30.サンダーバードで大雪原へ帰るエリザたち
こんばんわ。今日も読んでくれてありがとうございます。
「魔王様、ありがとうございます!」
ジョシュアの腕が振り下ろされる直線に、魔王が、わざと自分たちを衝撃破で吹き飛ばして助けてくれたことを理解していたエリザは、歩み寄ってくる魔王に、素直にお辞儀をした。
「ん? じゃまだったから、後ろにさがってもらっただけだが、おめでたいやつだ」
「もう! 素直じゃないんだから、魔王様は!」
エリザは魔王が助けてくれたのがうれしくて、思わず背中をたたく。魔王は怪訝そうな顔で、エリザを振りかえった。
「なんだ、死にたいのか? なら、望み通り……」
魔王が愉しそうに笑みをたたえて、手に黒い炎を燃え上がらせて、エリザに歩み寄ってくるのを見て、エリザは後ろに飛びのいた。
「ああっ……、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!」
両手を目の前で振ると、必死で魔王にあやまったのだった。
「あの、私も、ごめんなさい……」
エリザと魔王がいつものやりとりをしていると、リアナのかぼそい声が割り込んできた。
「復讐を果たせなくて……、せっかく、強力な剣も頂いたのに……」
暗黒剣ディルウイングは、今はその影も形もない。なぜなら、リアナの心の中に収納されているからである。
リアナが復讐を果たしたい相手を殺さない限り、リアナの心に棲み続ける。そして、リアナの生命力を少しずつ食らいながら。
「そんなことはいい、あの薬……、セレナの”超回復”はさすがの俺でも想定外だった。あれを無効にしなければ、セレナは殺せない。……お前はただ、復讐の炎を絶やさないようにしろ」
「はい!」
魔王の言葉に、リアナは背筋をピンと伸ばして返事をした。
そして、リアナは、小さく戻り真っ二つになったジョシュアのぬいぐるみにすがって泣いているセレナに歩み寄る。
リアナに気が付くと、セレナはその血まみれたの顔でキッとにらみつける。
その顔に、リアナの怒りがわいてくるが、今はいくら殺しても、生き返るだけ。だから、聞きたいことだけを訊ねるため、機械的に声をだした。それは、まったく抑揚のない、声だった。
「お父さんと、お母さんは、どこにどうしているの?」
セレナは立ち上がると、余裕を取り戻したかのような笑みをたたえながら、リアナを見つめる。
「前にもいわなかったっけ? 王都でやすらかに暮らしているわよ」
「バスラ王国の王宮にいるのね。わかった。あなたを殺して、両親を助けます」
「何言っているの? もう両親は、私の作った薬の依存症になっているの。私の薬がなければ、一日たりとも生きられないわ。それこそ、薬が切れたら発狂して、死ぬまで回りの人を殺し続けるか、自殺するかのどちらかしかないわ!」
「……、それでも、助けます。そして、私をオークに売り飛ばして、両親を薬漬けにした、あなたを殺します」
「何言ってるの? もとはといえば、私の両親が悪いんじゃなくて? 家族の幸せを願う私から、奪うだけ奪って、最後にはオークの慰み者にしたりして! どれだけ辛かったか、わかってるの? リアナ、あなたもそうよ!」
泣きながら訴えるセレナに、リアナは押し黙る。セレナの気持ちが、大人になった今の自分には、十分理解できたから。
「はあ……、うまそうだ……」
離れた場所から、リアナとセレナの様子を見ていた魔王が、口からよだれを垂らしてつぶやいた。
「えっ……、うまそうって……、もしかして? セレナのことをいっているのですか?」
魔王はエリザの質問には答えず、よだれをそっとハンカチで拭いていたのだった。
立ち去る間際に、リアナはセレナに微笑みかけた。
「また、会いましょう、セレナ」
「ええ……、王都で待っているわ。とびっきりの薬を用意してね……!」
セレナの呪詛の言葉を背中に浴びながら、リアナは前を向いて、歩いていった。
「う、う~ん……、あれ、こんなところで眠って……、ああ! 大聖堂がない! 一体何があったのだ! 魔物の襲来か?!」
セレナの眠り薬(眠る前の記憶抹消効能付き)の効き目が切れたマーガスが見たものは、瓦礫と化した大聖堂の成れの果てであった。
マーガスが目覚めると、町の人々も、次々を目を覚まし始める。
「うん……、めんどくさいことになる前に、立ち去るとしよう……」
魔王が手を上げると、バサッと羽を羽ばたかせて、サンダーバードが下りてきた。
「魔王の道までは行けそうにない、これで帰るとしよう、さあ乗れ」
いつも通り、魔王が先に乗ってしまう。エリザは、前にのって感電したことを思い出して、ついためらってしまう。
「どうした、早くしろ。町の奴らが目を覚ます、それとも自力で帰ってくるか? 七日七晩大雪原を歩き続けることになるが」
「でも、その……、痛いのは、いやです」
「我慢しろ」
魔王に無理やりひっぱりあげられて、エリザはサンダーバードの背中に着席する。なつかしの、あの感触が襲ってきた。
「う、うぎゃあぁあああぁあ!」
「そろそろ慣れてもいいことなのだが……」
魔王がのんきにつぶやいているのを聞きながら、エリザは不安そうに見上げているリアナと目が合う。
「ほ、ほら、魔王様、こんな電撃を食らうと、大切な獲物のリアナが死んでしまいますよ! う、ぐぎゃああぁああ!」
電撃でしびれるなか、やっとの思いでエリザが魔王に伝えると、魔王は納得したような表情で、サンダーバードの頭をポンとたたく。
すると、あれだけ激しかった電撃が、スッと収まった。
「これでだいじょうぶだ。さあ、獲物……、じゃなかった、リアナよ、乗るがいい」
「は、はい……」
リアナはためらいがちに、足をかける。もちろん、電撃に苦しむ様子はない。
ほどなくして、体を持ち上げると、エリザの隣にやってきた。
サンダーバードが飛び上がり、はるか上空で、大雪原の封印の間へ向かって飛行し始める。
落ち着いた来た頃に、エリザは気になっていたことを訪ねた。
「サンダーバードさん、電撃って、抑えることができたの?」
『はい、あまり長い間抑えるのは無理ですが』
「どうして、最初に乗ったときは、そうしてくれなかったの? 私とても苦しかったのよ?」
『あの私は抑えようかと思ったのですが……、それは、魔王さまが、そのままでいいと……』
サンダーバードの申し訳なさそうな声が、エリザの心の中で聞こえていた。
「魔王様っ……、どういうことですか?!」
エリザが問い詰めるように魔王を見ても、魔王は涼しい顔で前を向いていた。
「ふふっ、お前を鍛えてやろうとおもってな、親心だ、感謝しろ……」
「そんな親心はいりません!」
エリザの悲痛な訴えが、遥か遠くの空にこだましていた。
(つづく)
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次回更新は未定です。一週間を目途に再開します。(書き溜めがなくなってしまいました、すみません)
どうか、いましばらくお待ちください。




