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60.薬の製法を手に入れるマーガス

──スノーフィールドの街を出発してから一週間後、リアナとエリザを乗せて、馬車はバスラ王都にやってきた。




 大通りは、数えきれないほどの人であふれ、その両隣には、スノーフィールドの田舎街では見たこともないほど高い建物でひしめきあっていた。


「それでも、500年後の未来で見た塔よりは、どれも見劣りするけどね」


 馬車に揺られて、小窓から大通りの様子を見下ろしながら、リアナがそっと耳打ちしてきた。

 そう、どれもせいぜい3階建てが精いっぱいだったのだ。


 それでも、露店や出店でにぎわっている活気のある大通りに、エリザは都会に来たことを実感していた。




 リアナはマーガスに連れられて、バスラ王のいる玉座の間に入っていった。

 

「お前が入れるような場所ではない、ここで待て」


 ついていこうとしたエリザだったが、マーガスに静止されて、部屋の前でひとりたたずんでいた。

 見上げると、装飾が施された太い石造りの柱が高い天井まで伸びていた。そして、天上も、壮麗な絵画で埋め尽くされていた。

 こんなことにお金をつかっているなんて、とエリザはあきれる。

 この金銀宝石で装飾された石の柱一本で、いったい何人の貧しい人を救ってやれるのだろうか、思いを巡らせていた。。


 ほどなくして、誇らしげなマーガスに先導されて、リアナが玉座の間から姿を現した。

 エリザは気になっていたことを、たずねた。


「王様、どんな様子の人だった?」


「うん? そうだねぇ……、真っ白なおひげを生やして、王冠をかぶった、やさしいサンタさん、かな」


 リアナの話を聞く限りでは、普通の人間のようだ。

 この大陸の、人間族がすむ地域すべてを支配する王である、バスラ王。どんな化け物かと、エリザは想像していたのだったが。




 バスラ王との謁見が終わり、エリザはリアナとともに、王宮のゲストルームに案内された。この部屋も、やはり無駄に豪華であった。

 無駄に豪華なソファーに腰かけて、無駄に豪華な装飾が施された部屋や調度品、そして壁にかかった絵画を物珍しそうに眺めていた。

 エリザはというと、窓の外に見える、バスラ王都の街並みをぼんやりと眺めていた。高台にあるお城の、それも高い場所あるこの部屋からは、王都の街並みが一望できた。来賓に、バスラ王国の権威を見せびらかす意味もあるのだろう。


 外は、相変わらずいい天気だった。午後のあたたかな日差しが、街並みを照らして、窓から差し込んでいた。


 しばらくして、ドアが開くと、満面の笑みを浮かべたマーガスと、薬師の制服である、白いローブを羽織った老人がつれだってやってきた。

 そして、二人は、リアナの前に腰かける。その様子に、エリザも、窓辺から駆け寄った。


「さて、リアナ嬢よ、約束通り、わがバスラ王国は、貴女を新たな「薬師の聖女」として迎えたい」


「ありがとうございます……」


 リアナは、あれほどあこがれていた「薬師の聖女」という待遇にも、浮かれた様子はなく、冷静な表情を崩さぬままで、軽く頭を下げていた。

 ここに至るまでの、さまざまな経験、とりわけ未来での出来事が、リアナを精神的に成長させたのかもしれない。

 エリザは最初会ったときとは別人のように大人になったリアナの横顔をちらりと見ながら、そう思った。

 でも、最初に会った頃の、わがままなリアナを、懐かしくも思っていた。


「それでは、聖女様の最初の仕事です。回復薬(エリクサー)と、治療薬(マルチキュア)、そして解除薬(キャンセラー)の製法を、ご伝授いただけますかな?」


 マーガスは、言い回しは丁寧ながらも、有無を言わさぬ態度で、リアナに迫っていた。


「さあっ……」

 

 マーガスに促されるままに、リアナは、3種類の薬の製法を書き出した、ノートを差し出した。


 ノートの中身をろくに見もせずに、奪い取るようにして、手元に引き寄せたマーガスは、満足気な笑みを浮かべていた。

 そして、用事は済んだといわんばかりの態度で、顔も見ずに、部屋を出て行った。

 すぐにでも、先ほどの研究者を使い、このノートの製法をもとに、試作品を作らせて本当かどうか確かめるに違いなかった。


 やっと二人きりになったエリザは、ホッとしながらも、心にくすぶる不安を、リアナに打ち明ける。


「秘密中の秘密だった、薬の製法を教えてしまって、だいじょうぶなの? もうマーガスっていう人にとっては、リアナは用済みということになりませんか? そうしたら、きっと都合のいい理由をつけて、王宮から追放されてしまいます。いえ、追放ならまだいいほうです。」


 創造神から与えられた、天啓の能力(ギフト)で薬を作るセレナは、本人がいないと困るので、聖女として大切にされていた。

 しかし、リアナはそうではない。バスラ王国やマーガスにとっては、完全な薬の製法さえ手に入れば、リアナは用済みとなる。

 これから、どんなぞんざいな扱いを受けるのか、エリザには不安だった。


 でも、エリザの心配をよそに、リアナは、心配しないでと軽く笑うだけだった。それで、エリザはひらめいた。


「あっ、そうか、あのノートに書いてあることは、でたらめなんだね!」


「そんなことはないわ。書いてあることは全部本当。あの通りに作れば、3種類の薬を作ることができるわ。嘘を伝えても、どうせすぐに試作するだろうから、すぐにバレるわ。そしたら、もっとひどい目にあわされるかも」


「なら、どうしてあんなにも簡単に教えたの? もうすこしもったいぶってもよかったと思うけど」


 エリザがいじけたようにうつむくと、リアナはテーブルのティーカップを手にして、立ち上がり、背中を向けて窓辺に立ち、話始めた。


「私の目的は、セレナに復讐することなの。セレナを「薬師の聖女」からひきずり下ろして、王宮から追放して、山奥のあばら屋で、泥水をすすり、獣を食べる、みじめな一生を過ごさせることなの。そのためには、大切な薬の製法を教えることだっていとわない。セレナの”薬師”の能力(スキル)の価値を無効にするためにね」


 冷酷な言葉に、エリザは立ち上がってリアナに叫んでいた。


「本当に……? そう思ってるの? 未来であった出来事を、忘れてしまったの? やっぱりセレナに復讐をしたかったのね!」


 エリザは未来で和解したかのように見えたセレナとリアナを思い出して、涙を流していた。あのときの光景は、幻だったのだろうか、と。


 リアナは窓からくるりとこちらを向く。

 表情が影になり、よくは見えない。ただ一言、つぶやいた。


「そうよ……、それに、それがあなたのご主人である魔王様の目的じゃなくて?」


 リアナから発せられたその言葉に、姉妹が仲直りしたとばかり思っていたエリザは、少しがっかりしていた。


(つづく)

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