7、来訪
フローラは久しぶりにお腹がいっぱいになった状態で神殿に帰った。
部屋に戻りベッドに入ると直ぐに眠くなった。
朝になった。
レイスに呼ばれ、フローラは目を覚ました。
朝の身支度を済ませ、フローラはレイスと共に食堂に向かった。
「神子様、ずいぶん顔色が良いようですけれども何か食べたのですか?」
「……いいえ、なにも」
フローラはレイスに詮索されるのが嫌で嘘をついた。
「ふうん」
レイスはつまらなそうに口を尖らせた。
「はい、神子様」
「ありがとうございます、レイス様」
レイスはフローラにパンを渡すふりをして、わざと床にそれを落とした。
フローラは何も言わず、パンを拾い上げると埃を払ってからそれをレイスの皿に置いた。
「まあ、神子様? 何をするんですか!?」
「貴方がしたことをしただけですわ、レイス様」
レイスはフローラがやり返してきたことに驚いた。
「まったく、気の弱いフリが上手ですこと」
レイスは新しいパンを取り、皿の上のパンを机の上に避けた。
フローラも新しいパンを取り、食事の準備をした。
「食前の祈りを捧げます」
フローラの言葉に、レイスが眉をひくりと動かした。
「信じても居ない神に祈りを捧げるのですか?」
「私の心を読めるのですか? 偉くなりましたわね、レイス様」
フローラはもう、レイスに従うことをやめた。
「神子にその言葉使いは問題があるのでは無いですか? レイス様」
レイスは黙った。そして、フローラを睨み付けた。
食事を終え、フローラは図書室に移動した。
面白そうな本はもう読み尽くしている。
残っているのは聖書くらいだった。
フローラはこの町に伝わる聖書を読んだが、神の力と偉大さについて書かれているだけで興味は引かれなかった。
そうこうしているうちに、昼になった。
「神子様、お客様がお見えです」
「え? ……お父様達かしら?」
フローラの希望は打ち砕かれた。
「いいえ、この土地の一番の名士、ダグラス伯爵ですわ」
レイスは面白そうに、口の端を上げて笑っていた。