58.屋敷の案内
昼食を終えると、アルフレッドはイーディスに言った。
「屋敷の案内の件ですが、三時くらいに広間に来ていただけますか? フローラとお待ちしております」
アルフレッドはダークグレーの瞳でイーディスを見つめ、微笑んだ。
「分かりました。それでは、またお会いいたしましょう」
イーディスはフローラをちらりと横目で見てから、アルフレッドを見つめなおすとお辞儀をして食堂を去った。
「と、いうわけでフローラ、三時に広間で会おう」
アルフレッドは椅子の背にもたれかかると、オールバックになでつけた灰色の髪を触り、顔をしかめた。
「……早く髪を洗いたいよ。こんな風に髪を固めているのは性に合わない」
ため息をつくアルフレッドにトレヴァ―が言った。
「イーディス様がいる間は髪を固めておきたいとおっしゃったのはアルフレッド様ですが?」
「だって、いつもの寝癖のついたくせ毛を見せたら、イーディス様に怒られそうな気がするからさ。それに、オールバックにしたほうが年相応に見えると思うし」
「まあ、そんなに色々考えていらっしゃったんですか?」
フローラが目を丸くしてアルフレッドを見た。
「まあね」
アルフレッドは得意そうな笑みを浮かべて、髪を触った手をハンカチで拭いた。
「僕は書斎に行くよ。何かあったらいつでも呼んで」
「わかりました。私は……図書室にいます」
「それじゃ、また後で」
アルフレッドが食堂を出て行くと、フローラも図書室に向かって歩き出した。
***
二時五十分になったのでフローラが広間に行くと、すでにイーディスが椅子に腰かけていた。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません」
フローラが申し訳なさそうな微笑をたたえて言うと、イーディスは立ち上がり口角を上げた。
「いいえ、私が早かっただけですわ」
イーディスは、相変わらずどこか冷たい目でフローラを見た。
「アルフレッド様はまだいらっしゃってないようですね」
フローラが独り言のようにつぶやくと、イーディスも口を開いた。
「そのようですわね」
イーディスはそれ以上何も言わない。
フローラも何を言えば良いのか分からず、部屋は沈黙に包まれた。
「おまたせして申し訳ありません」
「アルフレッド!」
フローラは、ほっとしてアルフレッドを見た。
アルフレッドはフローラにむかって小さく頷いた。
「アルフレッド様、お待ちしておりましたわ」
イーディスは指先で唇を押さえたまま、微笑んだ。
「それでは行きましょう」
アルフレッドはフローラに向けて腕をだす。フローラはイーディスの顔色を伺いながら、アルフレッドの腕に手を添えた。
「本当に仲のよろしいこと」
イーディスは口元だけで微笑みながら、フローラにだけ聞こえる声でささやいた。




