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ブリーフィング

「試験までは俺の家に泊まれや。」

と、言うや否やエルドさんはギルドを占める準備に取り掛かった。

「こんなに早く締めてもいいんですか。」

と芳が聞いた。この世界の宇宙(そら)がどうなっているかは知らないが、俺たちがいた世界で言う太陽らしきものがまだ空高く昇っているような時間である。

「いいんだ、いいんだ。どうせ誰も来ないからよ。」

「?」

「クエストは町の掲示板でも確認できるし、報酬の受け渡しは商会が担ってくれている。

正直、ギルドなんかに来るのは冒険者登録をしに来る新人か、掲示板に乗せられないようなクエストを受けに来るような変わり者だけさ。」

と言い、再び作業に取り掛かった。

 ギルドを閉めると、エルドさんは少し町の案内をして家に連れて行ってくれた。

 エルドさんの家は、僕たちが転移した町の近くにある森の中にあった。

「お邪魔します。」

と、家の中に入る。つい癖ではいていた靴を脱ごうとしてしまうが、エルドさんがそのまま入っていくのを見るに、どうやら家の中で靴を脱ぐという文化がないらしい。見た感じエルドさんは一人暮らしのようである。エルドさんの家は木造で二階建てのそれなりに大きな家であった。木造でかなり年季が入っていそうだが、頑丈そうで崩れたりする恐れはなさそうだ。するとエルドさんが早速部屋分けを始めた。

「俺が1階を使うから、あんちゃん達は2階を使ってくれ。」

「わかりました。」

 俺たちは2階に上がり言われた部屋に入って一息ついた。2階には部屋が二つあり俺たちは片方を使わせてもらえることになった。もう片方は物置で寝泊まりには使えない。今いる部屋は誰かが生活していた形跡がある。エルドさんは俺たちのほかにも新人を家に泊めているのだろうか。

 部屋にはなにやら本がびっしり詰まった本棚と二つベッドがあって、ドア側を俺、奥側を芳が使うことになった。奥側には窓があり、ガラスがはめられていた。この世界にはガラスもあるようである。

 物が散らかっているわけではないが、かなりほこりがかぶっていたので掃除を始める。2人が納得のいくまで掃除をし、気づけば夕日はもう、窓から見える山の稜線に差し掛かっているところであった。その時、ちょうどエルドさんから

「飯ができたぞ!」

との、知らせがあった。1階に降りると、豪華な夕食が食卓に並べられていた。

「さあ、冷めないうちに早く食え。」

エルドさんに催促されて、俺たちは急いで食卓に着いた。

 エルドさんの作る料理は実に美味であった。特に、近くの川でとってきたらしい魚の煮物はマジでうまかった。

 晩飯を食べ終わり、火を起こして川から汲んできた水を温めてお風呂に入る。何かが浮いていたような気がするが天然ものだから仕方がない。

風呂から出ると、エルドさんは何やら誰かに手紙を書いているようだったので邪魔をしないように2人そろって静かに2階に上がった。そして今、ここエルド家2階では作戦会議が行われていた。

「よし、まずは現状確認だ。」

そう芳が切り出した。

「まず、俺たちは異世界に転移した。より正確に言うと、地球ではないどこかだ。

ほかの惑星に飛ばされた可能性もあるからな。」

「タイムスリップの可能性は?」

俺が問うと、

「それもあるかもしれないが、少なくとも場所は移動しているだろう。」

俺は、今日見た街の様子を思い出す。確かに、歴史の授業で習ったような日本には到底見えなかったし、未来の日本とも思えない。場所は移動しているだろう。

「そして、使えるものは何もない。なぜだか知らんが荷物は一緒に転移してこなかったからな。」

いま俺たちが置かれている状況は最悪に近いだろう。だが、希望もある。

「まあ、これからどうするにしてもランク試験は受けなければならないだろう。」

芳は、そこで一度区切って

「そこでだ蓮、この世界において俺らの強みって何だと…」

「なんか強そうなスキルとか」

「ま、まぁそれはそうなんだが…」

芳が苦笑しながら返す。

そして数秒後、

「あ、分かった。俺たちが別の世界から来たってことだ。」

「そう、俺たちは別の世界から来た。そして今日見てみた限りは、この世界の文明レベルは元居た世界よりも圧倒的に低いだろう。つまりこの世界のやつらが知らないことを俺たちは知っている。一部、魔法とか俺たちが理解できないようなものもあるようだが。」

 確かにそうだ。今日見た街並みは、さながら中世ヨーロッパのようであったし、水道の整備もないくらいのレベルであった。

「といってもこの世界を知らない限りは話が進まない。とりあえず明日この町を散歩でもするか。」

「そうだね。服はなぜか制服のままだったし買いに行きたい。」制服のままだと初めてエルドさんに話しかけた時みたいに周りから変な目で見られる。

「それじゃ、明日の予定を整理していく」

芳がそう切り出した。

「まず、朝飯はエルドさんに頼んで朝飯を食べたらすぐ町の散歩…」

「……!。か、芳!この本棚の中の本、魔法のことについて書かれてる!」

「お前は相変わらずマイペースだな。今予定確認を…。ってまじか!?」

「ほら」

そう言って俺はベットに腰をかける芳に本を投げ渡す。

「ほ、ほんとだ…。よし蓮、明日の予定変更だ。今度はしっかり聞け…」

「あ!芳!なんか地図みたいなのも挟まってた!」

「……お前、話聞くきあんのか。」

呆れた声で言われたが、なにも気にせず先ほど同様、地図を芳に投げた。

「ま、あったほうがいいか」

と言ってさっと目を通した後、折ってポケットに入れようとし

「あ、そっかこの寝巻きポケットねーのか」

風呂上がりエルドさんに寝巻きを貸してもらったのである。

「お前って意外と抜けてるよな」

「お前の前だけな」

「…そういうとこだよな。」お前がモテるのって。『お前だけ』というワードで今までどれほどの女子がこいつに騙されたことか。

「なんだよ。そういうとこって」

しかも天然のたらしでまじ草。

「と、とりあえず、明日の予定を確認しよう」

「確認できなかったのはお前のせいだけどな」

そう言いつつも芳は確認を始める。

「まず朝飯はエルドさんに頼むとして、エルドさんに魔法の本を読んでいいかを聞いてよかったらそれを読む。んで昼から町の散歩だ。」

「朝飯食べて、本読んで、散歩」

俺が明日することを呟いていたら、

「もう遅いし寝ようぜ」と芳が言ってきた。

「そうだな、ていうかこの明かりどうやって消すんだ?」おそらく魔法でつけられている。

するとタイミングよくエルドさんが2階に上がってきて、

「そういや、明かりの消し方教えてなかったな。

これは光の魔法でついている。こう魔法を体の中に吸い込む感覚ですると消せるぞ。まあ、その感覚を掴むには時間がかかr…」

「「よっ」」

不思議な感覚だ。なにかが血管を通って全身を巡り最終的には身体の中心に集まるかのような感覚があった。

そして、二つついていた明かりが同時に消え部屋が真っ暗になった。

「意外と簡単だな」

と俺が呟くと、

「だな」

と芳の声が返ってきた。

「まじかよお前ら」

エルドさんの声で夜は幕を閉じた。




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