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空に近い場所  作者: 大里 トモキ
3章
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3章-1

「はい、合格よ」

 わたしの前髪に物差しを当てていた中年の女性教師の石田先生が告げた。そう言われるだろうことはわかってはいたけど、わたしはほっと胸をなで下ろした。


 わたしの通っている中学校では、毎週月曜日の一時限目は全校集会に充てられている。三学年十八クラス約七百名もの生徒と、先生方を始めとする学校職員がバスケットボールのコートが二面確保できるほどの広さのある体育館に一堂に会し、校長先生の訓辞や生徒指導教諭による日常生活の諸注意などを聞かされる。わたしたち一年生はまだ経験していないけど、運動部の壮行式や、コンクールで賞を取った生徒の表彰なんかもこのときに行われるそうだ。

 休み明けの朝一であることや、長時間立ちっぱなしでいなくてはいけないことなど、心身ともに過酷な行事ではあるけど、これに耐えるのも生徒の義務なのだと思い、わたしは貧血でふらふらになりながらも、校長先生の結局何が言いたいのか要領を得ない長い話や、生徒指導教諭のスピーカーが音割れするほどの大きな声にがんばって耐えていた。

 しかし、その苦行を乗り切ったからといって即解放されるわけではない。続いて全校あげての服装頭髪検査が行われるのだ。

 この春、中学生になったわたしはさまざまな変化を経験した。

 小学校より離れた場所にあるため、三十分も早く起きなくてはならなくなったこと。野暮ったいデザインのセーラー服を着るようになったこと。昼食が給食からお弁当になったこと。ただでさえ苦手にしていた算数が数学という名前に変わり、さらに難易度が上がったこと。前々から興味のあった英語が新科目として加わったこと。――数え上げればきりがないけど、一番変化を実感したのは校則の存在だった。

 前髪は眉に、後ろ髪は肩にかからない長さにすること。髪を結う場合は、ゴムの色は黒、もしくは茶系統に限る。染髪、パーマは厳禁。ソックスは白で、小さなワンポイントまではOK。ただし冬場は黒タイツに黒ソックスを履くこと。スカートの丈を変える等の制服の改造は禁止。服装以外にも、中学生らしからぬいかがわしい場所に出入りしてはならない、夜中にむやみに外出しない、アルバイトは御法度。不純異性交友などもってのほか――などなど、入学の際にもらった小さな生徒手帳にはありとあらゆる注意事項が細かい文字でびっしりと書き込まれていた。

 小学校にも校則と呼ばれるようなものはあったはずだけど、それはせいぜい「学校帰りに道草や買い食いをするのはやめましょう」や、「危険なので貯水池には近づいてはいけません」といった〝よい子のお約束〟以上のものではなく、真面目に生活している分にはさして気にはならなかった。

 でも中学校では違う。服装から日常生活の態度に至るまで細かく定められていて、校則の存在を嫌でも意識させられる。

 どうして中学生になったとたん、こうも規律に縛られた生活が始まるのだろう。小学校が子どもが子どもであることを容認し、温かく見守る場であるのに対し、中学校はいつまでも子どもでいることを許さず、さまざまな決まり事によって成り立っている大人社会に順応させるための鍛錬の場だとでもいうのだろうか。

 そのへんの事情は大人ならぬわたしにはよくわからないけど、学校という団体生活の場に身を置く以上、そこが定める規則には従わなくてはいけないのだということは理解していた。そんなのは当たり前のことなのだと思っていた。

 だけど――

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