表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/66

29.熊を切り刻む魔王

読んでくれてありがとうございます。

「さあ、ジョシュア、リアナごと踏みつぶして!」


 ジョシュアの肩にのったセレナが叫ぶように指示を出すと、ジョシュアが、口から炎を吐いたままで、ゆっくりと足を持ち上げて、その影がエリザ達を覆う。


 逃げようにも、一瞬でも気を抜けば、炎に包まれる。じっと耐えていれば、踏みつぶされる。


──完全に、詰んだわ……。


 エリザは両腕のしびれに耐えながら、すぐ後ろで腰を抜かしていたリアナを振り返る。


「リアナさん、あなただけでも逃げて」


 でも、リアナは逃げるどころか、エリザの背中に後ろから抱き着いた。


「ありがとう……、昨日の夜は、とても楽しかった」


「リアナさん……」


──魔王様、助けてください!


 エリザが心の中で叫ぶと同時に、ジョシュアの足た無慈悲に振り下ろされた。


 


「闇魔法、暗黒特異点(ブラックホール)


「えっ……」

 

 死んだと思っていたエリザは、いつもの魔王の落ち着いた声で我に返る。


 おそるおそる顔を上げると、エリザのすぐ頭上まで迫っていたジョシュアの足が、ふるえながら静止していた。


 隣を見ると、魔王が、人差し指一本で、ドアほどの大きさのあるジョシュアの足を、止めていた。


 そして、ジョシュアに向かてかざした右手のひらには、炎が吸い込まれていく。

 そう、何でも吸収する、魔王お得意の闇魔法、暗黒特異点(ブラックホール)


「魔王様、どうしてこんなになるまで、助けに来てくれなかったんですか?」


 魔王が来てくれたという安堵から、これまで我慢してきた不安が一気にあふれてきて、エリザは魔王に涙ながらに叫ぶ。


「ん? お前が俺を呼ばなかったからだが」


 ケロリとして答える魔王に、エリザはますます怒りがわいてくる。


「でも、見ていたら、ピンチだって、わかるはずです!」


「だから、今こうしてきたではないか、何を怒っているのだ?」


 魔王みたいに絶対的な存在にとっては、誰かに助けを求めたい、という気持ちはわからないのだろう。


 魔王がひょいと腕を上げると、片足を上げていたジョシュアはバランスを崩し、大聖堂を背中で破壊しながら、倒れた。 


 しかし、すぐにむくりと立ち上がり、いましがたやってきた魔王を、その赤い瞳でじろりとにらみつける。

 

「あら、いらっしゃい、私の薬で眠らないなんて、たいしたものね」


肩にちょこんと座ったセレナは、遥か下の地面に立っている魔王に向かって、感心したように手をたたく。


「ふん……、500年も眠っていたんでな、睡眠は十分さ」


「私、あなたのこと知っているわ。夢のなかで、創造神様が教えてくれた。その姿、その顔、500年前に封印された、魔王様でしょ。魔王様が人助けなんかしてていいのかしら?」


「人助けではない、俺の獲物(リアナ)を取り返しに来ただけだ」


「ふふっ、物は言いようね。魔王の癖に、そんなことばかりしていると、また創造神にペナルティを下されるかもしれませんよ」


「本当のことを言っただけだが、とりあえず前菜にその熊を頂くとしよう」


「あらあら~、私のかわいいジョシュアちゃんは、ずっと一緒だよ、誰も渡さないよ!」


 セレナが立ち上がり、耳元でジョシュアにささやくと、ジョシュアの目がカッと開いて、魔王をとらえる。

 そして、その右手が、巨体に見合わないほどの、ものすごい速さで振り下ろされた


 すぐ後に、隕石が落ちたかのように、大地は激しく震え、その爆風でエリザとリアナは後方へ吹き飛ばされ、広場の壁に激突する。


 ジョシュアの腕が振り下ろされる、その一瞬の間で、魔王は後ろに向けた手のひらから、エリザたちに向けて激しい衝撃破を放っていた。

 おかげで、エリザたちは、ジョシュアの足を回避することができたが、魔王は直撃を食らってしまった。


「魔王は死にました~~、これで世界の平和は保たれた! ばんざーい!」


 ジョシュアの肩に座りながら、セレナは両手を上げて空を仰ぐ。



 

 エリザは、不安そうにその様子を見守っていた。もし、魔王が死んでしまったら、これからどうやって生きていけばいいのだろう、と不安になっていた。


「そうか、魔王は死んだのか。おめでとう……、どこの世界の魔王か知らないが……」


「は?」


 セレナが間の抜けた表情で正面に向き直ると、魔王が挨拶するように片手を上げてこちらに笑顔を見せていた。

 大聖堂前の広場には、巨大なクレーターが出現していた。


「あんたどうやってあの攻撃から……、ものすごい速さだったのに……」


「そう、人間には俺は殺せない。セレナよ、あきらめて熊を渡せ」


「いやよ……、ジョシュアちゃんは、私のたった一人の友達なんだから」


 セレナはジョシュアの顔を両手いっぱいに抱きしめて、自分の顔をうずめる。

 魔王はそれを見て、やれやれというように、ため息をついた。


「なら、仕方ない……、まあ、お前は多少荒っぽくしても、死なないみたいだから、いいか」


 魔王はそうつぶやき、右手に力を込める。


「闇魔法、重力剣(グラビティーソード)


 ヴンッと音がしたが、魔王の右手には、何もない。いや、セレナがよく目を凝らすと、そこだけ空間がねじ曲がったかのように、透明な剣があるようだった。

 それは長身の魔王の背丈ほどの長さがある。


「俺はお腹が空いてるんだ。熊よ、お前はオードブルとして、頂くとしよう」


 魔王はジョシュアの目の前で、重力剣を構える。なにかを仕掛けようとしているのが、セレナにはわかった。


「ジョシュアちゃん!」


 セレナが叫ぶと、ジョシュアは口を大きく開けて、炎を吐き出す。

 リアナによって暖炉にくべられた憎しみと悲しみが込められた、熱く、そして冷たい炎を。


「重力剣、時空破断ディメンションカッター


 燃え盛る炎の中から、魔王がつぶやきがセレナの耳に聞こえてきた。

 そして、魔王は炎に包まれたままで、右手を大きく振り上げ、そして一気に振り下ろす。


 一瞬、時間が静止したかのような静寂のあと、ジョシュアの咆哮が、遥か遠くの山にこだまする。


「グゴアアァアアァアアァアァアアアアア!!!!!」


 頭のてっぺんから、股の間まで、真っ二つに一刀両断されて、半分になったジョシュアは、血を噴き出しながら、左右均等に倒れた。


「きゃああぁあああああ!」


 同時にセレナも地面に放り出される。ジョシュアの肩の高さから落ちたら、普通の人間は助からないが、今日のセレナは、不死身の薬を飲んでいるので助かった。

 でも、痛いものは痛い。


 ジョシュアが死に、そこに込められていた憎しみが解放されていくのを、魔王は見逃さなかった。

 ジョシュアの死体から発せられている黒い霧を、両手を広げて、深呼吸するように、思い切り口から吸いこんでいく。

 そう、魔王の食事であった。


「ああ、悲しみと憎しみが絶妙な割合でブレンドされている。なかなかの味だ、セレナよ、感謝するぞ……」


 魔王は食べ終えると、下をなめながら、透明な剣を右手にぶらされて、地面にへたり込んでいるセレナに迫る。

 さすがのセレナもおびえていた。今度は自分が殺されるのではと。


「心配するな、お前はメインディッシュだ。まだ、生かしておいてやる……」


 魔王は、がたがたと震えているセレナにむかって、そうつぶやくと、踵を返して、エリザのもとへ歩いていったのだった。


(つづく)

本日、あと1回更新の予定です。よろしくお願いいたします。

ポイントやブックマークをしていただけると、励みになります。もしよかったら、気の向いたときで結構なので、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ