23.リアナと一緒に寝るエリザ
おはようございます。読んでくれてありがとうございます。
「エリザさん、今日はよくしてくれてありがとう。人生最後の日に、こんなにもいいことがあるなんて、思いもよらなかった」
リアナは目を潤ませながら、エリザの頬にキスしてきた。
予想外の出来事に、エリザはおもわず、ひゃあっ、と声を上げてしまう。そして、顔がほてってくるのがわかった。
「どうしたの? 嫌だった? ほんの感謝の気持ちだったんだけど…」
「そ、そんなこと、ないですよ……」
枕の上で、エリザは首を振る。不安で曇っていたリアナの表情は、ぱあっと明るくなる。
「よかったぁ」
リアナは首に手を回して、改めてエリザを抱きしめてきた。
「いい匂い……」
リアナはうめくようにつぶやくと、エリザの頭を抱え込むようにして、すんすんと匂いを嗅いでいた。
「そんな、リアナさんも、きれいな髪で、とてもいい匂いがします」
リアナから漂う、清潔な香りに、エリザも次第にうっとりとした気持ちになる。
エリザは自分自身のことを、ノーマルだと思っている。でも、人間だった頃は7才までしか生きられず、そして、魔王のメイドになってからの500年間は、魔王以外の異性とも、同性とも会わずに過ごしていた。
だから、エリザの心の中で、新たな嗜好が発見されたとしても、それほどおかしなことではない。
──もしかして、私ったら、女の子が好きなのかな……。いや、女の子も、かな……。魔王のことも、嫌いじゃないし……。
とりあえず、今はリアナの望み通りにしてあげよう。
しばらくの間、エリザはリアナにされるがままに、その身を預けた。
「あ……、あっ……、エリザぁ……、好き……、だいすき……」
リアナは、心からの声が抑えきれず、その口からあふれ出ているようだった。
「私も好きだよ……、リアナ……」
そしてエリザは、リアナの頬に手を触れると、今度は自分から、リアナの唇に自分のそれを押しあてたのだった。
しばらくそうしていたので、気が済んだのだろう。リアナはエリザの体からそっと手を放して、隣であおむけになった。
エリザも、まだ高鳴っている自身の胸に手を当てていた。鼓動は次第に収まりつつあった。
落ち着きを取り戻したエリザは、リアナにある提案をすることにした。
「ねえ、リアナさん……」
エリザは、隣で余韻に浸るかのように目を閉じているリアナに、顔を向けた。
「ん?」
けだるいリアナの声が、くらい部屋に、浮かんで消えた。
「復讐を終えたら、リアナさんは死刑にされちゃうんだよね」
「そうだけど……、むしろそれでいいかなって思うの」
「どうして?」
「だって、これから先、生きていてもしかたないでしょ…」
すべてをあきらめたような、さっぱりとしたリアナの様子が、エリザには悲しくなる。
クレリアさんが生きていることを伝えようと思ったが、どこで魔王が聞いているかわかったものじゃない。
そう思い、エリザはぐっと言葉を飲み込んだ。
「もしよかったら、私の家で一緒に暮らさない?」
「ええっ?! でも、無事セレナを殺せたとしても、私は一生お尋ね者で、全世界で指名手配されるんだよ。エリザに迷惑はかけたくないよ」
「それが、私の家は、とってもいいところにあるの、そう…、普通の人間なら、まずたどり着けない場所! だから、全然迷惑じゃないよ!」
エリザがいう家とは、もちろん大雪原の地下深くの封印の間のことである。
そこには、クレリアもいる。きっと、リアナもびっくりして大喜びするに違いない。
復讐を遂げたあと、サッと身を隠して、悪魔の道でこのスノーフィールドの町を脱出する。そして、魔王はきっと、リアナの心を食べさえすれば、リアナを解放してくれるに違いない。
魔王の食事を邪魔しない限り、リアナの扱いは、エリザに一任してくれるに違いない。
「なら……、お願いして、いいかな?」
リアナは遠慮がちに、エリザにうなずく。
その儚くて不安そうな表情を見て、エリザは自分の気持ちが奮い立つのを感じた。リアナをきっと守って見せる。明日は、リアナも連れて、封印の間へ帰るんだ。
「わかった。だから、明日はきっと、生きて帰ろうね!」
エリザはリアナの手を取ると、ギュッと握りしめて、リアナに笑顔を見せるのだった。
(つづく)
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