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40.未来のスイーツを満喫するエリザ

おはようございます。読んでくれてありがとうございます。

 何年振りかの外の日差しは、色白なリアナの肌に容赦なく照り付けた。

 というのも、リアナは、10歳になる今のいままで、学校にも行かず、部屋にこもって勉強漬けの日々を送っていたからである。

 理由は、簡単。もう小学校の課程は、独学で5歳のときに修了してしまったからだ。加えて、中学、高校の内容も履修済み。

 目下取り組んでいるのは、バスラ大学の大学院や研究者レベルの課題である。

 小学校、中学校の課程については、さぼっていたとはいえ転生前にやっていたことなので、簡単なのはいうまでもない。

 でも、それ以上の課程はやったことはなかったが、すらすらと説くことができるのは、ほかならぬリアナの決意に後押しされた努力によるものだろう。

 

「ほら……、部屋で勉強ばかりしているからよ」


 太陽に目をしかめるリアナを、セレナの日傘が覆った。

 その様子を、二人のすぐ後ろから、子供用のメイド服を着た、リアナと同じ10歳のエリザがじっと見つめていた。


 エリザは、中のよさそうな二人をじっとみるめるが、今のセレナは、昨日までのセレナとは違うということを知っていた。

 

 朝まどろみの中で見た夢で、魔王から、セレナもまた500年前から転生してきたということを伝えられたのだ。

 そして転生してきたセレナは同じように転生してきたリアナの魂を消滅させようとしていること。セレナから俺の獲物(リアナ)を守ることが、魔王の下僕としての、本日の仕事だと仰せつかっていた。


 3人分の弁当が入ったセレナのリュックは、大きく膨らんで揺れていた。

 リアナに優しそうに話すセレナが、過去からの転生者なんて、思いもよらない。

 でも、魔王が自分の欲望に関して、意味のない嘘をつくことはないのだから、きっと真実なのだろう。


 エリザは、自分のリュックの肩ひもをギュッと握りしめると、すこし悲しな面持ちで、表面上は仲睦まじい姉妹を見つめていた。



 


「うわ~、あまくて、ひんやりしていて、おいしい!」


 王都内の有名スイーツ店で、運ばれてきたチョコレートパフェをほおばりながら、エリザはひとりごちる。

 転生してからずいぶん経つけれど、これだけおいしいスイーツに出会うのは初めてだ。

 見た目も最高におしゃれ! こんな画期的なメニューを過去に持ち帰って、スイーツ店始めたら、大繁盛間違いなし!


「あれっ……」


 我に返ったエリザの目の前には、主を失った二つ並んだチョコレートパフェのグラスが、中身を半分ほど残されて、汗をかいていた。

 目の前にいたはずの、リアナとセレナの姿がいつのまにか消えている。


 サっとエリザの顔が青ざめる。

 やばい、すっかりパフェに夢中で、今日の使命を忘れていた。

 幸い、パフェは食べかけて、荷物は置きっぱなしだから、戻ってはくるのだろうけど、そういう問題ではない。

 セレナはリアナを消滅させれば、ここに戻ることなく、魂だけ過去に戻ればいいのだから。

 

 ということは、この場所に戻ってきたセレナは、もう、未来世界のセレナであり、転生者のセレナとは別人になっている。

 そして、なんらかの方法で魂を消滅させられたリアナも、同じように、もう転生者のリアナではなくなっているだろう。


 エリザは両手ついて立ち上がる。一瞬、店内の人たちが、こちらを見たが、それにもかわまずエリザはトイレに走り出す。

 事を為すのであれば、それは密室のトイレでしかありえないのだから。


 細い通路の先にある女子トイレのドアを開けると、そこにはきょとんとした表情のリアナが立っていた。


「あれ、どうしたの、真っ青な顔をして、おなかが痛いの?」


 今しがた手を洗い終えたリアナは、ハンカチで手を拭きながら、心配そうにエリザを見据える。

 その後ろには、セレナがじっとこちらをうかがうように見つめていた。


「いえ、ちょっと、落ち着きたくて」


「そう……」


 自分を見つめるセレナの瞳に、邪悪が意図を感じとることができたので、エリザはひとまず安心したのだった。

 前世のセレナがまだいるということは、目的は達成されていない、ということなのだから。




 

(さっきは、危なかったな、エリザよ)


 バスラ王都にある、一番高い塔、スカイツリーの展望台で、望遠鏡片手にはしゃぐ姉妹をすこし離れたところで見守っていたエリザは、魔王の声を受信した。


「ごめんなさい、あまりにスイーツがおいしくて、意識がとんじゃったんです」


(次に同じようなことがあれば、お前の首ごと意識がとんじゃってしまうぞ……くくく)


 魔王にささやかれて、エリザは首と体が離れる妄想をしてしまい、守るように両手を首に当てた。ひんやりとした感触が首回りを包み込む。


(それにしても、絶景だな。地下もいいが、天空城というのも悪くない)


 絶景って、ああっ、魔王様、そんなところに突っ立っていたら、事案になりますよ!


 スカイツリーの展望台の窓の外で、魔王が涼しい顔で、コンクリートというらしい石作りの建物が埋め尽くす景色を眺めている。

 頼りない足場にひょいとつま先立ちしている光景は非現実的なのか、それとも清掃員と勘違いされているのか、まだ誰にも認識されていないのが救いだった。


「未来には来られないのではなかったのですか?」


(お前の魂を媒介にして、1回につき3分間は存在できるのだ、よかっただろう)


「まあ、心強くはありますねって、早く降りてください。気づかれると、騒ぎになりますよ」


(ふん……、せっかく心配して見に来てやったのに、つれない女だ……)


 魔王は捨て台詞を残して、まるで霧が晴れるようにその姿を消した。

 エリザがホッとしたのもつかの間、夢中になって望遠鏡をのぞき込むリアナに添えられた手には、いつの間にか剣が握られている。


「だめーっ!」


 人込みをかき分けながら、エリザは急いでセレナの元に走り出した。


(つづく)

次回更新は、1月30日(土)の予定です。

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