60.屋敷の案内3
アルフレッドは物置にしているサロンを出て玄関前を過ぎ、階段に向かった。
フローラとイーディスはその後に続き、廊下を歩く。
階段の前でアルフレッドは立ち止まり、壁に駆けられた肖像画を見上げた。
「こちらは私の両親、あちらは父の祖父母です」
右手で肖像画を指し示しながら、アルフレッドはイーディスに説明した。
「両親は私がまだ幼いころに事故で亡くなってしまいましたので、祖父母が育ててくれました」
「……伺っております。大変でしたでしょう? 心が痛みますわ」
イーディスは口元を手で押さえ、アルフレッドを慰めるように微笑んだ。
「祖父は仕事熱心でした。いつも祖母が私の面倒を見ていましたね。祖父母は私のことをかわいがってくれていたので、大変だったことはありませんね」
「良いおじい様とおばあ様でしたのね」
イーディスは口元に手を当てたまま、優しく微笑んだ。
「食堂も広間も客間も、もうご案内していますね……ほかにお見せしていないのは……」
「ダグラス家に代々伝わるネックレスが素晴らしいとジェリー様に伺ったのですが」
「ああ! そうでしたか! でしたら宝飾品の部屋をご案内いたしましょう」
無邪気なアルフレッドの後ろで、フローラは若干の不安を感じた。
「他人の家に来て、宝飾品を見せて欲しいなんて、普通、言わないのではないかしら?」とフローラはアルフレッドに囁くと、アルフレッドは「そうかな?」とあまり疑問を感じていない様子だった。
アルフレッドは階段を上り二階の廊下を進んだ。奥の部屋のドアを開き、イーディスとフローラを中に入れた。
「我が家に代々伝わっている装身具を保管しております」
「まあ! なんて立派なダイヤのネックレスなのかしら。あちらのサンゴのペンダントも素敵ですわ」
イーディスは目を輝かせている。フローラはその様子を冷めた目で見ていた。
「今はフローラに自由に使ってよいと言っているのですが……」
アルフレッドの視線を受けたフローラは小さく首を横に振った。
「私が身に着けるなんて、恐れ多くて」
フローラが少し困ったような笑みを浮かべると、イーディスは目を細めて、フローラの耳元で、彼女にだけ聞こえる声でつぶやいた。
「そうですわね」
フローラが驚いてイーディスを見ると、イーディスはもうフローラから離れ、熱心にダイヤモンドのネックレスをじっと見つめていた。
「屋敷内の案内は以上です。この後は庭園をご案内いたします」
アルフレッドが宝飾品の間を出て行くと、イーディスとフローラも後に続いた。
イーディスは部屋を出る前に、名残惜しそうに飾られた宝飾品をもう一度眺めていた。




