プロローグ
「金髪エルフに猫耳娘、冒険者ギルドらしきものに鍛冶屋らしき建物も・・・・・・」
と俺が目をキラキラさせ顔を横に向けると同じ事を考えていたであろう彼もこちらへ顔を向けていた。
そして2人は声を合わせて言った。
「「まさかここは、異世界!?」」
俺たちの叫び声が虚しくも、だだっ広い大空に吸い込まれていく。
そもそも”俺たち”が何者でどのような混沌の人生を歩んできたかを紹介しよう。
まずは、俺。俺の名前は日上 蓮、14歳の中学三年生。テニス部に所属していてスポーツは基本平均以上にできる。が、その反面、頭が悪い。というか勉強アレルギー。そしてなぜか知らんが周りから「厨二病」だの「ヲタク」だのと呼ばれている。
そして、俺の隣にいるこいつは、水上 芳。こいつもなかなかの中二病でヲタク(ミリオタ+アニヲタ)である。
芳は一言で言うと、頭が良い。定期テストでの順位は一桁常連だ。そして、ヲタク&頭いい奴の象徴メガネをつけている。頭の悪い俺とは正反対である。芳とは幼稚園からの付き合いで、今も同じクラス、共にテニス部に所属している。芳が持っていないものは俺が持っていて、俺が持っていないものは芳が持っているという我ながら良いコンビだと思う。が、2人とも陰キャであるがゆえに、スクールカーストは最底辺。最弱である。
まあ、自己紹介はこんなもんとして、問題は、なぜ平凡なはずの俺たちが冒頭からあんなことを叫んだかだ。
それは遡ること数分前。
俺たちはいつも通り一緒に登校していた。見慣れた通学路。重い荷物。使い込んだラケット。
ありふれたワンシーンだった。すると、目の前を1匹の蝶が通り過ぎて行った。
俺たちはなんだか無性にその蝶を追いかけたくなった。我々ながら小学生のようである。
そしてついに俺たちは追いかけたい欲に負けその蝶を追いかけて路地裏に入ってしまった。
追いかけ始めて約数分後、路地裏を抜けたその瞬間まぶしい光と同時に現代日本ではありえない光景が広がっていた。
どこかの町の中心部であろう石畳の広場。
レンガ造りの家々。
上を見上げると、日本ではもう見られないような澄み切った青空。
開いた口が塞がらない。
「金髪エルフに猫耳娘、冒険者ギルドらしきものに鍛冶屋らしき建物も……」
と俺が目をキラキラさせ顔を横に向けると同じことを考えていたであろう芳もこちらへ顔を向けていた。
そして2人は声を合わせて言った。
「「まさかここは、異世界⁉」」
俺たちの叫び声がだだっ広い青空に響き渡る。
そして冒頭に戻る。
まさかと思い2人同時に振り返る。やはりそのまさかが当たっていた。走ってきた路地裏の道がなくなっていたのである。そこもやはり路地裏のようであったが、コンクリートでなくレンガ造りの家が連なっている。
「まじでさいこっ…じゃなくて。ど、どうする?」
と俺が嬉しさと困惑が入り混じったような表情で聞くと、「ああ、まじでさいこっ…じゃなくて。この世界について知るのが最優先事項じゃない?元の世界に帰るにしても、この世界で暮らすにしても。そのためにも先ずはその辺にいる人に声をかけてみよう」
と芳が冷静に答える。俺はこの冷静さにいつも安心感をもらっている。
「あ、あの~」
と俺たちはすぐそばを通りかかった獣人族らしき男性に恐る恐る話しかけた。
「なんだ?」
日本語じゃない。だが意味は分かる。
「あのー、えーっと」
口から自然と出てくる言葉も日本語じゃない。芳もかなり困惑しているようでなかなか言葉が出てきていない。こちらが回答に困っていると、獣人族の男性は迷惑そうな顔をして
「困ったことがあるならあそこのおっさんに聞きな。」
と、広場の隅を指さした。そこには、1人の屈強なおっさんが立っていたのだ。
ギルドのようなところの前に立っていた、これまたいかにもギルドマスターっぽい男に話しかける。
「あの~、すいません」
と、声をかけると
「あん、見ねー顔だな。なんか用か?」
と男が強面の顔でにらんできた。俺も中学三年生にしては身長が高いほうだが、その男と話すためには見上げる必要があった。2mはあるのではないだろうか。
「あぁ、俺はここのギルドマスターのウィーン・エルド。
マスターと呼んでくれ。よろしくな。」
強面の割は気さくなおっさんである。これが一部界隈で人気の「ぎゃっぷもえ」というやつか。
「僕たちは…」
「あぁ、分かってる分かってる。冒険者登録しに来た新人だろ。登録したほうが便利だもんな。」
と言い、冒険者登録について説明し始めた。そんなつもりはなかったのだが、聞くだけ損はないだろう。
マスターの話を簡単にまとめると、まず冒険者になるには、ライセンスが必要で、
ライセンスにはランク(E~S)があり、Eは白色、Dは水色、Cは緑色、Bは赤色、Aは銀色、Sは金色と
決められている。ほとんどの冒険者はE~Bランクで、Aランクが200人ほどSランクが現時点で5人だけだそうだ。
ランクによって受けることができるクエストが変わってきて、
もちろん高いランクになればなるほどこう難易度のクエストが受けられる。
そのランクのつけ方は、年に2回ギルドごとに行われるランク試験の成績によって決まる。ルールは簡単、1日のうちにできるだけ多くの魔物を狩りマスターのところに持っていく。それだけだ。パーティーで試験に挑むのもいいらしい。
試験場所はどこでもオーケー。また、試験には安全のためBランク以上の冒険者が各パーティーに2人同行する。
判定基準は量と質。たくさん狩れば狩るほど良いのだが、弱い魔物をひたすら狩っていても仕方がない。やはり強い魔物であらばあるほど一体あたりのポイントが高い。超強い魔物を一体狩り一発逆転を狙っても良い。
ちょうど一週間後に試験があるということで、何事も挑戦。この世界のことを知るためにも俺たちは試験を受けることにした。
ランク試験の申し込みのついでにマスターが俺たちのステータスを見てくれるそうだ。特に、断る理由もないので素直に従ってみることにした。
「職種能力ビジネススキル、能力判定!!」
マスターがそう言うとゲームに出てくるような半透明のステータス画面が俺たちの前に出てきた。
「お、ほんとだ。なんか出てきた。」
つい触ろうとするが、触れない。どうやら実体はないらしい。
俺たちは、各々のステータスをみて、
「町人Lv.1って...」
「しょぼいな。」
するとマスターが
「おおっ、これは!!」
僕たち希望の光がっ...
「見事に凡人だな。」
見えたと思った時期がありました。
「「凡人かい!!」」
俺たちがずっこけているとマスターが
「まぁ、努力すればステータスを上げることもできないこともない。がんばれ。」
と、かわいそうなものを見るような目で励ましてくる。
「ほれ、お前らにはスキルがあるじゃないか」
「あ、ほんとだ」あの定番の!俺たちは活気を取り戻した。
単純だなと言わんばかりの呆れた視線を向けられたがそんなことは気にしない。今重要なのはいかに強いスキルか、だ!
「ん?こりゃすげー俺は28年間この仕事をやってるがお前らのスキルは見たことないな。」マスターが驚いた表情で言う。
「ま、まじですか!!」
俺のステータス画面には”固有能力:破壊者Lv.0”
芳のを見ると”個有能力:創造者Lv.0”
「「な、なんかカッケー」」
2人が声をそろえる。
「でも、Lv.0ですよ。」
芳が言うと
「ハハハ、初めからスキルが使える奴なんていねーよ。スキルを使いたきゃまずは冒険者になりな。」
どうやら運命を操る女神様は俺たちが苦しむ姿を見るのが好きらしい。
「ところであんちゃん達、この町に住んでいるわけじゃないんだろ。今日泊まる宿はあるのか。」
「ないです...泊まる宿どころか今晩の飯もないです。」
と芳が下を向きながら答えた。
「よし、分かった。」
「「?」」
「試験までは俺の家に泊まれや。あと、飯は俺の家で食ってもいいし、出世払いで金貸してやるから自分たちで食ってきてもいいぞ。」
「「ありがとうございます!!」」
2人声を合わせて言った。
前言撤回、女神様ありがとうございます。