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45.一人取り残されたエリザ

おはようございます。読んでくれてありがとうございます。

 魔王は一歩踏み込むと、目にもとまらぬスピードで、リアナの怨念が込められたディルウイングで切りつける。

 ばっさりと振り下ろしたそこには、真っ二つになったベンチが、音を立てて崩れただけで、テイアイエルは消えていた。


「魔王様、後ろです!」


 テイアイエルがいつの間にか魔王の後ろに立っていたのに気づいて、エリザは叫ぶ。

 エリザに教えられるまでもなくわかっていたのか、魔王がゆっくりと後ろを振り返る。

 そこには、相変わらず薄気味悪い笑みを浮かべたテイアイエルが立っていた。


「種明かしをしましょう。私には、この世界(・・・・)の未来がわかるのです。だから、あなたのいかなる攻撃も、かわすことができるのです。だって、何秒後にどこからどんな攻撃をしてくるのか、すべてわかるのですから、ほらっ」


 魔王が横なぎにディルウイングを振り払うが、やはりテイアイエルの姿はそこにない。


「ここですよ~」


 あざけるような声がして、上を向くとテイアイエルが、上空からこちらを見下している。


 エリザはふと、腕時計を見る。そういえば、もうすぐ3分経つ。魔王がいなくなれば、自分たちはどうなるのだろう。

 創造神の意志にさからった者として、テイアイエルに消されてしまうのだろうか。それは、いやだ。

 だから、エリザは力いっぱい応援した。

 

「魔王様、がんばってください!」


「お気楽なものだな、エリザよ」


「だって、女の子ですから……戦いは魔王さまの役目です!」


「ふん……」


 魔王はごみを見るような目で、エリザを一瞥してから、上空のテイアイエルを見上げて、ディルウイングを放り捨てた。


「闇魔法、重力剣(グラビティーソード)


 ヴンと音がして、魔王の右手に透明な剣が出現したのがわかった。

 魔王は剣を両手に持ち直し、テイアイエルに向かって飛び上がった。


「無駄ですよ、未来は見えていますから。そろそろ、終わりにしましょうか」


 テイアイエルは余裕の笑みを崩さず、相変わらず上空にたたずんでいる。

 魔王に向かって広げられた手のひらが、光を帯び始める。


時空破斬ディメンションカッター


 魔王はテイアイエルのはるか手前で剣をふるう。

 当然、剣はむなしく空を切る。


「アハハ、いったい何をしているのです、無茶苦茶な行動なら、読まれないとでも思ったのですか? 私の能力(スキル)未来視(アカシックレコード)は、この世界(・・・・)のすべての事象がわかるのですよ! 今の空振りだって、もちろん、把握していましたよ」


 エリザが瞬きをした一瞬、空中の魔王の姿が消えた。そして、次の瞬間、テイアイエルの白いローブの胸元に穴があき、真っ赤な血が噴き出した。


「ふふ……、そうか、なら、お前が串刺しにされる、この未来も、見えていたのだろうな……」


 いつの間にかテイアイエルの後ろにたっていた魔王は、剣を突き刺しながら、愉しそうにささやいた。


「一体、なぜ……、私の未来視(アカシックレコード)ではわからなかった……、どうして……」


 唖然として口をぱくぱくさせるテイアイエルのローブに、赤い染みが広がっていく。

 天使の血も赤いのか、なら、自分の血は何色なのだろうと、エリザはくだらないことを考えてしまう。


「冥途の土産に教えてやろう。俺は空間を切断して、異次元空間を通じて、お前を刺した。この世界(・・・・)ではない異次元空間のことは、お前の未来視(アカシック…なんとか)では把握できない」


 魔王が剣を引き抜くと、羽を動かすこともできないテイアイエルがどさりと地面に落下した。魔王もそれに続いて、ストンと着地する。


「しかし、最大の敗因は、お前がくそザコだということに尽きる……」


「ぐはぁ……、くそがあぁああぁああああぁあ!」


 血走った目に般若のような形相で叫ぶテイアイエルには、さっきまでの優男の面影はなくなっていた。

 

「せめてお前の仲間を殺してやる!!!」


 テイアイエルのターゲットになったと理解して、エリザは身震いする。


「い、いやぁ……、助けて魔王様!」


 エリザは助けを呼ぶけれど、魔王の姿はそこにない。もう3分経ってしまったに違いない。

 そもそも、1回3分というけれど、どういうルールなのだろう。一度戻ればまたすぐに来られるのか、それともしばらく時間をおいてからでないとだめなのか。


 血まみれのローブでふらふらとこちらへ歩いてい来るテイアイエルは、もはや天使というよりは、ゾンビという方が相応しいくらいに思える。

 エリザは逃げようとしたが、腰が抜けて地面にへたり込んでしまった。

 すぐ後ろで、魂が復元されたばかりのリアナも震えていた。


 いずれにせよ、魔王はもう未来世界にはいない。すぐに来てくれないということは、しばらく時間をおかないと再度は来られないということなのだろう。

 ここは、自分で何とかするしかない。

 

 エリザは決意に満ちた瞳をテイアイエルに向けると、立ち上がり、テイアイエルに向き合った。


「リアナはさがっていて、私がなんとかするから」


「でも、だいじょうぶなの? エリザは戦いが得意じゃないんでしょう?」


 リアナは不安そうだけど、それでも、生身の人間よりはよっぽどマシだ。

 自分だって、魔族の端くれなのだ。

 エリザは心配かけまいと、笑顔で振り返る。


「安心して、リアナはただ、薬を作ることだけ、考えていればいいの。私はそれを全力でサポートするためにいるのだから」


 リアナを置いて、エリザはテイアイエルに向き合う。


──大気にたゆとう水の精霊、そして土の精霊よ、私の願いを聞き届けてください。そして、私の願うものをお授けください。


「水と土の複合魔法、|永久凍土の剣《アースリフリジレイション 》!」


 剣を向けた先のテイアイエルは、血だらけの顔に、余裕の笑みをたたえていた。


「さあ、かかってこいよ、それが、お前の命の終わりだ」


 テイアイエルは、血まみれの顔に余裕の笑みをたたえている。

 きっと、魔王に比べれば、弱いと値踏みされているのだろう。そりゃあ、魔王と比べれば、誰だって弱いのだろうけど。


 さっきの魔王との闘いで、エリザはテイアイエルの未来視(アカシックレコード)能力(スキル)を把握していた。

 未来が見えるその能力(スキル)のせいで、攻撃はすべて読まれていると考えるべきで、安易に仕掛ければ、あっという間に首が()ねられるだろう。

 でも、未来が見えるといっても、それはテイアイエルが見ようと念じる範囲だけだ。

 つまり視ようと思えば、かなり先、それこそ100年後だってみられるが、時間もかかるし、この戦いにおいて、それは意味のないことだ。

 だから、きっとテイアイエルは、必要最低限のすこし先の未来しか見ていないと思われる。つまり、エリザが死ぬところまで。




──つまり、一度死んだと見せかければ、テイアイエルは安心して、その先を見ることをやめる。




 エリザはそれに賭けることにした。


(つづく)

次回更新は、2月4日を予定しています。


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