49.夜空を見上げるリアナ
おはようございます。読んでくれてありがとうございます。
セレナに連れられるまま駅へ向かい、電車で一時間ほど揺られていると、都会を離れたのか、車窓は真っ暗になる。
星を観察するには、リアナの住んでいる街では明るすぎるのであった。
駅から降りて、少し歩くと、川があった。
土手にはすでに、たくさんの人が腰を下ろして、いまかいまかと夜空を見上げながら、流星群を待っていた。
「このあたりにしましょう」
セレナは持ってきていたレジャーシートを土手にしくと、先に座って、リアナに隣に来るように促した。
17歳の自分と、19歳のお姉さんの組み合わせで、寄り添うのは少し恥ずかしいけれど、まあ姉妹なのでいいだろうと思い、そっと肩を寄せる。
それに、もうじき、セレナお姉さんとは、お別れなのだから。
恥ずかしさをごまかすために、夜空を見上げる。そこには、いつも住んでいる街とはくらべものにならないほど、光輝くガラスの粉をびっしりと敷き詰めたように、夜空いっぱいに星が瞬いていた。
「あっ、始まったよ」
セレナが指さすと、一筋の流れ星が、夜空を横断するように、きらりと線を引いて、そして消えた。
「え、どこどこ? 見てなかったよ」
リアナは夜空を見上げながら、セレナの肩を揺する。
「うふふ、だいじょうぶ、これから、どんどん降ってくるから」
セレナの言う通り、最初の一筋の流れ星を皮切りに、次から次へと空には、無数の線がきらめき始めた。
同じように土手に座っていた、家族連れやカップルから、歓声が上がり始める。
数えきれないほどの流れ星。そしてそれは、光の余韻を残して、リアナの隣にも落ちてきた。
拾い上げると、まあるく、ビー玉ほどの大きさの小さな玉だった。
それは、リアナの手の中で、まるで雪が解けるように次第に小さくなり、そして消えた。
降ってくる星は次第に数を増して、まるで雪が降るように、土手に降り注ぎ、少しずつ地面を覆っていく。
隣のセレナの頭にも、ちらほら数個、星の玉が乗って、まるで髪飾りのように、おしゃれに光っていた。
周囲の人たちは、楽しそうに歓声を上げて、地面に落ちてきた星粒をいじっていた。
夜空からは相変わらず流れ星が降り注ぎ、そして地面に落ちた星粒は、薄く青白い光を放っている。
幻想的な光景だった。
セレナは頭に乗っていた星の玉を手で払いのけると、星が零れ落ちてくるように、大小無数の星が光り輝いている夜空を見上げた。
「リアナ、目的の薬はできたの?」
回復、治療、解除の3つの薬はできている。過去のセレナをざまぁするための、当初の目的は完全に達成されていた。
でも、まだ、復活の薬ができていない。それができなければ、過去のセレナは、”超再生”の薬の効果で、その姿形を保ったまま、永遠に目覚めないことになる。
そんなことを、この何も事情を知らないであろう、未来世界のセレナお姉さんに告白しても、リアナは無駄だと思っていた。
でも、幻想的な星空のせいで、夢見心地になっていたリアナの口からは、自然と言葉が漏れていた。
「まだなの……、でも、あと一つだけ、何かが足りなって……、そこまでわかっているんだけど……」
リアナはつぶやくと、ポシェットから、小さな小瓶を取り出して、セレナに見せた。
「世界のありとあらゆる物質を試した見たんだけど、うまくいかなくてさ……、こんなもの!」
大きくため息をついて、リアナはゆっくりと立ち上り、薬が作れなかった悔しさをぶちまけようと、小瓶を川に放り捨てようと振りかぶる。
もうすぐ、過去からお迎えがきて、未来世界とお別れなのだ。
そして、試作品のこの小瓶だって、持ち帰ることはできない。なら、捨ててしまおうと思ったのだ。
「ちょっとまって……」
セレナは振り上げたリアナの手首をつかんでリアナを制止させると、なだめるように肩を抱いて、ゆっくりと座らせた。
でも、リアナはそのまま膝を抱え込んで、泣き始めた。
「ううっ……、くそぉ……、やっぱり私は、だめなんだ……、わがままで、くずで、怠け者のリアナなのさ……」
未来のセレナには、薬のことはあまりよくわからないが、リアナが目的の薬を開発できなくて、悲しんでいるだけは、わかった。
すっかりいじけてしまった妹の震える背中を、セレナはそっと撫でながら、手から転げ落ちた薬の小瓶をひょいと取り上げた。
「これは試したの?」
セレナの言葉に、リアナは両膝から顔をあげて、泣きはらした瞳を向けた。
そこには、セレナの指につままれて、星の玉が輝いていた。
500年に1度しか降ってこない星の玉。リアナがそれを試せるはずはなかった。思いもよらなかったのだ。
リアナは、だまってかぶりを振る。
「なら、まずは、やってみよう]
セレナは小学生が理科の実験をするように、おぼつかないけれど好奇心に満ちた表情で、実験を始めた。
それは、久しくリアナが忘れていた気持ちであった。
ぽとりと、星の玉が小瓶の落ちる。ガラス瓶の中で、じわりと玉が解けると、中の液体が、七色に光り輝いた。
「あれ、どうなってるの、なんだか、変だよ……」
セレナは中で起こり始めた変化が怖くなったのか、瓶をリアナに押し付けてきた。
リアナはそれを受け取り、じっと、内部で起こる変化を観察する。
それは、古文書に記載されていたのと同じ反応だった。
神話級の、神の御業と称される、復活薬が生成された瞬間だった。
「お姉さん、ありがとう、作りたかった薬が、たったいま完成したよ、ほら……」
リアナは七色に光輝き続ける小瓶を、セレナに示す。
セレナはそれをまじまじと見つめてから、照れくさそうに頭をかく。
「えっ、そうなの!? もしかして、私ったら、またなにかやっちゃいました?」
夜空に、姉妹の楽しそうな笑い声が、こだましていた。
(つづく)
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