55.訪問者
「おはよう、フローラ」
「おはようございます、アルフレッド様」
「アルフレッドと呼んでくれないのかい?」
アルフレッドは甘い笑顔でフローラを見つめた。
「アルフレッド?」
「改めてよろしく。婚約者さん」
フローラは、今日からお客様が来ることを思い出し、ため息をついた。
「アルフレッド様、私は婚約者として、どうふるまえばいいのでしょうか?」
「さあ? 僕も婚約は初めてだからわからないよ」
そう言った後で、フローラの手を取る。アルフレッドがフローラの手の甲にキスをした。
「こんな感じかな?」
小首をかしげるアルフレッドの愛らしさに、フローラは複雑な心持になった。
「……朝食にしませんか?」
「そうだね、おなかがすいた」
二人は食堂に入ると、隣り合って座った。
「付添人もいないのに、婚約者と一緒に暮らすのは問題ないのでしょうか」
フローラは不安に思っていたことをアルフレッドに尋ねた。年頃の男性と二人きりになれば、どんなうわさがたってもおかしくない。今まではメイドという立場だったから気にしなくても大丈夫だったけれど……とフローラはため息をついた。
「いまさらだねえ」
アルフレッドはニヤリと口元をゆがめて、フローラを横目で見た。
「あ、今日のオムレツにはチーズが入ってるね。僕、これ好きなんだ。ありがとうトレヴァー」
トレヴァーは何も言わず軽くお辞儀をした。
「イーディス様はいつ頃いらっしゃるのでしょうか?」
「さあ? 手紙には今日来るとしか書いてなかったからね」
アルフレッドは大して気にも留めていない様子で、オムレツをつついている。
「そうですか」
フローラは姿勢を正し、スープを飲んだ。
朝食を終え、二人は広間でくつろいでいた。アルフレッドは新聞に目を通し、フローラは詩集を読んでいる。窓から陽光が注ぎ、穏やかな時間が流れている。
外から、馬車が近づいてくる音がした。フローラは詩集を棚に戻し、身構えた。
「お客様がいらっしゃったようです」
「そのようだね」
トレヴァーは玄関の扉を開け、客を出迎えに行った。
しばらくすると、玄関に着飾った女性が現れた。ツンとした雰囲気の美しい女性だ。
「おまちしておりました。イーディス様」
「はじめまして、アルフレッド様。あら? そちらは……?」
「はじめまして、イーディス様。フローラ・リースと申します」
アルフレッドがフローラの肩を抱いて、微笑みながら言った。
「ジェリー伯母様にも説明したはずですが……私の婚約者のフローラです」
「まあ。そんな話、聞いておりませんわ。……ジェリー様は甥のアルフレッドを正しく導いてほしいとおっしゃっていましたわ……」
「なにか、誤解されたようで」
アルフレッドは笑って首を傾げた。
「ジェリー様は、私にアルフレッド様と結婚を前提としたお付き合いを考えて欲しいとおっしゃっていました。まさか、年頃の女性と一緒に暮らしていらっしゃるなんて……」
イーディスはフローラをあきれたような眼で見た。
「ジェリー様の心配する理由がよくわかりましたわ。まずは一週間、正しい生活というものを教えて差し上げます」
イーディスはそう言うと、フローラとアルフレッドを見て、勝気な笑みを浮かべた。
「トレヴァー、イーディス様を部屋に案内してくれ」
「かしこまりました」
トレヴァ―の後について、イーディスがゲストルームに向かった。
「なかなか大変そうだ」
アルフレッドが方眉を上げて、ニヤリ、と笑った。
「面白がっていませんか?」
フローラは横目でアルフレッドを見てから、ふう、と息をついた。




