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39.お弁当を作るセレナ

おはようございます。読んでくれてありがとうございます。

 セレナはソウルイーターを両手に持ち、その切っ先を、真上からリアナの心臓に突き付けた。

 相変わらず、リアナは気持ちよさそうに寝息を立てている。

 机の上には、分厚い参考書に、びっしりと書き込まれたノートが開いたままになっていた。

 遅くまで勉強、ごくろうさま。でも、あなたの努力はここで終わるの。


 でも、その切っ先は震えるばかりで、振り下ろされる気配がなかった。


 ここで、リアナを殺さないと、回復薬の製法も持って帰られたら、聖女としてのセレナは破滅だった。

 薬が誰にでも作れるようにあれば、セレナは必要なくなるのだ。

 

 でも、それは、子供の頃、自分の望んでいた世界ではなかっただろうか。

 誰もが手軽に薬を変えて、あらゆる怪我や病気から解き放たれる世界。そして人生を謳歌する。

 子供の頃の私も、それを目指して、バスラ王都の薬師要請学院へ入ろうとしていたはずだった。


 でも、それはセレナの破滅を意味することも、理解していた。

 オークに身売りされ、逃亡し、社会の底辺で生活したことのあるセレナは、人間の冷酷さを十分理解していた。

 今みなが、ちやほやしてくれるのは、”薬師”の能力(スキル)のおかげ。つまり利用価値があるからだ。

 それが無効になれば、きっと手のひらを返したように、これまでの悪事を糾弾されるに違いない。そう、きっとマーガスが先頭にたってセレナを追い落とすに違いない。


 だから、ここで殺すしかないって、わかっていても……。


 セレナの頬から涙が滴る。それがぽたりとリアナの頬に落ちた。


「まだ、もうちょっと後でもいいよね……」


 セレナは、リアナにそっと布団をかけなおすと、何もせずに、静かにドアを閉じると、部屋を出て行った。


「やれやれ、だいじょうぶですかね……」


 様子をうかがうために、リアナの部屋にやってきたテイアイエルが、閉じられたドアを見つめてつぶやいた。



 

 朝になって、セレナがリビングへ行くと、未来世界のエリザの母親であるメイドが、朝食の準備をしているところだった。

 今日は休日である。未来世界のセレナの日記によれば、お昼前までは起きてこないだろう。

 テーブルに座っていると、セレナの気配に気が付いたのか、メイドが振り返る。


「今日は、エリザのことお願いね」


 メイドは、エプロンで手を拭いてから、申し訳なさそうに、ポケットから取り出した長方形の紙切れを3枚を、セレナの前に差し出した。

 セレナはその紙切れが、未来世界でいうお金であり、金貨と同様の働きをすることを知っていた。差し出されたのは、イチマンエンが3枚で、子供3人が遊ぶにはいささか多すぎるということも、理解していた。

 リアナに正体がばれないように、この世界のことを、日記や不思議な板(タブレット)で、一通り予習しておいたのである。


「ご両親には、内緒だよ」


 メイドは人差し指を自分の口に当てる。多すぎるということは、自覚があるのだろう。それでも、エリザのお守りをしてもらうのだから、はずんでくれたに違いない。


「はい、今日は私にまかせて、安心してお休みください」


 メイドも、本来はお休みなのであった。でも、サービスで朝食を作ってくれた。

 きっと、友達と、おしゃれなカフェでおしゃべりをして過ごすのだろう。

 今日は、とてもいい天気で、行楽日和なのだから。

 でも、エリザがいてはゆっくり休めない。だから、セレナがエリザを連れ出してくれることに、メイドも感謝しているのだった。


「お皿は洗っておきますから、どうぞ、お出かけください。三万円のお礼ですから」


 セレナが促すと、メイドはありがとうと頭をさげて、さっそくエプロンの帯をほどきながら、自室へと着替えに行った。


 そんなメイドを横目に見ながら、セレナはテーブルの上のいかついおじさんが印刷された紙きれを鷲掴みにすると、自分のリュックサックに突っ込んだのだった。




「さて、じゃまものはいなくなったわ」


 体よくメイドを追い払うことに成功したセレナは、この世界で「冷蔵庫」という名の、魔法ボックスのドアを開く。

 そこには、昨日、未来世界のセレナが買い込んだであろう、お弁当の材料が詰まっていた。


 セレナが過去世界から転生したきたということは、リアナに感づかれないようにしなければならない。少なくとも、今日リアナの魂をソウルイーターで串刺しにするまでは。でなければ、警戒されて、やりにくくなる。

 

 そのためには、未来世界のセレナとして、ふるまう必要がある。

 だから、この材料で、それっぽい弁当を作らねばならない。


 幸い、セレナは子供の頃、よく手伝いをさせられていたので、家事全般は得意あった。

 まだ姉妹が中の良かったころ、セレナは弁当を作って、近くの山へ遊びにいったこともある。


 それと同じことをすればいいだけ、なにも難しくはない。

 セレナは冷蔵庫のから食材を取り出すと、それらを器用にさばいて、調理を始める。

 もちろん、500年前のレシピ通り、そっくりそのまま作ってしまうと、リアナに感づかれる恐れがある。

 だから、セレナは現代風にアレンジすることも忘れない。

 未来世界のセレナの記憶と、立てかけたタブレットに映した現代風のレシピに従いながら、手慣れた様子で、弁当を作っていった。


 弁当を作りながら、セレナは思わず鼻歌を歌っている自分に気が付いて、あわてて止めた。

 なにが楽しいのかしら、と自問自答したからだった。


(つづく)

次回更新は未定です。できるだけ毎日更新がんばります。

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