ハイファンタジーの世界観がいわゆるナーロッパなのはそれを使うのが一番便利なテンプレートだから
さて、以前書いたエッセイの”なろう男性向けでハイファンタジーが強いのは、異世界ファンタジーはレベルを上げて物理で殴れば周囲からちやほやされるから”では、基本的に動乱の時代ならば生まれの身分が低くても成り上がるのが簡単で、なおかつ歴史小説の大名のような制約や政治力や外交能力の必要性も、ハイファンタジーなら少ないというのが理由だと思いますと書きました。
では、何故、歴史やSF、パニックなどのほかのジャンルや和風や中国風、中東風世界観ファンタジーがナーロッパほど人気がないのか? ですが、簡単にいえばナーロッパを使うのが、作者にとって一番読者の受けを外さない便利なテンプレートだからだと思います。
んでまあ、もうちょっと細かい理由も考えていきましょう。
1.ナーロッパ的魔法やスキルが便利で万能かつ派手で知名度が高いから
基本的にはこれが大きいと思いますが、非現実的なことでも魔法やスキルの効果であるとすればたいていはまあそんなものかで済んでしまいます。
またTRPGやドラクエなどの影響で西洋的な魔法の知名度は密教のマントラや道教的な仙術、日本の神道的な巫術や陰陽術よりずっと高いですね。
個人的に好きだったTRPGシステムの退魔戦記や女神転生TRPGなどにはそういった魔法の要素も出てきますが、やはりメインは西洋的魔法ですし。
しかも魔法使いは超能力と違って一人で様々な能力を使い分けることが簡単です。
また、飛行や転移、アイテムボックスなどの便利魔法や魔法アイテムもファンタジーだからこそあっても違和感がないわけですね。
そして魔法の効果が目に見えた派手でわかりやすいものが多いのも人気が出る理由かと。
2.ナーロッパ的モンスターや亜人種の知名度の高さ、なじみ深さ
ゴブリン、スケルトン、スライム、盗賊なら雑魚で、ドラゴンやリッチなどなら強敵みたいなことがすぐわかるのは、基本的に挿絵イラストなど外見イメージが視覚でわかる手段のないなろうではかなりの強みです。
これはドラゴンクエストが社会的現象になるほどのヒット作だった、またロト三部作などで世界観やモンスターが同じだったのが強いと思いますけどね。
また、ドラゴンクエストが子供向けであってモンスターに気持ちの悪い要素が少なかったのも大きいかもしれません。
ファミコン初期の桃太郎伝説やPCエンジンの天外魔境のような和風RPGのモンスターの知名度と比べてその知名度の差はやはり一目瞭然でしょう。
またエルフやドワーフ、リザードマンや獣人、竜人、魔族といったわかりやすい亜人の存在はそれらが友好的であるにせよ閉鎖的であるにせよ敵対的であるにせよ物語を作るうえでかなり楽になります。
3.ナーロッパはいろいろな作品のいいとこどりだから
基本的に魔王がいて勇者がその討伐を国王から依頼されるのはドラクエでしょう。
スライムが物理攻撃で簡単に倒せるとかもドラクエの影響でしょうね。
一方、冒険者や冒険者ギルドの存在はソードワールドリプレイの影響が一番大きい気がします。
これって特定の拠点を持たない人間が、どうやって金を稼いだり寝泊まりする場所を確保できるかの説明が一番簡単なんですよね。
さほど大きな代償を必要としないのに魔法や武器が馬鹿みたいに強いのはスレイヤーズの影響かな?
ゲーム中の仮想現実世界ファンタジーゲームのキャラになるという形態の走りはおそらく1994年、メディアワークスより刊行された『クリス・クロス 混沌の魔王』でしょうね。
SAOはこの作品のパクリと最初はよく言われていましたし。
その前にドルアーガの塔などのコンピューターゲームのゲームブックという存在の影響もありそうですが。
転生要素や魔改造による俺ツエーはヱヴァンゲリヲンの二次創作でしょう。
日本人が異世界に召喚され、現代知識で無双するというのはゼロの使い魔の二次創作。
魔法も白兵戦も普通にできる魔法使いは魔法少女リリカルなのはの影響かもしれません。
そういった要素を悪魔合体させて生まれた、外道スライムがナーロッパなんじゃないかな。
4.ナーロッパはある程度法が整備されていて治安維持されていつつ、超法規的な存在になれる
ゾンビパニックや北斗の拳のような世紀末ですと完全な無政府無法状態ですので、のんびり過ごすことがほぼできません。
しかし、ナーロッパはある程度法が整備されていて都市の中であれば大方治安維持されていつつ、都市の外の森林地帯などであれば、モンスターが徘徊する領域があって、そこでは暴力が大事だったりします。
そして主人公はもとの身分がどうあれ、貴族などの腐敗した権力者などを暴力で打倒しても問題にならない超法規的な存在にもなれるわけです。
冒険者というのは衛兵や騎士よりもずっと自由でできるし範囲が広いんですよね。
これが時代劇だと、例えば町奉行は大名や武士を裁けませんし、町奉行配下の与力・同心・岡っ引きであればやはり大名や武士の行いには関与できません。
本来大名の犯罪行為は藩が自分の主を裁くことはできないため幕府の評定所で裁くことになり、旗本と御家人は犯罪を犯した場所に関係なく江戸の評定所に移送されて裁かれ、藩士は藩内か江戸藩邸で犯罪を犯せば藩に裁かれるが、それ以外の場所で犯罪を犯せば犯罪を犯した場所を管轄する役所によって捕らえられ裁かれますが、基本武士は目付でなければ捕縛したりはできませんでした。
水戸黄門や暴れん坊将軍が人気なのも大名や悪代官を成敗できるからですね。
そして現代ものだと暴力事件を起こすと警察が出張ってきたりしますが、ファンタジーではそのあたりがほとんど問題になりませんしね。
要はナーロッパでは簡単に水戸黄門になれるというわけですね。
5.横文字はかっこいい、日本語はダサいという風潮
これは別にラノベに限った話ではなく、会社名も物流とか輸送をロジスティクとしたり電機をエレクトロニクスと言ったり、何たらシステムだとか、何たらエンジニアだとかにするのも、明治維新以降日本は西洋文明の後追いばかりしてるからかなと。
なので日本的なものはダサく感じ、西洋的なものが格好良く感じるのではないかと。
これが行き過ぎると英語ではなくてドイツ語を使いまくる中二病や、よくわかってないのに専門用語を使いまくる意識高い系になってしまうわけですが。
個人的には”エモい”という言葉とかふわふわしすぎて意味がよくわからないから嫌いだったりするんですけど、まあ私が歳をとったからなんでしょうね。
4月10日追記
6.ナーロッパは日本人に合わせて魔改造された理想のファンタジー世界だから。
カレーやラーメン、肉じゃがやホワイトシチューにグラタン、とんかつにコロッケ、餃子にナンなど日本人は外国の料理を日本人の味覚に合わせつつ、日本で手に入りにくい材料を日本で手に入りやすい材料に置き換えて魔改造するのが大好きですが、ナーロッパも日本人の好みに合わせて魔改造された中世風西洋的ファンタジー世界だと思います。
エルフやドワーフの存在するヒロイックファンタジーの世界観の下地として挙げられることの多い トールキンの「指輪物語」ですが、これ自体もともと、「ヘルヴォルとヘイズレク王のサガ」や「ベーオウルフ」などのドイツ系の英雄譚を近代英国人的に魔改造したものですね。
そして、それがアメリカでTRPGのD&Dの世界観に用いられ、西洋ファンタジーに西部劇的な要素などが取り入れられたのだと思いますが、それがさらに日本でソードワールドなどに取り入れられていった感じです。
D&Dやウィザードリーなどではアライメントの、グッドとエビル、ロウフルとカオスなどが割と重要ですがこれは日本人的になじまなかったからかバッサリとカットされてますね。
またソードワールドが多神教なのも日本的な魔改造の結果だと思います。
実際ファリスのようなキリスト教っぽい神様は信者が頭が固すぎたり独善的に感じられて、プレイヤーに敬遠される傾向がありますが、日本人は宗教的に規律や高潔さを強要されるのが好きではない気がします。
とりあえず思いついたのはこのくらいでしょうか。