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36.オトナなのにママに甘えるセレナ

こんばんわ。本日最後の更新です。

「ママ!」


 鉄扉を開けると、そこには、こじんまりとした部屋に、ドレスを着た貴婦人が優雅にティーカップを傾けていた。

 でも、そのドレスは薄汚れていた。そして、ティーカップは空なのに、その貴婦人は際限なくべろべろとカップをなめ続けていた。

 成人した女性がするには、いささか異常な光景であった。

 

「ああ……、セレナ、ずっと待っていたのよ……」


 セレナの母親は、テーブルから立ち上がると、ふらふらとセレナに歩みよってきた。

 近づくにつれて、ドレスや体から漂ってくる異臭が、つんとセレナの鼻をついた。その匂いに刺激されて、セレナの心が次第に(たかぶ)っていく。

 懐かしい、ママのにおいなのだから。むしろ、もっと濃くてもいい。

 だからこそ、あえてお風呂に入ることを許してはいないのだ。


「セレナ、薬を……、薬をちょうだい……」


 ママはセレナの面前までやってくると、作ったような穏やかな顔で、セレナの両肩を激しく揺すりながらねだる。

 ママに求められて、セレナは上機嫌になり、ドレスの胸元から、薬をとりだして、ママの目の前にぶら下げた。

 セレナがママに与え続けている薬は、快楽をもたらす半面、強力な依存性がある。それを手に入れるためには、殺人すらいとわなくなるほどに。そして、薬が切れると、自己に襲い掛かる幻覚や被害妄想にさいなまれ、地獄のような苦しみに襲われる。


「これが欲しいんでしょ、ママ……」


「ええ……」


 セレナの同意がないのに、ママは手を伸ばして薬を奪い取ろうとする。体が勝手に薬を求めて動くのだろう。

 セレナはひょいと薬を高く持ち上げる。


「だめっ! もっとセレナのことを愛してください! そうしたら、あげるから」


 セレナに言われると、ママはお預けを食らった犬のように、物欲しげに薬を見つめながら、セレナに訊ねる。


「どうしたらいいのでしょうか、セレナさま……」


「いつもの、お願い……、ねえ、いいでしょ、ママ……」


 セレナはお願いするように、ママを上目遣いで見つめてから、部屋のスイッチを常夜灯に切り替える。

 なお、灯りはすべて魔法で賄われている。


 


 セレナは唸り声のする方に目を向ける。


 部屋の隅には、鉄の折があり、そこにはうなりながらうごめく男の影があった。

 セレナのパパである。

 

「セレナぁ~、くすりぃ~~、くすりをくれよぉ~~、ぐあ~~っ」


 うめき声とともに、鉄の檻が、がしゃんと揺れる。

 きっと、禁断症状に耐えかねて、体や頭をあちこちにぶつけているのだろう。激しい痛みで、一瞬だけでも、薬の副作用からくる精神的苦痛からは逃れることができるからだ。

 ママとのお楽しみをじゃまされてはたまらない。

 セレナは、黙らせるために薬の入った小瓶を檻に向かって投げつける。

 それは、檻の中で割れて、中の液体が床に広がる。

 うめき声が止むと同時に、ぴちゃぴちゃと、なにかをなめる音がする。きっとパパが、はいつくばって、床の薬をなめとっているのだろう。

 うふふ、みじめな恰好ね。オークに売り飛ばした仕返しは、あとからたっぷりしてあげる……。


 セレナが薬師の聖女として成功したとき、両親は代わる代わるセレナに帰るように説得にやってきた。

 でも、セレナは応じず、逆に両親を自分だけのものにするために、薬により心を支配して、幽閉していたのだった。

 だから、リアナのもとには、帰ってこられるはずはなかったのだった。


 セレナそんな汚い犬は放っておいて、いそいそと愛しのママがいるベッドに向かう。

 セレナのママは若くて美しかった。それは、セレナの薬で若干若返らせていることもあったが、もともとからして、美人だった。


「さてと……」


 セレナはママをベッドに組み伏せると、ぺろりとしたを出す。

 そして、ママのにおいを体いっぱいに吸い込んで味わう。


「ああ……、くさいわ……、なんてくさいのかしら……」


「いやだ……、はずかしいわ……」


 セレナの漏らした感想に、ママは恥ずかしそうに顔をそむける。

 

「だめっ……、私をみて!」


 セレナはそれを許さず、ぐいと乱暴に正面を向かせる。


「これが、ほしかったんでしょ……」


 セレナは自分の唇を、ママの唇に押し付けた。そして、口に含んでいた薬をママの口腔内に流し込む。 

 ごくりと音がして、ママの細い首筋が波打つように動く。


 先ほどまで、薬を求めてぎらついていたママの瞳は、次第に輝きを失い、ぼんやりとした色で埋め尽くされた。

 薬が効いて、快楽が脳内を支配し、なにもかもどうでもよくなっているのだろう。

 口移しの過程で、セレナも少し薬を飲んでしまっていた。

 同じように、とろんとした目で、ママをじっと見つめる。


「ねえ、ママ、セレナさぁ、ママのいうこときいたよ、だから、愛して、ねえいっぱい、いっぱーい、リアナよりも、たくさん愛してくれなきゃいやなんだからねっ! やだやだ!」


 子供の頃にリアナばかりえこひいきされて、愛に飢えていたセレナは、今ここで、それを埋めるかのように、全身をふりふりさせながら、ママに縋りつく。

 

「セレナ……、愛してるわ……」


 ママの口が動き、その優しい声がそっとセレナの耳を撫でる。ママの手が自分の背中をそっと撫でている。セレナはその心地よさそう身も心もゆだねて目を閉じた。子供の頃に自分になりきっていた。


「リアナより、愛してる?」


「もちろんよ……」


 ママは薬のせいでとろんとした表情のまま答えた。それは薬を欲しがるための方便であり、愛しているのはセレナの作る薬なのであるが、それでも、セレナはうれしかった。ママが自分を求めてくれることが。


「セレナねえ、もうオトナになったんだよ! だから、もっと、愉しいことしよう!」


 セレナはうきうきしながら、そっとママのドレスを脱がし始めたのだった。



 

 楽しい時間はあっという間に過ぎていく、ベッドの中では、裸になったママとそしてセレナが横たわっていた。

 ママは薬が効いたおかげで、すやすやと安らかに寝息を立てている。

 もっとも、また24時間後には、またセレナの薬が欲しくてほしくて、胸をかきむしるほど苦しむのだろうけど。

 そしたら、また薬をあげよう。セックスと引き換えに。


 先ほどまでの楽しい時間の余韻に浸るように、セレナはぼんやりと天上を見つめていた。

 自分のママとセックスするなんて、変態にもほどがあると理性では思いつつも、セレナはしたくて仕方なかった。

 性欲というよりは、子供の頃愛してもらえなかったことにたいする、代償行為なのだろうと、セレナは自己弁護する。

 

 暗がりの向こうの檻では、パパの高いびきが聞こえてくる。

 

 セレナはそっとシーツをのけて起き上がると、裸のままで、檻に向かって歩み寄るのだった。


(つづく)


次回の更新は、金曜日の夜を予定していますが、ストックが順調にたまれば、早めに投稿することもあります。

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