62.夕食
お茶の時間を終えるとアルフレッドは「また、夕食の際にお会いしましょう」と言って、中庭から去って行った。
残されたフローラとイーディスはお互いに無言で見つめあい、礼儀正しく微笑んだ。
「フローラ様は、アルフレッド様のどのようなところに惹かれたのでしょうか?」
イーディスが単刀直入に聞いてきたので、フローラは面食らった。
「え、ええと。優しいところでしょうか?」
フローラの言葉にイーディスは頷いた。
「そうですか。……優しい方は誤解されやすいですからね」
イーディスが口角を上げる。
「優しさと好意をとりちがえるのもよくあることですから」
付け足すようにイーディスが言った。
「……え?」
フローラがイーディスの目を見ようとすると、イーディスは空を見上げて微笑んでいた。
「では、ごきげんよう」
イーディスが中庭を後にした。
一人残されたフローラは椅子に腰かけ、ため息をついた。
「私、どうすればいいのかしら……」
フローラはとりあえず部屋に戻ることにした。
***
フローラが部屋で本を読んでいると、ドアがノックされた。
「フローラ様、夕食の準備が整いました」
「まあ、もうそんな時間ですか? ありがとうございます、トレヴァー」
フローラが食堂に着いた時にはアルフレッドとイーディスが、にこやかに話をしていた。
「こんばんは、フローラ」
「ごきげんよう、フローラ様」
「遅くなってしまって申し訳ありません」
フローラは頭を下げながら、アルフレッドの隣に座った。
「明日、バレエを見に行こうと言われたんですよ」
イーディスが得意げにフローラに告げる。
「ええ、三人で行きましょう」
イーディスは右眉をピクリとひきつらせたが、口角はあげたままアルフレッドに言った。
「……私、アルフレッド様と二人で行くのかと思っておりましたわ」
「楽しいことは、みんなで体験したほうが良いと思ったのですが?」
アルフレッドは不思議そうな表情をした後、イーディスに向かって微笑んだ。
「あの、お二人で行かれてはいかがですか? 私は家にいても良いですし……」
フローラの言葉が終わる前に、アルフレッドが言った。
「まさか! 婚約者を置いて女性と二人で出かけるはずがないでしょう?」
そう言って、きょとんとするアルフレッド。アルフレッドから視線を外し、ちらりとフローラを見たイーディスの顔が一瞬だけれども苦々しくゆがんだのをフローラは見なかったことにした。
アルフレッドは肉を一切れ食べてから、また話し始めた。
「バレエを見るのは久しぶりです。イーディス様、バレエはお嫌いではないですよね?」
「時々見に行きますわ」
イーディスは綺麗な笑みを作ってアルフレッドに答えた。
「よかった。ご婦人の喜ぶことが思いつかなくて」
「フローラ様もご婦人だと思いますが?」
イーディスは、ほんの少し含みをもった口調で言葉をはさんだ。
「ああ、そうですね!」
アルフレッドは「今気づいた」と言う様子で目を丸くすると、フローラにウインクをした。
フローラは口角を上げて首を傾げた後、何も言わずにスープを口に運んだ。
それを見ていたイーディスは、笑いをこらえるような表情でワインを飲んでいた。




