52.バスラ王宮へ飛んでいくサンダ
おはようございます。読んでくれてありがとうございます。
電撃でぼろぼろになったメイド服を新しいものに着替えてから、エリザまず自分が最初にサンダーバードに乗り込む。
そして、電気が来ないことを確認してから、リアナを引っ張り上げた。
「もう、サンダさん、さっきは痛かったんだから、電撃はメッ! だよ」
サンダーバードに魔王に断りなく「サンダ」というあだ名をつけて、エリザは青いふわふわした羽毛で覆われた頭をポカッとたたく。
『エリザさん、申し訳ありません。仕方なかったのです。だって、いうことを聞かないと、私が魔王様に焼き鳥にされてしまいます。サンダーバードの丸焼きなんて、おいしくないのに……そもそも、私はおいしいのでしょうか?』
後ろを向きながら、自分が食べられること前提の後ろ向きな答えを告げて、頭を下げるサンダに、エリザはふぅとため息をつく。
「サンタさんの事情は、わかったわ。でも、もう電撃は勘弁してよね」
『はい、電気が漏れないように、我慢できるといいのですが……』
「我慢するの! だって、今は人間のリアナも乗ってるのだから。下手に電気を漏らしちゃうと、死んじゃうよ。そしたら、魔王に何されるかわからない」
『はいっ! 気を付けます』
「何を遊んでいる? 早く行け。俺は気が短いんだ」
魔王の冷酷な声にせかされるようにして、サンダは封印の間の上空へと高く、飛び上がっていったのだった。
サンダが、封印の間から上空へ飛び出すと、そこは、鈍い黄色の光一色に染まっていた。
雪原も、そしてはるか遠くの雪をかぶった山脈も、夕日の黄色い光で、輝いていた。
「きれいね……」
リアナは思わず、見とれてしまう。
雄大な景色に感激しているリアナの邪魔をするつもりはないけれど、エリザはこれからのことを確認しておきたくて、サンタをにバスラ王国の方角を指で指示してから、リアナを振り返る。
サンダは、背中の二人に気をつかい、速度を落としてバスラ王都目指して飛んでいく。
「バスラ王宮へいって、それでそれからどうするの?」
エリザが訊ねると、リアナは、ふところから、さっき作ったばかりの薬が入っている小瓶を取り出した。
「この薬をセレナに飲ませてくるだけなの」
「なら、簡単だね!」
エリザはこともなげにいうけれど、リアナは首を振る。
「だって、「乞食のリアナ」がバスラ王宮に入れてもらって、その上「聖女のセレナ」にこの得体のしれない薬を飲ませることを、王様や取り巻きが、はいそうですかと簡単に承諾してくれると思う? 彼らからしたら、私たちは、どこの馬の骨とも知れない人間なんだから。この薬だって、毒薬だと疑われても、おかしくはない。それに、私たちは、大聖堂でのセレナ襲撃のときに、ばっちり顔を見られているんだから」
うーんとエリザは考え込む。
正式に入れてもらうことは不可能だけど、水魔法のプリズムを利用した幻視で、何者かに変装して入ることは可能だ。
問題は、セレナにどうやって薬を飲ませるかである。
魂が崩壊したセレナは、きっと王宮のどこかの部屋で寝かされているのだろう。
寝ているセレナは身の回りのことを、メイドかだれかに世話になっているだろうが、夜通しついているとは思えない。
しかしながら、部屋の前は厳重に警備されているかもしれない。
いろいろ不安要素はあるが、行ってみないとわからないこともあるので、ある程度は勢いに任せるようと思う。
「それに、この薬はまだ完成していないの……」
「えっ……、そうなの?」
エリザはきょとんとして、リアナを見つめる。
夕焼け空は次第に、赤い余韻を地平線に残して、夜空へと移り変わりつつあった。
「最後の仕上げ、500年に一度の流星群から降りそそぐ、星の玉をいれて、完成なの」
リアナに説明されて、エリザも未来に迎えにいったときのことを思い出していた。
あの日、零れ落ちそうなほどたくさんの星が、文字通り降り注いで、大地を覆いつくして、ぼんやりと青白く染めていた。
「500年に一度なんて、その「星の玉」は手に入るの?」
「うふふ……、よく考えて。私たちが転生した未来世界は500年後。そして、今は500年前。ここまで言えばわかるよね」
「あっ……、そうか! なら、今夜、流星群がやってくるんだね!」
エリザが叫ぶと、リアナは「正解です」というように、深くうなずいた。
「そして、復活薬は、調合を終えて完成してから、3分経過すると、効果を失ってしまうの。それほどデリケートな薬。だから、出来上がったら、すぐにセレナに飲ませないと、壊れた魂は戻らないわ」
3分……。それが長いのか、短いのか。それは、王宮の構造にもよる。
一番いいのは、セレナに一緒に王宮の一番高い、空の見える塔まで来てもらって、そこで出来上がった復活薬を飲ませることだけど。
二人でセレナを担いで、王宮内を歩いていたら、いくら夜とはいえ、すぐに発見されて捕まってしまうだろう。
いや、部屋に車いすくらいはあるかもしれない。それでも、同じことだ。
「今は考えている時間はないわ。流星群まであと2時間。それを逃したら、500年待たないと、復活薬は作れなくなっちゃう。向かいながら、考えましょう!」
なぜだか、ものすごく成長したリアナに励まされて、エリザは思わずうなずいた。
そして、自分は500年の時を生きてきたのに、全然成長してないかも、と少し落ちこんでしまったのであった。
「サンダさん、速度を上げて!」
『了解!』
二人を乗せたサンダは、夜空のかなた、バスラ王国へ向けて、今度は遠慮することなく、全力で飛んで行ったのだった。
(つづく)
次回更新は、2月14日を予定しています。




