表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/66

35.アリシアの心の傷に寄り添うセレナ

こんばんわ。今日も読んでくれて感謝です。

──500年前。スノーフィールドでの大惨事から、3日後のこと。




「セレナさま、此度(こたび)の巡業、お疲れさまでした」


 スノーフィールドでの散々な巡業から、馬車を飛ばして、やっとの思いでバスラ王宮へ帰ってきたのは、3日後のことだった。

 アレスが行方不明となり、途中の宿の手配もしておらず、野宿で過ごしたので、セレナは精神的に疲れていた。

 もっとも、セレナはそのことについて文句を言う気は一切ない。もとは平民の出であるセレナは、こういうことにはあまり頓着しなかった。


 それでも、マーガスは、いなくなってしまったアレスに罪を擦り付けようと、テーブルの向かいに腰かけているセレナに向かって、声高に主張し始めた。


「まったく、ろくに業務の引き継ぎもせず、突然行方不明になるなんて、人としてどうなのか……、前から気にくわなかったです。いつかやらかすと思っていた!」


 セレナの部屋には、マーガス以外に、他の事務官や関係者が大勢いた。マーガスにとって、今回の巡業の失敗をアレスに擦り付ける、絶好の舞台であった。

 

「セレナさま……、どうぞ……」


 マーガスの怒声を気に病んだのか、セレナに向かって、紅茶の盆を差し出すアリシアの顔は青ざめて、手が震えていた。

 そんなアリシアをかわいそう思い、セレナはつい反論してしまった。どうせマーガスが自責の念を抱くわけないと思いつつ。


「そのために、マーガスがついていたのではなくて?」


 自分に矛先が向けられて、マーガスはぎろりとセレナを見据える。そんな質問を自分に向けた、セレナに対する怒りで満ちていた。

 マーガスはここぞとばかりに饒舌に言い訳をする。自分は関係ない、無実だと声高に主張した。


「それはそうですが、ろくにひきつぎもなく、急にいなくなられは、どうしようもありません。無理なら無理で、事前に相談してもらえれば……。社会人として当たり前のことでしょう! 失踪する前に、どうしてひとこと私に相談してくれなかったのか、不思議でなりません!」


 マーガスは残念そうな表情を作るが、それは嘘だとアリシアは知っていた。

 今まで、どんなに助けを求めても、マーガスは手を差し伸べることはなく、「お前がなんとかしろ、そんな案件もってくるな!」の一言で片づけられていた。

 アリシアは唇をかみしめながら、涙をこらえるように、うつむいていた。

 アリシアの様子がおかしいことに気づいたセレナは、急いでマーガスを追っ払うことにした。

 

「もういいです、さがりなさい。主張したいことがあるのでしたら、あとから文書で提出してください」


「まったく、無能な部下を持つと苦労しますよ! とんな貧乏くじだ! これは、埋め合わせしてもらわないといけませんな!」


 マーガスは追っ払おうとするセレナに、横柄な態度で食い下がる。

 セレナは薬師の聖女でそれなりの地位はあるが、政治的な権力はあまりない。

 それで、マーガスは見下したような態度をとるのだった。


──まったく、私の薬であなたもメイドになってもらおうかしら……、でも、あんなごつくて性格の悪いメイドなんて、こっちから願いさげね……、そうだ……、なら私の犬にしちゃおうかな……。


 セレナは肩を怒らせて部屋を出ていくマーガスに向けて、想像を膨らませながら、愉し気な目線を向けて見送っていた。


「ごめんなさい……、こんなところで」


 セレナの側で、アリシアは両手で顔を抑えて、しくしく泣いていた。

 

 セレナは紅茶を一口含むと、そっとアリシアのあごに片手をあてて、キスをした。


「かわいそうなアリシア、いいのよ、心配しないで……、んっ……」


 今しがた口に含んだ紅茶を、アリシアへ口移しで含ませる。


「あっ……、セレナ……、さ……、んっ……」


 とろりとした瞳で、アリシアはこくんと紅茶を飲み干した。




 それから、雑務を済ませ、夕食を済ませ、入浴を終えたころには、もう夜の9時を回っていた。

 いつもなら寝る時間だけれど、今日のセレナはストレスが溜まっていた。

 

 スノーフィールドでの散々な巡業の結果に加えて、帰り道の野宿の疲れ、それに横柄な態度のマーガスへの怒りが、セレナを秘密の地下室へと向かわせた。


 自分の部屋の本棚の動かすと、そこにはなんの変哲もない壁がある。そっと手で押すと、それはくるりと回転して、地下へと続く階段が姿をあらわす。

 セレナはパタリと壁を閉じる。

 そして、階段をゆっくりと下っていく。


 お城の地下の、そのまた地下に、頑丈な鉄扉で封印された一室があった。

 この秘密の通路も、そして部屋も、セレナが兵士を薬であやつって作らせたものだ。

 もちろん、作った後には、ばっちり記憶を消す薬も飲ませているから、この秘密の部屋の存在をしっているのは、セレナだけ。

 


 

──そこには、セレナの、そしてリアナの両親が幽閉されていた。




(つづく)

ブックマークとても嬉しいです。ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ