50.未来世界から帰還するリアナ
こんばんわ。今日も読んでくれてありがとうございます。
「そろそろ、帰ろうかな……」
流星群がその数を減らして、終わりが見えてきた頃、後ろを振り返った。
そこには、帰り始めた人込みに紛れるようにして、いつものメイド服姿のエリザが手を振っていた。
きっと、魔王に頼まれて、リアナを連れ戻しに来た、過去のエリザに違いない。
「リアナ、あと少しだけ、一緒にいて……」
立ち上がりかけたリアナは、セレナに手を取られて、また前に向きなおり腰かけた。
「薬、よかったね……、これで、心おきなく、リアナのいた時代に、帰れるわね……」
セレナの言葉に、リアナは驚いて、顔を上げると、目を見開いてセレナを見つめたまま、固まってしまう。
星空の下で、セレナの瞳は涙で光っていた。
「お姉さん、もしかして、私が過去からきたリアナだと、知ってたの? いつから……」
セレナは、涙を見せまいとしたのか、静けさを取り戻した夜空に目を向ける。
「いつからかなぁ……、小さい頃から、なんだかこの子って、ちょっと大人っぽいなぁって思ってたの。もしかして、これが本で読んだことある転生者かなぁ、なんてね。でも、はっきりわかったのは、リアナが10歳のときに、一緒にバスラ観光に行った時。あの日からかな。私のなかに、もう一人のセレナが来て、リアナのことをよろしくって、言われたような気がするの。きっと、あのとき私のなかにはいってきたセレナが、リアナの本当のお姉ちゃんなんだって、なんとなく、わかったの」
「ごめんなさい、未来のリアナの人生を奪っちゃって、でも、私、もう帰るからさ……」
リアナは地面に両手をついて、顔をあげてセレナを見た。瞳から、申し訳なさと、別れのつらさで、あふれてくる涙が止まらない。
「リアナのこと、これからもよろしくね」
「まかせて、部屋と研究室にこもってばかりだったから、私が社会常識を叩き込んであげるわ」
セレナはリアナを見つめて、涙ながらにうなずく。
「これ、私の忘れ形見にして、製薬会社に見せれば、あっという間に億万長者になれるから」
リアナは、先ほどできたばかりの、復活薬を、セレナの手に握らせた。
セレナは両手でそれを握りしめると、大切そうに胸元に当てた。
「なら、私も、リアナに忘れ形見」
セレナは薬を膝の上においてから、大切なものを扱うように、涙でぬれたリアナの顔を包み込む。
「やだ、はずかしいよ……」
セレナにじっと見つめられて、涙でびしょびしょの自分の顔を思い、リアナは目をそらしてしまう。そんなリアナの顔を、セレナの白いハンカチがやさしく撫でた。
「私のこと、きっとわすれないでね……、前世が終わったら、また、会いましょう。今度は、一緒に学校にいったり、旅行に出かけたりしようね……」
セレナはそう言い終えると、涙が止まらない様子のリアナにそっと口づけをしたのだった。
「ありがとう、セレナお姉さん、きっと、またね……」
リアナは、セレナの両手に包まれて、見つめられたまま、ゆっくりと目を閉じた。
そして、力が抜けたかのように、だらりと両手を垂れて、がくんと首をうなだれた。
「リアナ、リアナ……」
そんなリアナを、セレナはいつまでも、抱きしめていた。
「元気でね……」
リアナはそっと涙をぬぐって前を向く。
セレナはひとりじゃない。だって、もうすぐ、未来世界のリアナが、目を覚ますのだから。
リアナは少し名残惜しそうにセレナを振り返ると、地面にぽっかりと開いた魔王の道に、足を踏み入れたのだった。
──500年前の、過去世界。
「おかえりなさい」
500年前の過去世界で、目を覚ましたリアナを出迎えてくれたのは、いつものメイド服に身を包んだ、エリザだった。
リアナが寝かされていたベッドのかたわらに座り、笑顔を向けていた。
「さあ、いきましょう、魔王様がお話があるっていうから」
エリザはリアナをベッドからたたせると、着替えさせるために、そっとパジャマの胸ボタンに手をかける。
突然のことに、リアナはうろたえてしまう。
「あっ……、ちょっと、自分でやるから……」
「でも、これもメイドのお仕事ですから」
メイドとしての役目を果たすことができて楽しいのか、エリザは機嫌よさそうに、リアナのパジャマを脱がせていく。
そして、エリザの用意してくれたドレスを見て、思わず顔に両手を当てた。
それは、リアナがセレナへの復讐の日に着ていた、お母さん手作りのドレスだった。
血しぶきにまみれたはずのドレスは、エリザの水魔法により、がんこな汚れも落ちて、青く輝いていた。
「これから、セレナへの復讐をするんでしょう。なら、この服がピッタリだと思って」
リアナは、エリザが差し出したドレスを受け取ると、それを胸に抱き顔をうずめて泣いた。
エリザは軽くノックしてから、ゆっくりと、封印の間のドアを開ける。
魔王がふんぞり返り、足を組んで玉座に座っていた。
「おかえり」
その威厳に圧倒されて、リアナはびくびくしながらも、返事をする。
「はい……、ただいま戻りました」
魔王は両手をついて玉座から立ち上がると、高台からリアナを見下ろした。
「顔つきが、かわったな」
「そうですか?」
自覚がないのか、魔王に指摘されて、リアナは自分の頬に手をあてる。
「ずいぶん、穏やかな顔になったものだ。未来に行く前は、吊り上がった血走った目に、口からよだれを垂らし、鋭い犬歯をのぞかせ、そして全身から立ち上る殺気。すべてが愛おしかった。なのに、なんでお前はそんなに風に変わってしまったのか……。まあ、今となっては、どうでもいいことだ」
「そんな悪魔みたいな、ひどい顔じゃなかったですよ?」
リアナが恥ずかしそうにうつむいているので、エリザはとっさに擁護した。
すると、魔王は感慨深そうにつぶやく。
「まあ、俺は未来に行く前のリアナの方が、好みだったがな」
「えっ……」
魔王の言葉に、リアナは思わず顔を上げた。
構わず、魔王は続けた。魔王の目的は、リアナの感情を食べることでしかないのだから。
「で、復讐はできそうか?」
長身の魔王に見据えられながら、しかし、リアナは自信に満ちた瞳で魔王を見返した。
(つづく)
次回更新は未定ですが、一週間以内には更新します。
評価ポイントやブックマークはとても嬉しく思っています。励みにしております。




