コクされたあの日のことを。悔しくて柊を惚れさせてやろうと決意した。そして今、柊は間違いなく俺に惚れている。
最初は惚れさせて捨ててやろうと思っていた。
今は…変わらず捨ててやる気だ。
「お前のことなんて大嫌いだよ」
とびっきりの笑顔でそう言った。
「…え?」
確かにこいつは可愛い。それこそ彼女にしたいほどに。だが俺はこいつの本性を見てしまっていた。あの醜くて汚い本性を。
俺の中ではあれは許せないことだった。どんな理由があれ人を貶して弄ぶようなことをしていいはずがない。そんな人間、俺は好きになれない。
「な、なに、言ってるの?」
柊が困惑したようにそう言ってきた。
「何って、俺がお前のことを嫌いだって、そう言ってるんだよ」
「な、なんで?!」
柊は取り乱して叫んでいる。
「なんでって、そんなのも分からないのか?お前、俺にした告白。あれ嘘コクだろ?」
「っ!ど、どうしてそれを…」
「お前ともう一人のやつが話してるのを聞いたんだよ。だから知ってるぞ?お前がどんな気持ちで俺に告白してきたのか。嫌だったよなぁ?最悪だったよなぁ?あんな告白したくなかったよなぁ?」
「あ…ぁあ…た、確かに最初は嫌だった!で、でも今は本気で愁君のことが好きなの!だから!」
「だからなんだよ?これ以上おままごとに付き合ってられねぇよ。お前みたいなやつ大っ嫌いだ。じゃあな」
俺はそう言って柊に背を向けて歩き出した。
あぁー、スッキリしたぁ。
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私は遠ざかっていく愁君の背中を見ていることしか出来なかった。目からは自然と涙が出てくる。
「どうして、わたし、は…」
最初は愁君の言ってた通り嫌だった。早く別れたいと思っていた。でも一緒にいるうちに彼のいい所が沢山見えてきた。
普段ずっと一人で居るから話が下手くそなのかと思っていたが、そんなことはなく常に私が話しやすいように配慮しながら話していてくれたり私の考えに真剣な意見を言ってくれたりしてくれた。
私は彼に次第に惹かれていった。今では本当に大好きな人だ。
でも私はさっきその大好きな人に見限られてしまった。悪いのは全部私だ。彼を騙すようなことをした。彼を貶すようなことをした。こうなって当然だ。
あぁ、でも…別れたくないよぉ…いやだ…嫌だ嫌だ嫌だ。
どうしてこんなに胸が痛むの?
どうしてこんなに涙が止まらないの?
どうしてこんなに馬鹿なことをしたの?
どこで間違ってしまったんだろう。それはきっと最初からだ。
私はスタートの時点で間違っていたんだ。彼との楽しい思い出がフラッシュバックしてくる。大好き、本当に大好き。あんなふうに言われて別れたのにまだまだ大好き。
「私、なにやってんの?」
今ほど過去の行いを後悔したことは無かった。
今ほど過去に戻りたいと思ったことも無かった。
でももう戻れない。
ディスプレイに表示されたさっき撮ったイチョウの木を背景にした愁君とのツーショットを見る。
また目から大粒の涙が溢れ出して来てその雫がスマホの液晶画面を濡らした。
僕こういう系の話が好きなんですよねぇ…
自分が書きたいざまぁ?を書いてしまったので不快な気分にさせてしまったら申し訳ないです。