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43.なかよく姉妹ゲンカをするセレナとリアナ

おはようございます。読んでくれてありがとうございます。

「それ、ちょうだい!」


 セレナは、奪うようにして、エリザの持っていた、液体の満たされた透明な容器(ペットボトル)を手元に引き寄せた。

 そして、ラベルの、おいしい”水”と書かれたラベルをじっと見つめてから、両手で抱え込むようにして、力を込める。


「ちょっと……、無視しないでよ! ねえ!」


「静かにして! 集中できないから……」


 セレナの剣幕に、エリザはびくりとあとずさりして押し黙る。

 傍らには、リアナが安らかな表情で横たわっているのが目に入った。


「もしかして、もう、やってしまったの? セレナさん……」


 エリザはリアナに向かて伸びる自分の黒い影に目を落とす。

 夕焼け時、空も景色も、一面が黄金色に染まり、まるでここは天国の入り口のような気さえしていた。


「出来た!」


 セレナは叫ぶや否や、ベンチで気持ちよさそうに目を閉じているリアナを抱き起す。

 そして、ペットボトルの口をリアナに押し当てた。


「リアナ、飲んで!」


 セレナの必死な様子に、思わずエリザも手を貸していた。

 状況確認は後回しにして、セレナとは反対側に座り、リアナの体を支える。


「それは、薬なんですか?」


「そうよ、リアナの魂を、この世界に呼び戻すための薬。今私が作ったの、まだ名前はないけれど。リアナ……、早く飲んでよ」


 セレナの願いもむなしく、魂が失われたリアナの口からは、だらだらと薬が零れ落ち、地面に黒いシミをつくるだけだった。

 たとえセレナの薬が万能であっても、それが飲めないことには、効果を発揮できない。

 そして、エリザの目からみても、リアナはすでに、薬を飲むことができる状態とは思えなかった。


 セレナはペットボトルを自分の口に含む。

 そして、今度は口移しで、リアナに飲ませた。


 セレナとリアナの唇が触れ合っている側面から、液体が滴っていく。

 不意に空が明るくなった。エリザが見上げると、空から光が差し込んできて、リアナを照らしている。

 その時、リアナの首筋がこくんと動いたのをエリザは見た。

 やがて、ゆっくりと、リアナは目を開く。

 魂が復元されたに違いない。


「あれ……? 私……、どうして……、戻ってきたのかしら……」


 隣できょとんとしてあたりを見回すリアナにむけて、セレナは邪悪な微笑みを向ける。


「うふふ……、お帰り、リアナ」


「もしかして、セレナが助けてくれたの? どうして……、私なんかを……」


 リアナは意外といった様子で、胸に手を添えて、上目遣いでセレナを見た。


「さっきも言ったでしょう。まだ、私があんたに復讐を終えてないって」


「でも、なら、どうして助けてくれたの? あのまま放っておけば、魂がなくなって、復讐が完了していたはずなのに……」


 リアナの問いかけに、セレナは「わかってないなぁ」というふうに、顔の前に立てた人差し指を左右に振る。


「死んだら、それで終わりでしょ。生きて苦しんで、それを見て「ざまぁ」って愉しみたいの」


 セレナは片手で口を覆い隠して、にやりとリアナを見る。


「なら、私だって、立派な薬を開発して、セレナに復讐してやるんだから!」


「やってみなさいよ! 創造神より与えられた、薬師の聖女の私が作る薬にかなうっていうならね!」


 周囲の目も構わず、大声で姉妹ゲンカをする二人を、エリザは邪魔しないように、少し離れたところから、にやにやしながら観察していた。

 憑き物がとれたように、中よさそうにはしゃぐ姉妹を見て、エリザは確信する。

 おやおや、これはもしかして、魔王様のお食事タイムではないでしょうか、と。


「……いろいろあったが、結果オーライというところだな」


 聞きなれた冷ややかな声に振り替えると、そこにはいつもの黒ずくめ服にマントを羽織った魔王が立っていた。

 未来世界にその服はどうかと思うが、未来にはコスチュームプレイ(略してコスプレ)という、好きなアニメや漫画のキャラの恰好をして楽しむという文化があるみたいなので、魔王もそういう趣味の人と思われているのだろう。


「ふふ、首がつながってよかったな、エリザよ」


 魔王は、後ろからエリザの首に手刀を当ててささやくと、そのままエリザを通り過ぎて、さっきからずっと姉妹ゲンカをしている二人のもとへ歩み寄っていった。

 姉妹に何かあってはいけないと、エリザは魔王のあとをトコトコとついていく。

 

 



 歩み寄る魔王の影が、姉妹二人を覆いつくすと、異変に気付いて二人とも顔を上げる。

 そこには、リアナにとっては10年ぶりに会う魔王が、二人を見下ろしていた。

 魔王にしてみれば、ついさっきであったが。


「やあ、がんばっているようだな。リアナよ」


「あっ……、魔王様……、どうしてここに?」


 リアナは転生の目的を思い出して、ばつが悪いのか顔を曇らせていた。


「どうして? 食事に来たのだ……、悪いか?」


 食事と聞いて、セレナが大げさにびっくりして、リアナに抱き着く。


「ええっ! 私たち食べられちゃうの? おいしくないですよぉ……」


 懇願するセレナにもお構いなしに迫る魔王。


「あきらめろ、もうがまんできない……、いただきま……」


 魔王が両手を広げ、口を開けて二人に迫る。


「ちょっと待ってください、魔王様!」


 おびえている姉妹二人の様子を見て、たまらずエリザは止めに入る。

 すると魔王は、めんどくさそうに振り返り、エリザをにらむ。


「なんだ、食事中だぞ……」


「あの……、ちゃんと説明してあげないと……、獲物がおびえているじゃないですか? それでは、おいしくないのではありませんか?」


 エリザの提案に、魔王はしばし考えたあげく、仕方なさそうにうなずいた。


「時間がないが、おいしく食べるためには、余計な感情は排除したい。いたしかたない、3秒で説明しろ」


「ええっ!」


 戸惑う時間さえ惜しいエリザは、二人に駆け寄り、思い切りひきつった笑顔を作って叫んだ。


「だいじょうぶだよ、死なないから! エリザを信じてください、えへっ!」


 3秒しかないので、そう伝えるしかなかったのである。

 姉妹二人がぷっと笑ってくれたので、信じてくれて、すこしは心和んでくれたかなと、安心したエリザであった。





「あっ……」


 セレナが声を漏らすと、安心しきっていたエリザの表情が、一瞬で凍り付いた。

 目の前のセレナの胸元、心臓のあるあたりから、黄金色に輝く剣が突き出していた。

 セレナは次第に目をとろんとさせて、その場に崩れ落ちるように倒れる。


「お姉ちゃん!」


 リアナの悲痛な叫び声が、あたり一面にこだました。


 エリザは何が起こったのか理解できなかった。

 隣の魔王だけが、理由を知っているかのように、セレナの後ろの人物を、その赤い瞳で見据えていた。


(つづく)

次回更新は、2月2日を予定しています。

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