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暗殺一家を追われる

「テオル、お前は家から出て行け! この……失敗作がッ」


 屋敷の一室で怒号を浴びせられる。

 それは、父さんに代わって新たに当主の座についた叔父──ゴルドー・ガーファルドから発せられたものだった。


 かきあげられた長髪に無精髭。鋭い瞳は闇のように黒い。

 ゴルドーは忌々しげに俺を睨んでいる。


「何だその目は!? 気合も能力もない──何もできないお前に、ガーファルドを名乗る資格があるとでも言いたいのか!? あァ?」

「……いえ、ただ理由を聞かせてもらえますか?」


 ここで感情的になっても意味はない。


 俺の家は祖父の代から始まった暗殺者一家だ。

 幼い頃から特殊な教育を施され、任務に当たっている。

 元は長男である父さんが当主だったが、病に倒れ亡くなってしまい、弟のゴルドーがそれを引き継いだ。

 それからだ。数ヶ月間休みもなく、働き詰めの毎日が始まったのは。


 今だって厳しい任務を最速でこなしてきたばかり。

 もう──五日も眠っていない。

 しかしそんな状況でも、俺はミスなく仕事を遂行してきたはずだ。


「はっ、自分で考えることもできないのか? まったく呆れたものだなッ! ルドとルナから聞いたぞ! お前、任務中にサボっているらしいな。そんな役立たずが我が一族にいられるとでも思ったかッ!?」


 ゴルドーが激しく唾を飛ばす。

 するとそれに続くように、周囲にいた従兄妹のルドとルナが口を開いた。


「その通りです、お父様! こいつ、いっつも僕たちに任務を押し付けて、勝手に逃げ出すんですよ!」

「そうそう! 出来損ないのくせに一丁前にビビっちゃって。ダサすぎでしょ」


 まだ仕事に粗が多く、一人前とは言えない彼ら。

 そのため祖父から直々に頼まれ、任務に出る際はチームを組み、俺はサポートに回って二人が成長できるように専念していた。


「年上だというのに……まさか逃げ出すとはなッ。この腰抜けが!」

「いえ、俺はサボっているんじゃなくて──」


 円滑に任務を遂行できるよう、危険()()()障害の排除にあたっている。

 以前から何度もしているが、誤解を解くために再度そう説明する。


 しかし、ゴルドーは鼻で笑うだけだった。


「はっ、何度その見え透いた嘘をついたら気が済む! 暗殺を稼業にする者、それも我々ガーファルドの人間が気配を感じ取れないとでも言いたいのか!?」

「流石に僕たちのこと舐めすぎだって。派手に動いてたら絶対に気づくから」

「反省してさっさと出て行けばいいのに、見栄張って有能アピールとかキモっ。ぷふっ、使えない馬鹿丸出しじゃん」


 そう言い、親子揃って嘲笑を浮かべてくる。


「…………」


 もう、この場で俺が何を言ってもダメみたいだ。

 後で祖父(じいちゃん)に相談して、ゴルドーと話してもらおう。


 正直、人を平気で貶める彼らを好きにはなれない。

 だが俺には他に生きていく道がない。暗殺術以外に学んできた物がないから。

 俺の仕事ぶりを認めてくれ、期待してくれている祖父から話してもらえれば……何とかなるはずだ。


 と、そこで。

 ゴルドーが俺の目を見てニヤリと笑った。


「それと親父──じいさんにも話は通してあるからな。泣きついたって無駄だぞ」

「…………え?」


 予想外の言葉に思考が停止する。

 そんな俺を見て、ブフッと吹き出すゴルドーたち。

 その時。


「テオル、そういうことじゃ」


 部屋の扉が開かれ、祖父が現れた。


「これは一族の総意じゃからな。ゴルドーから話は聞いたが、使えない()()に存在価値などない。早く出ていきなさい」

「い、いや……じ、じいちゃん……?」


 いつもとは違う祖父の冷たい声音。

 俺は呆気に取られ、全ての音が遠くなっていくのを感じた。


「ふっはっはっは。親父、賛同に感謝する! というわけでだテオル。さっさと失せろ!! そして二度と俺の前にその面を見せるなよッ!?」


 まだ頭の中を整理できないでいると、「もしもいらんことをしたら」と。

 ゴルドーは真顔になりドスのきいた声で続ける。


「──そのときは命があるとは思うな?」


 人生においてたった一つの生き方だった。天命だと思った。

 だから例え酷い扱いをされても、気にせず身を粉にして働いて来たのに。

 だというのに……これでは生きている理由を奪われるも同然だ。


「ひゃひゃっ。お疲れー」

「さよなら、失敗作さん」

「──あ……え……」


 部屋を出て行くルドとルナが、すれ違いざまに肩を叩いてくる。

 俺はこうして、その日のうちに家を追い出されることになった。


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