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花売りの少女の願い

作者: 花衣

誤字脱字その他諸々。

パッと書いてサッと見てスッと投稿。

魔法花はマジックフラワーでも、まほうかでも、まほうはなでも

「マリーちゃんのお花は今日もきれいだねぇ」


「ここまで綺麗な魔法花を作れる職人はいないよ」


「ここで買う花は他の魔法花とは違う気がするよ」




私は花屋のマリー。

王都から少し離れた街で小さな花屋を営んでいる。

魔法で作った花を売るお店、とみんな言う。



でもね、違うのよ。

私は一言も“魔法花”なんて言ってない。

だって、魔法で作ってないんだもの。







今日も殆どの花が売れたわ。



そんな事を思いながらお店の階段から2階へ上がる。この狭い空間が私の落ち着く場所。

着ていた白いローブとワンピースを脱ぎ、大きな鏡の前に立つ。




「お昼に摘んだのに、また生えてきたわ……嫌になる」




鏡に映る私の体にまとわりつく緑の痣。

首から腰にかけて、まるで植物の蔦のような痣。

その痣から色とりどりの花が咲いている。

バラやチューリップ、マーガレットにクリスマスローズ、東方の国のサクラ……

今は小さいけれど、朝起きる頃には立派な大きさになるのよ。

それを摘んでお客様に売る、そんな生活を初めて5年が経った。





私には原因はわからない。いつからこの痣があるのかも。

元々私は伯爵家の娘。父と母、一つ上の双子の兄と姉。みんな私に優しかった。

王都に住んでいた頃、毎年夏に家族皆でお祖母様の領地へ遊びに行っていたの。


王都に帰る予定の前日に皆で思い出にとピクニックに行く計画をした。

しかし、当日は皆が忙しく約束していたピクニックができなくなってしまった。

私はどうしてもピクニックがしたくて、お昼のサンドイッチをこっそり持って、一人森へ行ったみたい。


みたい、っていうのは私にはその記憶が無いの。メイドが泣きながら教えてくれたわ。


メイドによると、一人で出ていった私は運悪く、夜まで居ないことに気づかれなかった。

ディナーの時間になっても現れない私を心配して、部屋を見に来たけれどいない。

焦った家族は領地を探し回った。西から南、東から北へ。


捜索から5日目に私は見つかった。どこで?お祖母様の家のローズガーデンに横たわっていたそうよ。

怪我、汚れ一つなく。純潔も守られていた。健康状態も良好、ただ眠っているだけ。

失踪前と一つ違うことは身体に緑の蔦のような痣と、花が生えていることのみ。

王都の医師も、魔術師も誰も彼もこの謎の痣はわからなかった。


私がその事件から意識を取り戻したのは2年経ってからだった。目覚めてから生活が一変したわ。

それはそうよ。原因不明な痣を持つ娘、呪いかもしれない、でも誰が?

事件の事を聞こうにも、家族は教えてくれないし、使用人も教えてくれない。


最終的にはメイドに、教えてくれなければ死ぬと脅して聞いたわ。




それから10年、部屋から出ずに自分の身体から生えてくる花を摘んでは籠に入れる生活を送っていた。

見た事のない花、そこらの道に生えている花。摘んで、図鑑を見て、の繰り返し。


なんとなくわかったことがある。摘んだ花は普通の魔法花より長くもち、何らかのまじないの効果があるってこと。

普通の魔法花は1ヶ月くらいが限度だが、私の花は半年程綺麗な状態を保つことができる。


それに、私が摘むとき思ったことがまじないとしてその花に宿る、みたい。

例えば、この花を受け取った人は元気になるとか、失くしたものが見つかるとか小さなこと。

大きなことは流石に無理だったわ。




兄も姉も結婚し、私がこの家に居続けるのも気まずい。

17の時にお父様にお願いして、お祖母様の領地の近くにある街で、一人で過ごしたいと頼み込んだ。

お父様は渋々了承してくれた。お母様は泣き崩れ何度もこめんね、と謝られたわ。

謝るのは私の方なのに。ごめんなさいお母様。

お兄様とお姉様はずっとこの家に居ても良いと。

でも、甘えるわけにはいかない。私はここからでなくては。


幸い、この痣は悪いものではなさそうだし、魔法花として売れば生活できる。



こうしてこの花屋を開いた。



離れてからも家族から定期的に手紙は来る。会いにも来てくれる。

私は愛されている。幸せだ。






さっとシャワーを浴び、ワンピースを着る。


今日はお酒でも飲んで気分を紛らわせよう。


グラスに入った果実酒を飲みながら、窓辺で夜空を見上げる。

私に、この痣がなかったら今頃は結婚していたのかしら。

素敵な旦那さまと、可愛い子供。


でも、私はもう22歳。行き遅れもいいところだわ。


腕に生えてきたアルストロメリアを摘む。




「花言葉は未来への憧れ……ふふ、私の心を読んでるのかしら」




花の知識だけは誰にも負けない。





コンコン




こんな時間に、誰かしら。お客様?いいえ、それはないわね。

白いローブをはおり、階段をそっと降り扉に近づく。




コンコン




「マリエル、迎えに来たよ」




マリエル


どうして、その名前を?




思わず答えてしまいそうだった。

私のその名前を知る者はこの街にはいない。私はマリーだから。

だれ?だれなの?家族の声ではない、執事でも、お祖母様でもない。



怖い、そう思った瞬間に今まで何ともなかった痣が疼き出した。




「な、なんで?誰なの……っ」


「マリエル、約束をはたしに来たよ」


「約束?うっ、そんなの知らないわ……はぁ、」




痣が熱い、花がワンピースの下からぽとぽとと落ちるのがわかる。

落ちては生え、落ちては生え。足元にはきっとたくさんの花があるだろう。

それよりも、この扉の向こうにいるのは誰?

約束?そんなの知らない、どうしてマリエルの名前を知っているの?




その瞬間、私の意識は途絶えた。









「もう、お父様もお母様もお仕事!お兄様とお姉様はお祖母様とどこかに行っちゃうし!

ピクニックの約束してたのに!どうして約束破るのよ!」



これは……?幼い頃の私?



「いいわ、わたし一人でピクニックするから」



お昼のサンドイッチ、ピクニック……これはあの事件の記憶?

でも、どうして今?



「たしか、この森を抜けるときれいな泉があったわ。お祖母様と一回行ったきりだけど、いける。大丈夫」



泉、確かに綺麗な泉があったわね。

緑と色とりどりの花に囲まれたお気に入りになった場所。



「ついたー!さあピクニックよ!」



大きな木の下に座り、サンドイッチを頬張っている幼い頃の私。

覚えていない、こんな事をしていたのね。



ガサ



どこから来たのか、草の茂みから少年が顔を覗かせている。

あら、どこかで見たような……どこで?



「あなたはだれ?私はマリエルよ、お名前は?」


「トキ」


「珍しい名前ね、トキ。でもとってもきれいな名前だわ」




『願った時、迎えに行くからね。これは、約束の印』


え、空耳?見ている映像と別の記憶が?




「マリエルはもう帰るの?」


「ええ、暗くなる前に帰らないと叱られちゃう。トキも早く帰らないとお父様に叱られちゃうわよ」


「ヤダ、まだマリエルといたい。僕の家に招待するね」


「え、だめよ、まって!きゃっ……」




トキと名乗る少年が私の手を掴みふっと消えた。

その瞬間、この日の出来事を全て思い出した。




「ここがボクの家だよ!どう?」


「どうって、何も無いわ。ここはどこなの?私をさっきの場所に返して!」


「イヤだ、僕はマリエルとずっと一緒にいる。寂しいのはもうイヤだよ」


「寂しいの?お父様は?お母様はいないの?」


「いない」




ああ、トキ。

あなたは私を迎えに来たのね。

私が願ったから。




「ねえ、そろそろ帰るわ。また、遊びに来るから。お願い、トキ」


「絶対?じゃあ、約束」


「ええ、約束よ。でも、しばらくはここには来れないわ。もう明日には王都に帰らなきゃいけないから」


「いつ、くる?」


「お父様がお休みを取れたら、来れるわ」


「そう、じゃあ、これは約束の印」




あ、あのペンダント!

ダメ!それをはめないで!




「な、なに、これっ!いやっ、トキ助けて!」


「大丈夫だよ、マリエル。これは約束の印だから。」


「約束、の印……?」


「マリエルは僕の大切な人、僕の伴侶。


マリエルが願った時、迎えに行くからね。


これは、約束の印。


誰にも破られない、盗られないように」




最悪だわ。


トキ


森の神


私はあなたを許さない






目を覚ますとそこは、何もない空間。


ここはきっとあの場所。




「トキ、いるんでしょ。出てきて」


「マリエル!起きたんだね!よかった、僕のこと思い出してくれた?」


「私あなたに言いたい事があるの。聞いてくれるかしら」




呑気に笑う神様、トキ。


出会った頃と何も変わらない容姿。


私は大人になった。けれどトキは子供のまま。


神様だからなんだ、そんなの知らない。


私が描いていた未来を返して。


私の幸せを返して。


許さない。


許さない。





「私、あなたの事、大っ嫌いなの」





毎度有難うございます。

ハピエンにはなりませんでした。

この後、マリエルがどうやって神をざまぁするのか私にもわかりません。

多分なんやかんやでざまぁして、痣も綺麗サッパリなくなり、イケメンと幸せな結婚をするはずです。

神様でも自分勝手なのは許せぇねよぉ……

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