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64.先行き不穏なマーガスの未来

 エリザは、セレナが処刑される瞬間を見ていられなくて、広場を離れて部屋に戻っていた。

 地面にひざを折って、首を切られるのを待っていたセレナの姿が、なぜだかリアナの姿と重なっていた。


 セレナが飲んでいた超回復薬(スーパーリカバリー)も、マーガスが持ってきた解除薬(キャンセラー)によって無効にされてしまった。

 だから、セレナはもう生き返ることはないだろう。

 エリザはそう思い、また涙がこぼれてきた。


 リアナの登場により、用済みとなり、処刑されてしまったセレナ。

 だとしたら、今度はリアナだって、同じ目に合うかもしれない。


 リアナはそのことをわかっているのだろうか。


 セレナもリアナも、マーガスにとっては、自分が成り上がり、そして蓄財するための道具に過ぎない。

 1か月王宮で過ごし、情報を集めてきたエリザは、そう結論づけていた。


 セレナは残念な結果になってしまった。魔王はセレナをメインディッシュと言っていたから、死んだことを知ったら、さぞかしがっかり、いや、エリザに八つ当たりの拷問をしてくるかもしれない。

 

 でも、そんなことよりも、エリザは、ただ、セレナの死を悲しんで、じっと窓辺で動けずに涙を流していた。





 パタリとドアが開いた音に、エリザが振り返ると、たったいま「薬師の聖女」の就任式を終えたリアナが入ってきた。

 セレナに復讐を遂げられて、満足なのだろうか。どこかすっきりした表情を浮かべている。


「復讐が完了して、よかったね……、なら、帰る? それとも、王宮で薬師の聖女としてずっとやっていくつもり?」


 薬の製法を手に入れたマーガスにとって、リアナはもはや利用価値のない抜け殻のようなものである。

 そんなリアナの行く末が、エリザには心配だったが、あとはリアナが選択することだ。


「何っているの? これから、復讐の総仕上げが始まるの、さあ、いくわよ!」


「そうだな……」


 意気込むリアナの後ろには、いつの間にかあいつ、魔王が立っていた。


「やっとここまできた……、あと少しだ……」


 予期せぬ魔王の出現に、エリザは驚きつつも、心配していたことを訊ねた。


「魔王様、いつの間に!? あなたのメインディッシュのセレナが処刑されてしまったんですけど、黙って見ていたんですか?」


「ああ……、だが、セレナはまだ死んでいない……、すべてはリアナの計画通りだ」


「えっ? どういうこと?」


 エリザは説明を求めようと、希望に満ちた瞳をリアナに向けた。


「私は最初から、セレナを”薬師の聖女”から解放して、田舎で暮らしてもらうつもりだったの。マーガスに薬の製法を教えたのも、すべてはそのためだったのよ」


「でも、セレナは首をはねられてしまいました。しかも、直前に解除薬(キャンセラー)を飲ませているので、超回復薬(スーパーリカバリー)で生き返ることもないわ。いったい、どういうこと?」


「ふふっ、私がマーガスに教えた薬の製法だと、薬の効果は3日しか持たないの。それは、いわばおためしの製法で、おためしの期間。

 正式に契約を結ぶ前には、相手を信用させるために、正しい薬の製法を教えなければならない。

 かといって、薬の製法を教えるということは、契約相手が無断で大量に生産することも可能になってしまう。

 それを防ぐために、私は、この「仕上げ薬」を入れなければ、薬の効果は3日で切れるようにしたの。

 薬の有効期間を、通常の1年に延ばしたければ、この薬を私たちから、お金を払って購入しなければならない。

 そうすることで、無断で生産されることを防止していたの。

 それで、セレナが処刑の直前に飲んだ、解除薬(キャンセラー)は、マーガスがお試しの製法で作ってから3日が経過して、有効期限が切れていたはず。

 すこし不安だったけどね、でも、成功したみたい」


 リアナは得意満面に、エリザに語る。

 つまりはこれが、以前「クレリアの薬屋さん」でセレナ復讐のための作戦会議をしたときに、リアナが言っていた、「契約相手に無断で大量生産されないためのいい方法」だったのだ。

 

「うわ~、リアナって頭いい! すごいね! なら、セレナは生きてるんだね!」


 リアナの説明の半分も理解できなかったエリザだったが、理解したふりをして、思わず拍手喝采した。


「ああ……、セレナは生きている……、棺の中で、俺に食べられるのを、今か今かと待っている……」


 魔王の第六感なのだろうか。セレナが生きているのが、わかるようだ。


「さあ、こんなところ、おさらばしましょう! いずれここは、だまされたとおもった冒険者たちの怒りで、火の海となるのだから」


「えっ……? どうして?」


 ひとりだけ、事態が飲み込めていない様子のエリザは、きょとんとしている。


「マーガスには、薬の有効期限が3日ということは知らせていないの。

 そして、その状態で薬を売ったらどうなると思う。使うころには、有効期限を過ぎて、ただの水になっているわ。

 それを知らずに、奥深いダンジョンへ持って行った冒険者が、どんな目にあうか。そして、命からがら逃げ伸びた冒険者の怒りの矛先は、当然、薬の生産者であるマーガスに向かうわね、きっと」


「ええっ……、マーガスさん、すこしかわいそうだなぁ……、あとだまされた冒険者さんも……」


 エリザは何の気なしに同情の言葉を漏らしたが、マーガスのしてきた行いを考えてみれば、致し方ないような気もしていた。

 セレナを陥れて、処刑したのである。

 しかも、解除薬(キャンセラー)を飲ませて、超回復薬(スーパーリカバリー)を解除しておくという、念の入れようである。マーガスには、明確な殺意があったとしか思えない。

 だから、マーガスには同じような罰が課せられるべきだと、リアナは思ったのだろう。それで、真実の薬の製法を教えなかったのである。

 それは、ほかならぬ、セレナを陥れたマーガスに復讐をするためだったのだ。


 マーガスは、だまされて、ダンジョンでひどい目にあい、怒り狂った冒険者たちに、ひどい目にあわされるだろう。

 体中を切り刻まれても、何度でも回復させられ、冒険者たちの気が済むまで繰り返し繰り返し、殺され続ける。

 死にたいのに、殺してはくれない。永遠の苦しみが、マーガスの行く先には待ち構えているのだった。

 

 エリザは、そんなリアナの真意を感じ取り、すこしぞっとして、その冷酷な横顔を見つめていた。


(つづく)


ブックマークありがとうございました! とても嬉しいです。

次回更新は、2月27日を予定しています。

あと残り2話です。どうか、最後までお付き合いください。よろしくお願いします。

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