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41.セレナに必死で訴えるエリザ

おはようございます。今日も読んでくれてありがとうございます。

「きゃっ!」


 エリザに手首をつかまれて、手に持っていた剣を取り上げらたセレナは、か細い悲鳴を上げた。

 その手から剣がこぼれおちて、ごろんと床に転がる。

 それは、土産物屋で売っていた木刀であった。


 高々にセレナの手首を上に持ち上げているエリザと、セレナの目線が交差する。


「あの、ごめんなさい。なんか、勘違いしちゃって……」


「いいの、気にしないで、エリザさん」


 エリザはセレナにじろりと見つめられて、冷や汗をかいたのだった。





「わあ……、すっごい……」


 バスラ大学の入り口で、リアナは立ち止まると、500年前からずっと変わっていないという荘厳な門を見上げて、ため息を漏らしていた。

 500年の時間は、石造りの門をところどころ風化させてはいたけれど、みずぼらしくなるどころか、かえって年を重ねた人間と同じような風格を与えていた。


「さあ、行くわよ」


 セレナが門を見上げて立ち止まっているリアナの肩に手を当てる。

 ふいに、リアナの顔が曇り、そしてセレナを振り返ったその表情は、悲しそうに見えた。


「ごめんなさい……お姉ちゃん、ここ行きたかったんだよね……」


「えっ?」


「ううん、待たせてしまって、ごめんなさい。行こう!」


 エリザは姉妹のすこし後ろを歩きながら、ごめんなさい、の意味に思い当っていた。





 休日のせいか、学生がまばらな大学構内を抜けていく。

 ところどころ、芝生やベンチがあり、そしてきちんと手入れされた街路樹が、初夏のさわやかな風に揺れていた。


 構内には、歴史を感じさせる門とは対照的な、石造り(コンクリート)のシンプルで近代的な建物が並んでいる。

 曲がり角に建てられていた案内看板に従って歩いていくと、バスラ大学の図書館にたどり着いた。





 中に入ると、周囲を無数の本棚に囲まれた、吹き抜けの巨大な空間が姿を現した。

 見上げる天上は高く、天窓からは、外の光がこぼれていた。


「お姉ちゃん、先に行ってるね!」


 今のセレナの正体を知ってか知らずか、リアナの久しぶりに見せた、10歳の女の子らしい笑顔を見て、エリザはうれしくて「うふふ」と声がこぼれる。

 リアナはパタパタと走っていき、まばらな大学生や一般客とまじり、本をあさりはじめた。

 向かった棚は、もちろん、”や 薬学”だった。


 セレナと二人で取り残されたエリザは、ぽつりと口を開く。


「リアナは、私が守ります……」


 その言葉に対して、セレナは返事をせずに、遠くで嬉しそうに本棚をあさっているリアナを見つめていた。




 

 2時間ほど、エリザは絵と言葉で手軽に物語を楽しむことができる「漫画」という本ばかり読んですごしていた。

 

 ふと、貸与受付カウンターに、分厚い本が山積みにされているのが目に入る。そして、そこではリアナとセレナもいた。

 エリザは漫画を放り出すと、あわててリアナのもとへ駆け寄った。


 受付カウンターには、本がうずたかく積まれていた。職員は手にもった、分厚いへらのような棒(ハンディスキャナー)を、本の後ろの縦じまの模様(バーコード)に押し当てながら、せわしなく動いている。


 バスラ王立図書館は、借りたい本を自宅まで配送するサービスがあり、今日貸与手続きをした67冊の本は、明日にでも、家に届くだろう。

 手続き中、積み上げられた本の山を見ながら、エリザは目を丸くして本の山を見上げると、そっとリアナを肘でつつく。


 「これ、1週間で全部読むつもりなんですか? 漫画とかじゃなくて、難解な薬学の本みたいですけど……」


 エリザの心配をよそに、リアナは、太陽のように輝く笑顔で、うんと微笑む。早く読みたくて仕方ないといった様子だった。

 

「あの……、あなたは、本当に、前世のリアナさんなんですか?」


「そうだよ、あのリアナだよ」

 

 その陰りのある横顔に、エリザは前世のリアナを感じて、安心したのだった。





 一日中図書館で過ごしたかったというリアナをやっとの思いで引きずりだして、王都の中心部にある、広々としたセントラルパークまでやってきた。


 広々とした芝生は周囲を緑の木々に囲まれ、その向こうには、青い夏の空を背景して、巨大な石造りの建物がそびえたっていた。

 

「さあ、腕によりをかけて作ったから、たくさんたべてね!」


 木陰の下に広げられたシーツの上には、三角おにぎりに、卵焼き、からあげ、ソーセージ、サラダにミニトマトと定番のものばかりであったけれど、食べてみると、丁寧に作られているのがわかるほどにおいしく、そして、見た目のいろどりもあざやかだった。

 

 頭を使ってお腹がすいたのか、リアナも夢中になって、おにぎりをほおばっている。


「あれっ? とってもおいしいよ、お姉ちゃん、腕をあげたね」


 そんなリアナをほほえましそうに見つめれるセレナ。


 その様子は、仲睦まじい姉妹であり、前世で殺し合いを演じてきたとはとても思えなかった。

 ふとエリザは、500年前の前世の出来事が夢だったのではと錯覚しそうになる。

 でも、それは間違いであるとすぐ気づいた。


 木々のざわめきに顔を上げると、黒服のあの男、魔王が蝙蝠のように、木の枝にぶらさがり、エリザをずいと見つめていたからだった。

 

(順調か……、あと半日、リアナを守るのだ……)


(こんなところに来て、だいたい、来られるなら、魔王さまが今からセレナを殺ってしまったらいかがでしょうか?)


 エリザは心にもないことを提案する。


(セレナはメインディッシュだ。お楽しみは取っておかねばな……では、エリザよ、お前のがんばりに期待している……)


 3分経過したのか、魔王はエリザの頭のなかに不気味な笑い声を残して、去っていった。


「エリザさん、なにぼんやりしているの?」


 エリザはふと気が付くと、セレナが紙コップに注いだ、水筒のお茶を差し出していた。


「あっ……、ごめんなさい、あんまり景色がきれいだったから……」


 とっさのことで、エリザは警戒するのも忘れて、紙コップの冷えたお茶をぐいと人のみしてしまう。

 すると、途端に猛烈な眠気に襲われる。

 しまった、と吐き出そうと思ったが、手遅れだった。

 セレナが、”薬師”の能力(スキル)を発動させて、お茶に睡眠効果を付与したに違いない。


「うふふ……」


 セレナの微笑が抗いがたい眠気でかすんでいく。膝の上では、リアナは心地よさそうに目を閉じてすやすやと眠っている。

 眠っている間に、リアナの魂を奪うつもりだろう。


「セレナさん……、お願い……、リアナを、殺さな、い、で……」


 必死でセレナの顔に手を伸ばしながら、エリザの意識はそこで途絶えてしまった。


(つづく)

次回更新は、1月31日の予定です。

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