54.準備2
「フローラ様、荷物はこれだけですか?」
「はい。一人で運べますから、大丈夫です」
「いえ、お運びいたします」
トレヴァーは荷物の入った箱を持ち、新しいフローラの部屋に向かった。
「すみません、トレヴァー様」
「ですから、トレヴァーとお呼びください、フローラ様」
「はい……」
フローラは肌着やハンカチを入れた軽い箱を持ち、トレヴァーの後に続いた。
フローラの使っていたメイド部屋から新しい部屋へ。三往復で荷物はすっかり運び終わってしまった。部屋の引っ越しはフローラが思っていた以上に簡単だった。
「やあ、もう終わったのかい?」
「アルフレッド様」
アルフレッドがフローラの新しい部屋を覗くと、中には荷物の入った箱が積まれていた。
「片づけ、手伝おうか?」
アルフレッドの申し出に、フローラは首を横に振った。
「見られたくないものもありますので……」
「ああ、それは失礼」
アルフレッドが部屋から出て行った。部屋に一人になったフローラは、改めて室内を見回して、ため息をついた。
可愛らしいデザインのクローゼットに、細かな彫刻で飾られた棚、しっとりとした質感の物書き机、天蓋のついたベッド……。
「まるでお姫様の部屋みたいですね」
フローラは服や本、細々としたものを片付けていった。
大体片付けが終わり、椅子に腰かけて一息ついていると、ドアがノックされた。
「フローラ、ちょっといい?」
「はい?」
フローラがドアを開けると、アルフレッドがにっこりと微笑んだ。
「フローラに使ってほしいものがあるんだ」
「なんでしょうか?」
アルフレッドはフローラの手を引いて歩き出した。
「こっちに来て」
「アルフレッド様?」
廊下の奥の部屋の前でアルフレッドは立ち止まりドアを開けた。中にはガラス棚と螺鈿で彩られた棚がずらりと並んでいる。その棚に飾られているのは、大きな宝石のついたペンダントや耳飾り、ブローチなどの宝飾品だった。
「これから、この部屋にあるものはどれを使ってもいいよ。母上の使っていたものだから、フローラの好みに合うかはわからないけど」
フローラは青ざめて言った。
「こんな高価なもの……使えません」
「何を言ってるんだい? 君は伯爵の婚約者なんだよ?」
アルフレッドは恐縮するフローラを見て、ふきだすように笑った。
「明日から、あの口うるさいジェリー伯母様が気に入ってる女性が来るんだからね。君が貧相な恰好をしていたら、何を言われるか分かったものじゃないよ。……イーディス様だっけ? きっと面倒な人なんだろうなあ」
アルフレッドは眉を八の字にして、肩を落とした。




