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学校の便所飯の正体

作者: ウォーカー

 その男子学生が通う学校は、本州のある山奥の、閑静な森の中にあった。

学校の周辺は手つかずの山が広がっていて、自然豊かな立地に建っている。

その学校の特色は他にもあって、

昔から言い伝えられている怪談がいくつもあった。

夜、学校の構内を歩いていると、幽霊の気配がする。

悪魔の咆哮が聞こえる。

未確認生物の姿を見た。

などなど。

そんな曰く付きの学校に、今日もその男子学生は姿を現した。

その男子学生が登校してきたのは、日も傾いた夕方近く。

今から授業を受けるのかというと、そうではなく。

その男子学生が向かったのは、

授業を受ける教室がある校舎とは別の建物、

部活動や同好会の活動をする部室がある部室棟だった。

その男子学生は慣れた様子で部室棟の一角にある部屋へ向かっていく。

学生自治会室と書かれた部屋の前に来ると、その扉を引く。

すると中では、数人の学生達が机を囲んでいるところだった。


 その男子学生は学生自治会に所属している。

学生自治会と言えば、活気にあふれた学生達の集団を想像するもの。

しかし、その男子学生が通う学校の学生自治会は、少しばかり事情が違う。

その学校の学生達は、良く言えば自主独立、

悪く言えば付き合いが悪い学生が多かった。

そのせいか、

新入生歓迎会や学園祭などの学校行事等の集まりが悪く、

学生主催の行事は小規模なものか、あるいは開催されないことがほとんど。

それに応じて学生自治会の出番も少なく、

普段の仕事と言えば、雑用や苦情処理などの裏方仕事ばかり。

活気とは程遠い、どちらかと言えば学校の落ちこぼれ達の集団、

それがこの学校の学生自治会だった。

その一員であるその男子学生は、今日も欠席した、

学校の周辺地域の歴史に関する授業のノートを目当てに、

自治会室に顔を出したのだった。


 その男子学生が自治会室の中へ入ると、

中では自治会に所属する学生達が数人、机を囲っているところだった。

どうやら、これから会議が行われるところのようだ。

学生の一人が、その男子学生に向かって声をかける。

「やあ、君も来てくれたのか。

 丁度これから会議を始めるところだったんだ。

 適当な席に座ってくれ。」

その男子学生は会議に参加するつもりは無かったのだが、

今更帰るわけにもいかず、端っこの席に腰を下ろした。

誰にも聞こえないような小声で愚痴る。

「今日は授業のノートを借りに来ただけだったんだけどな。

 まあ、うちの自治会の会議なんて、

 ただのお喋りに毛が生えた程度のものだから、座っていればいいか。」

観念して話を聞くことにする。

「諸君。

 今日はよく集まってくれた。」

まず発言したのは、自治会の会長である男子学生だった。

落ちこぼれの集団である学生自治会の中で、自治会長はその筆頭。

少し影を抱えた眼鏡の優男やさおとこの風体は、女子学生には一定の人気がある。

しかしその内情は、年齢不詳、学年不詳。

何度も留年を繰り返した結果、

本人も自分が今何回生なのか覚えていないのではと噂されている。

学校の近所の山の中にある実家から通っているはずだが、

授業がある時も無い時もいつも学校の構内にいて、

いつ家に帰っているのか定かではない。

そんな謎多き人物、それが自治会長だった。

その自治会長が、学生達に向かって話をしている。

「私から話をする前に、

 まず諸君から何か話しておくことはあるか?」

自治会長の言葉に、自治会室に集まっていた学生達がちらほらと手を挙げた。

端から順番に用件を説明していく。

「うちの自治会で貸し出しをしている備品の、

 返却期限を過ぎているものがいくつかあります。

 でも、返しに来る気配がありません。」

報告を受けた自治会長が、眼鏡を光らせて応える。

「借りた物を返さない不届き者がいるのか。

 よし、それならこちらにも考えがある。

 取り立てに容赦は無用だ。

 何なら、学生証を奪ってしまえ。

 大抵の学生はそれで大人しく言うことを聞くようになる。」

次の学生が報告する。

「学校の構内に野生動物が入り込んでいると噂になっています。

 昨日も食堂の食べ物が荒らされていたとか。」

その話には、他の学生達が応える。

「それって、学生バイトがつまみ食いでもしたんじゃないか。

 食いしん坊な学生がつまみ食いなんて、よくある話だよ。」

「それか、野犬でも入り込んできたのかもな。」

「私、狸が入ってきたのを見かけたことがあるわよ。

 ちっちゃくてかわいいの。」

「居着いた野良猫も、何匹もいるものね。

 なにせこの学校、山の中にあるんだもの。

 動物が入ってきたなんて、そんなに深刻なことかしら。」

のんびりした会話に、自治会長は真剣な様子で言う。

「ふむ、そうかもしれないな。

 しかし、野犬は人を襲うこともある。

 甘く見ていると危険かもしれない。

 念の為に、夜遅くまで構内に残らないように、

 張り紙でもしておくことにしよう。

 諸君も早めに下校するようにしてくれ。

 他に報告はあるか?」

自治会室に集まった学生達がお互いの顔見る。

誰も発言しないのを確認して、自治会長が口を開いた。

「では、私からの話だ。

 学校の事務局から度々言われていることだが、

 改めて、この自治会室を明け渡すように言われた。

 うちの学生は学校行事への参加率も低く、自治会の活動実績が乏しいからな。

 専用の部屋を用意する必要は無いと言われてしまった。」

すまなそうに話す自治会長に、学生達が反論する。

「そんな!

 この部屋が使えなくなったら、俺達はどこで活動すれば良いんですか。」

「その都度、空き教室の貸し出しを申請するように言われている。」

「それって、毎回借りられる教室が変わるってことですよね。

 それじゃあ、どこに集合するのか事前に連絡することが必要になるし、

 部屋に荷物も置いておけないわ。」

「授業のノートのコピーは結構重たいんだよな。

 部屋に置いておけないと、持ち運ぶのは大変だぞ。」

「あんた、それが目当てなんでしょう。」

「いやいや、冗談だよ。

 授業のノートについては脇に置くとして、

 きっと学校にとっては、

 学校の宣伝にならない学生活動は邪魔なんだろうよ。」

「学校のそういうやり方が、

 学生の行事参加率を下げてるんじゃないのか。」

学生達は、やいのやいのと文句を言っている。

やがてその矛先は自治会長に向けられる。

「自治会長、何とかなりませんか。」

学生達に詰め寄られるようにして、自治会長は頭を掻いて応えた。

「うーむ、そう言われてもな。

 私もこの自治会を変えたくは無いんだ。

 一度規模を縮小すると、元に戻すのは大変だからな。

 今は不要でも、いつか何かの役に立つ日が来るかも知れないし。

 維持するためには実績が必要だろうな。

 この自治会が必要だという実績が。」

「実績?」

「例えば、大きな学生活動を主催したとか?」

「その活動ができないから、困ってるんじゃないか。」

「どっちにしろ、俺達には無理そうだな。」

活動ができないので規模を縮小するように要求される。

それをくつがえすには目立った活動実績が必要。

必要なものがぐるぐると回ってしまう。

怒りからやがて諦めへと、学生達の表情が落ち込んでいく。

そんな学生達の姿を見かねて、自治会長が手を打って口を開く。

「そんなに落ち込まないでくれ。

 ・・・そうだ。

 実はそのために丁度いい話があるんだ。」

自治会長は咳払いを一つして、学生達に向かって話し始めた。


 学校の事務局から、

活動実績に乏しい学生自治会に専用の部屋は不要と言われてしまった。

このままでは自治会の活動に影響が出てしまう。

それを避けるには、学校の事務局に対して、

この自治会が必要だという実績を示すしかない。

自治会長にはその心当たりがあるようだ。

自分を取り囲む学生達を励ますように、自治会長は話し始めた。

「実はな。

 事務局からもう一つ話がきているんだ。

 この学校の構内、特にトイレが時折ひどく汚損おそんしているというのだ。」

「汚損?

 汚れたり損傷したりしてるってことだよな。」

「トイレは使っていれば汚れたり壊れたりもするだろう。

 便座だって壊れて外れることもあるし。

 まして学校のトイレともなれば、使う人数も多いわけだから。」

「わたしたちに出番がある話なのかしら。」

もっともな指摘に、しかし自治会長は腕組みして言う。

「それが、通常では起こり得ない汚損なんだそうなのだよ。

 実際に掃除をしてくれているのは清掃員の方々なので、

 直接聞いたわけではないのだけどな。

 まるで、トイレの中で食事をしたみたいだというのだ。

 そんな話を聞いて、諸君は気にならないか?」

すると学生の一人が、頭の後ろで腕を組んでのんびりと言った。

「それって、便所飯べんじょめしじゃないのかな。」

「便所飯?なんだそりゃ。」

「知らないのか。

 近頃、トイレの個室で飯を食う人がいるって言われてるんだよ。

 トイレの個室って独りっきりの空間だろう?

 独りっきりになれるから、落ち着いて飯が食べられるんだとさ。」

「不潔!

 そんなことをする人がいるの。」

しかしその話には、その男子学生が反論する。

「でもそれって証拠が無いですよね?

 トイレの個室の中で何をしているか、本人しか知らないはず。

 だって外からは何も見えないんだから。

 ゴミ箱が見当たらなくて、

 トイレの個室にゴミを捨てていっただけかもしれない。

 弁当の包み紙が捨てられてるからって、

 そこで弁当を食べた証拠にはならないはず。」

「言われてみればそうね。

 でも、構内のトイレを調べて犯人を見つけ出せたら、

 自治会の活動としては認めてもらえるんじゃないかしら。」

「宝探しみたいで面白そうだな。」

「その宝物が隠されてるのはトイレなんだけどね。」

学生達がクスッと笑う。

話がまとまって、自治会長が満足そうに頷く。

「その通りだ。

 学校の構内の事情に一番詳しいのは、我々学生自身だ。

 きっと、事務局や清掃員にはわからないことも見つけられることだろう。

 でも間違えないでくれ。

 我々は犯人を捕まえる必要はないんだ。

 学則、つまり学校の校則で、

 トイレで食事をしてはいけないと禁止されているわけではない。

 トイレの汚損の調査をして、学内美化に繋がればいい。

 学内美化が進めば、トイレの汚損が収まることも期待できる。

 そうすれば、それを自治会の活動として報告できる。

 そのくらいに考えていてくれたらいい。」

「学内美化だのトイレ掃除だの、

 まるで宿題を忘れた中学生みたいね。」

「そう言うなよ。

 これくらい、俺はお安い御用だ。」

自治会室に集まった学生達は各々頷いている。

誰も反対する学生はいないようだ。

学生達の顔を確認して、自治会長が指示を出す。

「よし。

 では決まったな。

 各々で手分けして、トイレの汚損を調べてその清掃をする。

 損傷については業者に任せるとしよう。

 異常な汚損を見つけたら、写真だけ撮っておいてくれ。

 写真を撮った後は清掃だけしてくれたらいい。

 くれぐれも、使用中のトイレの写真は撮らないでくれよ。

 設備の汚損の報告のためだけのものだからな。」

そうして、その男子学生を含む自治会の学生達は、

学校の構内のトイレの汚損の調査と清掃をすることになった。

その学校の構内は広いので、

近くのトイレは高回生の学生が、

遠くのトイレは低回生の学生が、

それぞれ分担することになったのだった。


 日が暮れて暗くなりはじめた学校の構内。

その男子学生は、遠くのトイレの分担にされてしまい、

ぶちぶちと愚痴を溢しながら歩いていた。

「こういう時だけ先輩風を吹かすんだもんなぁ。

 遠くのトイレは自治会長がやるって言ってくれたのに。

 礼儀だの年功序列だの、言うことが古いんだから。」

その男子学生が分担として言い渡されたのは、

構内の外れの外れにある多目的トイレだった。

校舎がある構内の中央から外れて、

駐車場が広がるさらにその先にその多目的トイレはある。

たっぷり15分は歩かされて、

その男子学生はやっとそのトイレへと到着した。


 多目的トイレは、段差無しで中に入れる小屋のような建物で、

用を足す以外にも正に多目的に使えるトイレのこと。

引き戸を開けると、中は四畳半ほどもあるだろうか。

男女共用で防犯のために常に明かりが灯されていて、

便器以外にも洗面台や作業台のようなものがしつらえられていた。

「このトイレ、来るのも遠いし、

 中が広いから掃除も大変なんだよな。」

そうは言っても、自分だけサボるわけにもいかない。

その男子学生は観念して、多目的トイレの中を確認していく。

便器をざっと確認するが、あまり使われている様子は無い。

構外が近いせいか、床は泥のようなもので汚れている。

床の汚れの中に赤黒い汚れが残っている。

洗面台を見ると、そこにも赤黒い汚れがこびりついていた。

どの汚れも、微妙に色合いが違う。

「この汚れはなんだろう。

 絵の具かな。

 念の為、写真に撮っておくか。」

赤黒い汚れを写真に収めて、それから腕まくりを一つ。

「よし、こんなものか。

 鏡も割れてないし、後は掃除すればいいだろう。

 本格的な掃除は清掃員の人に任せるとして、

 泥を外に捨ててしまおう。」

備え付けのブラシを使って、泥汚れを外に掻き出していく。

泥は粘度が高く、思ったよりも手強い。

なんとか多目的トイレの掃除を終えて、

遠路遥々、その男子学生は自治会室へと戻っていった。


 その男子学生がやっと自治会室に戻ると、

他の自治会の面々は既に部屋に戻っていた。

その男子学生が自治会室の扉を開けると、

開口一番、上回生達から野次が飛ばされた。

「やっと帰ってきたか。遅いぞ。」

「みんな待ちくたびれていたところだよ。」

苦労して遠くの広い多目的トイレを掃除してきたのに、

褒められるどころか遅刻したかのような扱い。

その男子学生は口を尖らせて文句を言う。

「そんなこと言われたって、

 僕の分担したトイレが一番遠かったんだから仕方がないでしょう。

 だから、構内の事情に詳しい自治会長に頼めば良かったのに。」

すると、たしなめるように自治会長が口を挟んできた。

「まあまあ、諸君。

 それくらいにしてやってくれ。

 君、遠くのトイレまでご苦労だったな。

 それで、何か不審なところはあったか?」

「あ、それなんですが。

 赤黒い泥の汚れが付いてました。

 関係あるかはわかりませんが、一応写真に撮ってあります。」

「そうか。

 他の諸君の報告と合わせて確認しよう。」

そうして自治会の学生達は、構内のトイレを全て調べて、

通常とは違う汚損が見つかったトイレを報告していった。

その結果。

通常とは違う汚損が三件、報告に上がったのだった。


 学校の構内のトイレを全て調べた結果。

通常とは違う汚損が三件見つかった。

自治会長が自治会の学生達に写真を見せながら説明をしていく。

「諸君、聞いてくれ。

 調査の結果、三件の汚損が確認された。

 提出された写真を一つ一つ確認していこうと思う。

 まず最初、この写真を見てくれ。」


一枚目の写真。

写っているのは、構内のどこかのトイレの個室らしい。

もやもやぼやぼやとしていて不鮮明な写真。

壁には黒い染みの様な傷の様なものがいくつも写っているようだ。

写真を手にした学生達が、写真を縦に横にして確認する。

「これ、なんだろうな。

 ぼやけてて見にくいけど、失敗写真じゃないよな。」

「もちろんだよ。

 これは実際にこういう状態だったそうだ。

 誰か、気がついたことはないか。」

そう言われても、これだけでは何が何だかわからない。

そんな様子で顔を見合わせる学生達。

見かねて自治会長が言う。

「誰か分かった者はいないか。

 ちなみに私は、もう事情が分かったかもしれない。

 恐らくこのトイレの現場は、この写真通りだったのだろう。

 原因は何だと思う?」

自治会長の質問に手を挙げたのは、その男子学生だった。

男子学生は考えながら応えていく。

「これ、煙だと思います。」

「煙?

 まさかトイレの個室で焼き肉でもしてたのか?」

見当違いの横槍に、他の学生が渋い言葉を浴びせる。

「そんなわけないでしょ。

 トイレで煙って言ったら、煙草の煙じゃない。」

「あっ、そうか。」

頷いて、その男子学生は説明を続ける。

「そう。

 これ、煙草の煙だと思うんです。

 このトイレの換気が悪くて、滞留しているのでしょう。

 だから、写真も不鮮明になってしまった。

 そうすると、壁の黒い染みの様なものは、

 煙草を揉み消した跡だと思います。

 トイレの中で誰かが煙草を吸って、壁で揉み消したのでしょう。」

「ひどいな。

 うちの学校のトイレは全部禁煙なのに。

 しかも、壁に焦げ跡までつけている。」

ぶーぶーと批判の声を上げる学生達。

自治会長が話をまとめる。

「諸君の言う通り、うちの学校のトイレは禁煙だ。

 トイレで煙草を吸う者がいるとはけしからん。

 早速、事務局に報告し、禁煙の表示を徹底することとしよう。

 我々は同じ学生同士。

 犯人探しをしているわけではない。

 出来るのはそれくらいまでだろう。

 では、次の写真だ。」

話を締めくくって、自治会長は次の写真をまわした。


二枚目の写真。

写っているのは、またもやどこかのトイレの個室。

個室内の至るところに、何やら紙屑や飲み物の缶などが置かれている。

それを見て、学生の一人が飛びついた。

「おい、これ。

 トイレの個室の中に空き缶が捨ててあるぞ。

 これぞ正に、便所飯の証拠写真じゃないか。」

しかしそれには、その男子学生がすぐに否定する。

「さっきも言ったでしょう。

 トイレに弁当の包み紙が捨てられているからって、

 そこで弁当を食べた証拠にはならないって。

 ゴミ箱代わりにトイレに捨てていっただけかもしれない。

 この写真には、飲み物の缶が写っているだけです。

 仮に飲み物を口にしていたとしても、飲食とまでは言えませんよ。」

「む・・、それもそうか。

 じゃあ、これは何の跡なんだ。」

その疑問には、他の学生が応える。

「これ、勉強した跡じゃないかしら。

 捨てられている紙屑を見て。

 英単語とか数学の公式が書いてあるわ。

 きっと、トイレの個室を自習室代わりにして、勉強していたのよ。

 一人で勉強した方が集中出来たんじゃないかしら。」

自治会長がうんうんと頷く。

「なるほど。

 トイレの個室を自習室代わりにする学生がいるのか。

 勉強するのは結構だが、場所は考えて欲しいものだな。

 事務局に対しては、

 学生が落ち着いて勉強できる場所を手配するように要求しよう。

 では、次が最後の写真だ。」

そう言って自治会長が取り出したのは、

その男子学生が撮ってきた写真だった。


三枚目の写真。

それはその男子学生が、

構内の外れにある多目的トイレで撮ってきた写真だった。

写真には、広い多目的トイレの光景が収められている。

床に付いた泥のようなものの汚れ、

それから、床と洗面台に付いた赤黒い汚れが、

特に念入りに撮影されていた。

写真を手にした学生達が、覗き込むように観察して口々に言う。

「これ、駐車場の向こうの多目的トイレか。

 あんな遠くまでよく行ってきたな。」

「行けって言ったの、先輩達ですよ。」

「そうだったっけ?

 だから帰ってくるのが遅かったのか。

 それはご苦労さん。」

「それはそうと、この泥みたいなものは何かしら。」

「きっと、外から歩いてきた人の靴の汚れなんだろうさ。

 この学校、周りは森で舗装されてないところも多いからね。」

「じゃあ、この赤黒い汚れは?」

「それは、絵の具か何かの塗料かな。」

「それか、口紅かも知れないわね。

 多目的トイレって男女共用でしょう?

 周りに建物も無いから、化粧直しに使う子もいるのよ。

 あまり進んで使いたくはないけれどね。」

「いずれにせよ、塗料を洗面台に流されると困るな。

 これも汚損の証拠として報告した方が良いだろう。

 対策は、塗料を拭き取って捨てられる、

 ゴミ箱の設置などだろうか。」

自治会長の言葉に、その男子学生は頷いて同意する。

そうして自治会の学生達は、

用意した三枚の写真全てを調べ終わったのだった。


 自治会の学生達が構内のトイレを調べたところ、

三件の汚損と思われるものを見つけることができた。

学校の事務局に報告すれば、

自治会が学内美化に貢献した実績として、

いくらかの評価は得られるかもしれない。

しかし。

学生達は不満そうに首を捻る。

「三枚の写真を調べたけど、

 便所飯の痕跡は見つからなかったな。」

「そうね。

 たまたま今日は、

 トイレの個室で食事をした人がいなかったのかしら。」

「そうかもしれないな。

 では、事務局には今後の対策として、

 学生達が落ち着いて食事を取れる場所を用意するように要求しよう。」

自治会長がそう話を締めくくろうとして、学生達の顔色を伺った。

どの学生達も、表情は今ひとつ冴えない。

それもそのはず。

便所飯の痕跡をまるで宝探しのように探し回っていたのに、

肝心のその宝物を見つけられていないのだから。

学生の一人が、ぽつりと言葉を漏らす。

「何だか、釈然としないな。

 事務局から苦情が来るくらいなんだから、

 頻繁に便所飯をする奴がいるんだろうに。」

「だったら、もう一回探してみる?

 丁度、夕飯時の時間帯になったことだし。

 居残っても、わたしは構わないわよ。」

上目遣いでお互いの様子を探る学生達。

するとそれを見かねたのか、

自治会長が苦笑いを浮かべて話し始めた。

「諸君はどうも納得できていないようだね。

 こんなことなら、私一人で調べた方が良かったかな。

 それは冗談として、

 では、私の考えを述べさせてもらおう。

 私が思うに、今までに見た情報の中に、

 便所飯の証拠があったと思う。

 諸君が報告してくれた話の中に、その材料はあったんだよ。」

自治会長の言葉に、学生達が色めき立つ。

その様子は、失くしたはずのおもちゃを見つけた子供のようだった。

学生達は次々に自治会長に詰め寄る。

「本当ですか!?

 今見た三枚の写真に、痕跡があるってことですよね?」

「ああ、そうだ。」

「どの写真ですか?」

「それを私の口で言ってもいいが、

 それでは諸君はつまらないだろう。

 もう一度、我々で見直してみようじゃないか。」

そうして自治会の学生達は、

三枚の写真をもう一度見直してみることになった。


 構内のトイレで便所飯をしているものがいる。

自治会長の話で、構内のトイレを見回りした自治会の学生達。

その中で、三件の汚損が特にあやしいとして取り上げられた。

写真に収められた三件の汚損現場。

一枚目は、煙草の煙が立ち込める個室。

二枚目は、紙屑や空き缶が放置された個室。

三枚目は、赤黒い泥汚れがついた多目的トイレ。

自治会長の見立てにれば、

この中に便所飯の痕跡が残されているという。

それはどれだろう。

自治会室に集まった学生達は、

もう一度首を傾げて考えることにした。

その男子学生も、もう一度全ての写真を見直して考える。

言われて考え直してみると、

確かにいくつかのことが見過ごされていることに気が付く。

誰も発言する様子が無いので、

その男子学生は写真を指差しながら一つ一つ、

自治会長に可能性をぶつけることにした。

「自治会長、聞いてもらってもいいですか。」

「ああ、話してみたまえ。」

「一枚目の写真なんですが、

 煙草の煙で便所飯の匂いを誤魔化そうとした可能性は無いでしょうか。

 便所飯を食べた後で、その痕跡を煙草の煙で消そうとした。

 その煙自体が痕跡とか。」

しかし自治会長は首を横に振る。

「いいや。

 それは無いだろうな。

 さっきも言ったが、便所飯自体を直接禁止する学則は無いんだ。

 しかし、トイレでの喫煙は学則で明確に禁止されている。

 便所飯の痕跡を誤魔化すためとはいえ、

 もっと罪が重いことをするのは不条理だ。

 トイレに食べ物の匂いが残っているくらいでは、

 事務局も目くじらを立てたりはしないだろう。

 トイレの個室を占領されるのは、学生にとっては困りものだがな。

 だから私はその線は無いと考える。」

自治会長の応えには理屈が通っているように聞こえる。

その男子学生は納得して、次の写真について考える。

「では、次は二枚目の写真についてです。

 この写真には、勉強に使ったと思われる紙屑が写っています。

 落ち着いて勉強するためとはいえ、

 トイレの個室に籠もるのはやはり妙な感じがします。

 一人でないと勉強に身が入らないのなら、

 その人は普段の授業はどうしているのでしょう。

 飲み物の缶だけとはいえ、飲食物の痕跡もありますし、

 やはりこれが、便所飯の証拠なんでしょうか。」

確証が無い質問にも、自治会長は親身になって応えていく。

「いいところに気がついたね。

 トイレの個室に籠もってすることと言えば、

 後ろ暗いことに決まっている。

 では、後ろ暗い勉強とは何か。

 私が思うに、二枚目の写真に残された紙屑は、

 テストのカンニングペーパーを作るのに使ったのだろう。

 人に隠れてする勉強と言えば、そのくらいのものだ。

 その学生が何故、

 学校のトイレでカンニングペーパーを作っていたのか、

 それは分からないけどね。

 書き損ねたカンニングペーパー、

 そんなものを鞄に入れたままでテストを受けるわけにもいかず、

 トイレに置いていったのでは無いか、

 私はそう考えている。

 いずれにせよ、

 トイレにカンニングペーパーが落ちているというだけでは、

 カンニングの証拠にはならない。

 弁当の包み紙が落ちていても、そこで弁当を食べた証拠にはならない。

 君が言った通りのことだ。

 そして、今の我々が探している便所飯の証拠でもない。

 極めて疑わしいものだが、我々には何もできないだろうね。」

テストのカンニングの痕跡とは、

便所飯の痕跡を探していて、とんでもないものを見つけてしまった。

とは言え、自治会長の言う通り、

今のその男子学生には関係の無いことのようだ。

その男子学生は頭を振って切り替える。

そして、三枚目の写真を見た。

この写真を撮ってきたのはその男子学生自身なので、

現場のことはよく覚えている。

今までの話を総合すると、

便所飯の痕跡は残ったこの写真の中に残されていることになる。

何か、見落としていることはあるだろうか。

三枚目の写真に写っているのは、多目的トイレの床と洗面台。

そこに残されていた泥のようなものと、赤黒い汚れ。

それらをもう一度見て、その男子学生は一つの可能性に行き着く。

「もしかして、三枚目の写真に写っているこれ。

 ・・・血、ですか。」

その男子学生の指摘に、自治会長はニヤリと頷いて返したのだった。


 便所飯の痕跡は、三枚目の写真にあるらしい。

その男子学生にも、ようやくそれが分かったようだ。

考え込んでいた他の学生達が、餌に群がる獣のごとく飛びつく。

「お前、便所飯の痕跡がどれか分かったのか?」

「はい。

 多分、分かったと思います。

 今から順番に、確認していきます。」

その男子学生は手元に三枚目の写真を寄せて指差す。

「まず、この赤黒い汚れなんですが。

 さっきの話では、これは塗料か口紅ということになりました。

 でもそれだと、汚れ方が合わないと思うんです。

 トイレの床に口紅が点々とつくなんて、誤って落としたにしても変です。

 それからこの赤黒い色は場所によって色合いが違う。

 これは元々はこういう色ではなくて、変色した結果だと思うんです。

 多目的トイレももちろん定期的に清掃されています。

 何日も同じ汚れが残ることはない。

 そんな短時間で変色する赤い液体といえば、血かと思ったんです。」

どれも確証は無い。

落とした口紅が床を跳ねたのかも知れないし、

短時間で変色する赤い塗料があるのかもしれない。

しかし、赤くて飛び散りやすい液体といえば、

真っ先に血液が連想される。

生き物がいれば血液が出ることはあるだろう。

その程度の理由だった。

それは自治会長も同じはず。

しかし自治会長は、確証を持って頷いて返した。

「その通り。

 私も君の意見に賛成だ。

 この赤黒い汚れは、血液だと確信している。」

血と聞いて、学生達がどよめく。

「血って!

 じゃあ便所飯の正体って、

 人が食べられたってことですか!?」

「それじゃ、殺人事件じゃない!」

そんな思いがけない言葉に、自治会長は思わず苦笑する。

「いやいや、そうじゃないよ。

 構内で人が食べられたなんて、それじゃホラー映画だ。

 食べられたのは人じゃない。

 そう判断出来る材料は、君達が用意してくれたんだよ。

 覚えてるか?

 会議の冒頭の話だ。」

言われて、その男子学生は思い返す。

今日の自治会の会議で、何を話したのだったか。

貸し出しした備品の話。

野生動物が紛れ込んだ話。

食堂のつまみ食いの話。

そしてその男子学生は、自治会長の言わんとする事を理解する。

「もしかして、野生動物が構内に入っているって話ですか。」

「そう、その通りだ。」

「何?どういうこと?」

まだ話が分かっていないらしい学生に、

その男子学生は考えながら説明する。

「三枚目の写真に写っていた血が、便所飯の痕跡だったんです。

 便所飯を食べていたのは人間じゃなかった。

 野生動物が構内に入り込んで、

 多目的トイレの中で生肉か何かを食べていたのでしょう。

 その痕跡が残されていたんです。

 トイレの中に血だの肉片だのが残っていたら、

 通常の汚損ではないと判断されても仕方がない。

 それが、便所飯の正体です。」

野生動物が、血が滴るような餌を食べた。

それが、便所飯を巡る話の真相のようだった。


 便所飯の痕跡の正体は、野生動物が餌を食べた跡。

その男子学生が至った結論に、自治会長も頷いて返した。

「そう。

 私の考えた結論も、それだ。

 きっと何も知らない野生動物が、

 小動物を捕まえて食べたのだろう。

 トイレに血まみれの肉片が残っているなんて、

 それは凄惨な光景だったことだろうね。

 事務局は慌てて我々自治会に相談したのだろうさ。」

「なんだ、そうだったのね。」

「誰だよ、人が食べられたなんて言ったのは。

 ただの野犬じゃないか。」

真相が分かった学生たちは、ほっと肩の荷が下りた気分。

今度はお互いの勘違いをからかい始めた。

それを閉めるように、自治会長が手を打ち鳴らした。

「ようし、諸君。

 便所飯の痕跡に無事たどり着けたようだし、

 楽しい宝探しはここまでだ。

 さっきも言ったが、野生動物が構内に入り込んでいるのには違いない。

 しかも我々が調べたところ、肉食であるらしい。

 夜遅くまで構内に残るのは危険だから、早く下校したまえ。

 自治会室の戸締まりは、私がしておくから。」

そうして自治会の学生達は、連れ立って帰路についたのだった。


 日がとっぷりと暮れた学校の構内。

所々に設置された照明が、真っ暗な夜道を飛び石のように照らしている。

自治会室を出たその男子学生達は、

校門までの道程を連れ立って歩いていた。

するとその目の前に、弱々しい光の点がふわふわと飛んでいる。

人魂と見間違えそうなそれは、

近付くにつれて人の姿を連れているのが分かる。

どうやら、自転車に乗って巡回中の警備員のようだ。

いかつい制服を着た警備員は、その男子学生達の前に来ると、

制服の帽子に手を添えて話した。

「君達、本学の学生だね。

 こんな時間まで構内に残っていたなんて。

 学生さんは勉強熱心だね。」

褒められて悪い気はしないが、

その男子学生は素直に返事をしてしまう。

「いえ、そうじゃないんです。

 僕達、事務局に言われて、便所飯の調査をしていたんです。」

「便所飯?」

キョトンとした警備員に、学生達が説明する。

「はい、そうなんです。

 事務局から、構内のトイレで便所飯を食べてる人がいるって。

 そう言われて調べてたんです。」

「原因も分かりました。

 野犬がトイレで餌を食べてたみたいです。」

宝探しを終えて嬉しそうに話す学生達。

しかし話を聞いた警備員は、しきりに首を傾げている。

「すまないが、君達が何を言っているか分からないな。

 トイレの話って、あれだろう?

 血やなんかで汚損されてるって。

 警備にもその話は来たけども、便所飯なんて知らないな。

 何かの間違いじゃないかね。

 ・・・おっと、こうしてはいられない。

 見回りに行かなければ。

 では失礼。」

言うことだけを言って、警備員は自転車で去っていってしまった。

残されたその男子学生達は、またもや首を傾げる。

「便所飯のこと、警備員が知らないってどういうことだろう?」

「清掃に関わることだから、清掃員にしか知らされてないのかしら。」

「でもそれだったら、トイレが汚損されてるって話もしないんじゃないか。」

「便所飯って最初に言い出したの、誰だったっけ?」

その男子学生は考え込んで、それからはっと顔を上げた。

「もしかして、僕達は便所飯の真相にたどり着けてないかもしれない。」

「どういうことだ?」

「僕に思い当たることがあるんです。

 よかったら付き合ってもらえませんか。

 そんなに時間はかからないと思います。」

異論無く頷く学生達。

そうしてその男子学生達は、校門へ向かう道を引き返す。

向かう先は、あの多目的トイレだった。


 真っ暗な夜の構内を、静かに歩く人影がいる。

人影は構内の外れの多目的トイレに来ると、

その扉をそっと開ける。

そして、中にいる人達の顔を見て、動きを止めた。

驚き半分、落ち着いて言葉を口にする。

「・・・君達、来ていたのか。」

「はい。

 あなたがここに来ると思っていました。」

先頭に立って応えたのは、その男子学生。

多目的トイレの中にいたのは、その男子学生と自治会の学生達。

そして、そこにこっそりやってきたのは、自治会長だった。

手には何かの生肉が入った袋を持っている。

自治会長は観念したようで、その男子学生に聞く。

「君達、ここに私が来ると、どうして分かったんだ?」

「切っ掛けは偶然のことです。

 さっき、警備員に偶然会って聞いたんです。

 事務局からトイレの汚損があるという話があった。

 でも、それが便所飯の痕跡だなんて、誰も言っていない。

 汚損が便所飯によるものだと言っていたのは、

 自治会長、あなただけだった。

 トイレに血だの肉だのが散乱しているのを見て、

 すぐに野生動物の食事の跡だなんて分からないでしょう。

 それが分かったのは、餌をあげている本人だからです。」

「私が言い間違えただけかもしれない、

 なんて言い訳は、もう必要ないな。

 そう。

 トイレの汚損は、私が野生動物に餌をやっていた痕跡だ。

 ちょっと口を滑らせすぎたようだ。

 自治会の実績が必要だという話になって、

 どうしても君達に諦めて欲しくなくてね。

 その調査が思ったより長引いて、

 今度は君達を早く納得させなければならなくなって。

 その結果、こんな自作自演じみたことに巻き込んでしまった。

 許してくれ。」

頭を下げる自治会長に、学生達は優しく応える。

「頭を上げて下さい。

 自治会長は、

 俺達が諦めないように発破をかけてくれたんですよね。」

「俺達、自治会室が無くなるかもって聞いて、

 必死で自治会長に解決策を要求してしまった。

 でも、それは間違いだ。

 俺達は同じ学生同士。

 解決策は自分で考えないとな。」

「実は私も、校舎裏に住み着いている野良猫に餌をあげているの。

 自治会長とは餌やりの同志ってわけね。

 お互い、内緒にしておきましょう。」

「今日、僕達がしたトイレ清掃も立派な実績です。

 こうやって小さなことから一つずつ積み重ねていきましょう。」

学生達の言葉を聞いて、自治会長は下げていた頭をやっと上げる。

自治会室がなくなるかも知れないという懸念は解消されてはいない。

でもその解決策は見つかったように思う。

全ての疑問が解けて、学生達は晴れ晴れした表情。

しかし、その中で一人だけ、

自治会長の表情にはまだ一点の曇りがある。

少しの間、逡巡しゅんじゅんして、

そして、学生達に向かって告白する。

「仕方がないな。

 誰にも内緒にしておくつもりだったけど、

 諸君には本当のことを教えてしまってもいいだろう。

 ・・・私がここで餌をやっていたのは、野犬ではない。」

何のことか分からず、学生達が顔を見合わせる。

自治会長は半身を引いて、多目的トイレの出入り口の方を示す。

「諸君。

 この学校には曰くがあるのを知っているか。」

「この学校の曰く?何だったっけ。」

「幽霊の気配がするとか、

 悪魔の咆哮が聞こえるとか、

 未確認生物がいるとか、

 そんな話だったかな。」

「そう。

 その曰くの原因を、これから諸君に見せようと思う。

 私の実家がこの近辺の山にあるのは知っているな?

 私の家では代々、人知れずこの子達の面倒を見てきたのだ。

 その一助となるために、私はこの学校に残り続けている。

 だが、この学校の学生が増えてきて、無理が生じてきてな。

 諸君には、この子達を守る手伝いをしてもらいたいんだ。」

その時、いつの間にそこにいたのだろうか。

野犬のような動物が、のっそりと姿を現した。

その野犬のような動物は中型犬くらいの大きさで、

全身が灰色っぽい体毛をしていて、短い耳と口先をしていた。

・・・ニホンオオカミ。

かつてこの近隣の地域に生息し絶滅したとされていて、

この学校の学生ならば、知らない者の方が少ない野生動物。

その筋の専門家が目にしたなら、きっと仰天したであろう。

そんな未確認生物のような神秘の存在が、

今までどこに身を隠していたのか、静かに姿を現したのだった。

その姿を見て、その男子学生達は目を丸くした。

「あれって、ニホンオオカミ・・・だよな。」

「何かの間違いでしょう。

 ニホンオオカミはずっと昔に絶滅したって、授業で習ったはず。」

「きっと、よく似た野犬よ。」

口々に信じられないと言葉を溢す、

その男子学生達の疑問を消し飛ばすように、

その野犬のような動物は、耳をつんざくような遠吠えを上げた。

それはまるで悪魔の咆哮のように、学校の構内をとどろいたのだった。



終わり。


 便所飯をテーマにこの話を作りました。

それだけだと不潔な話になってしまいそうだったので、

舞台である学校自体の謎の正体として、ニホンオオカミを取り上げました。


ニホンオオカミの、

縄張りの中に入った人間の後を付ける習性。

大きな声で遠吠えをする習性。

既に絶滅したはずの動物であること。

これらの習性や特徴がそれぞれ、

夜、学校の構内を歩いていると、幽霊の気配がする。

悪魔の咆哮が聞こえる。

未確認生物の姿を見た。

という学校の怪談の元になっています。


昔に絶滅している動物ということで、参考動画が無いのが残念です。


お読み頂きありがとうございました。



2021/10/9 訂正


第3段落目59行目


(誤) 諸君たちも早めに下校するようにしてくれ。


(正) 諸君も早めに下校するようにしてくれ。


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