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18.お家を破壊され泣き叫ぶリアナ

おはようございます。今日も読んでくれてありがとうございます。

「お部屋をリフォームしましょう!」


 落ち着きを取り戻して、いつものあばら家へ戻ろうとしたリアナの背中に、エリザは楽しそうに呼びかけた。


「リフォーム? それって、どういうこと?」


「お家を、きれいで便利に作りかえることです」


「このあばら屋を? 一体、どうやって?」


 いぶかしそうなリアナに、エリザは胸を張って答える。


「まかせてください」


 クレリアを殺してしまったことへのお詫びと、そして、日々の生活を幸せにすることで、リアナの復讐心が少しでも薄らぐことを、エリザは願いながら、両手をあばら屋へ広げて、魔力を込める。


 土に住まう大地の聖霊よ、どうか私たちに快適な住居をお与えください…。


「土魔法、快適な家をあなたへ(ハウスメーカー)!」


 エリザがそう叫ぶと、地面が激しく振動し始める。

 そして、両手にずしりと重みが加わる。エリザは目を閉じて、指をこまやかに動かし続ける。

 そのたびに、地面が振動して、リアナはふらふらとへたり込んでしまった。


 そして、度重なる振動で、あばら屋はがらがらと音を立てて崩壊した。


「わ、わたしの家がぁ~、もうやめてえ~! これでもないよりはずっと、ましなんだからぁああぁあああ!!」


 後ろからリアナに両肩をわしづかみにされて、エリザは激しく揺さぶられる。

 それでも、エリザは涼しい顔で、振り返る。

 

「だいじょうぶ、さ、できたわよ、行きましょう」


「私の家を壊すなんて、やっぱりあなたは、悪魔なのね……」


 リアナの涙ながらのつぶやきに、エリザはだいじょうぶだから、と苦笑いを返すしかなかった。





 倒壊してしまったあばら屋の残骸をどけると、そこには一枚のマンホールがあった。


「よいしょっと…、ついてきて、リアナさん」


 エリザがそれをどけると、ぽっかりと地下へ続く穴が開いていた。そして、中を降りていくと、そこには、広いリビングが広がっていた。

 魔法の照明のおかげで明るく照らし出された室内には、岩石を削り出して作った、つやつやのテーブルに椅子。そして、暖炉には温かい火が揺れていた。


「わあ~、なにこれ、すごいね、エリザがやったの?」


「はい、土魔法で、土を切り取り、余ったものについては、圧縮して家具やベッドの材料にしました」


 リアナは楽しそうに、できたばかりの部屋を見回す。そして、リビングの奥にある部屋からは、リアナの陽気な声が聞こえてきた。

 そこは、バスルームである。もちろん、エリザの水魔法がかかっている蛇口があるので、お湯だって使える。


「すごい、お風呂もあるんだね」


 ホームレスになってから、お風呂なんて、汚い川の水浴びしかできなかったのだろうか、リアナの目は輝いていた。

 エリザはリアナの側に近寄り、穏やかに笑う。


「はい、食事の準備をしますから、お風呂にでも入ってお待ちください」


 でも、振りかったリアナの表情は、曇っていた。


「でも、いいの…? 見てわかると思うけど、私、お金ないよ…」


「お金はいりません。私の仕事はメイドですから。ご主人様を幸せにできるのが、私の幸せなんです」


「エリザのご主人さまは、さっきの変態男じゃないの?」


「あれはもうクソ以下の存在です。クソ魔王です。今のご主人様は、あなたです、リアナさん」


 エリザがきっぱりと言い切ると、リアナは堪え切れないといった様子で、お腹を抱えて笑い出した。


「あはは…、エリザみたいにかわいい顔で、そんな毒を吐かれると、面白くて…。なんか、私たち気が合いそうだね」


「もちろんです!」


 リアナが笑ってくれたのがうれしくて、エリザは力を込めて、うなずいた。




 暖かいお風呂のあとには、温かい料理が必要だ。

 でも、エリザといえども、さすがに魔法で食材を生成することはできない。せいぜい、水と土の複合魔法である「植物工場(プラントファクトリー)」で、何種類かの野菜や根菜類を栽培できるくらいだった。

 上位魔法の「生物工場(バイオプラント)」というのがあるようだが、火属性と光属性が苦手なエリザには使えない。

 

 だから、どこかで材料を調達する必要がる。しかし、もう夜である。市場は当然閉まっているし、空いていたとしても、お金がない。まあ、お金は土魔法で、土塊を金貨に見せることができるのだけど、あまり人をだましたくはなかった。

 そこでエリザは、クソ野郎の顔は見たくもないと思いつつも、仕方なく、大雪原の封印の洞窟へ、材料を取りに戻ることにしたのだった。


 幸い、先ほどクソ野郎がつくったばかりの魔王の道(デビルロード)が家をでた、すぐ側の橋の下にあるはずだ。

 エリザは、お風呂から聞こえてくる、リアナの楽しそうな鼻歌に耳を澄ませながら、はしごを上っていった。




 魔王の道(デビルロード)をくぐると、そこは封印の間であった。

 ちらりと玉座を見ると、そこに魔王の姿はない。ホッとエリザは胸をなでおろす。なるべくなら、今は会いたくない。

 なぜなら、エリザは今、リアナの復讐を止めさせるために、全力を尽くしているからだった。

 立派な家、快適なお風呂、そしておいしい食事、これらを与えることで、幸せを感じたリアナの復讐心が薄らぐことを願っていた。

 しかし、復讐をさせたいクソ魔王にこのことが知れたら、きっと邪魔をされる。そればかりならいざしらず、反逆として、あのならず者たちのように、切り刻まれるかもしれないのだ。

 エリザは、500年という長い間お世話をしていく中で、少しはクソ魔王を愛していたが、さきほどのクレリアへの残虐な行いを目の当たりにして、すっかり魔王を見損なっていたのだった。


 


 封印の間を出ると、500年間歩きなれた、薄暗い廊下を、キッチンに向かって歩いていく。

 ふと、キッチンのある部屋から、灯りが漏れているのに気付いた。

 もしかして、お腹を空かしたクソ魔王が、クレリアを料理しているのかと、エリザの胸に不安がよぎる。

 入口に隠れるようにして、高鳴る胸を抑える。そして中の様子に耳をすませると、鍋がぐつぐつ煮える音が聞こえて、おいしそうな匂いが漂ってくる。

 だいじょうぶ、これは人間の血肉のにおいではない。


 エリザがキッチンに足を踏み入れると、足音に気が付いたのか、白いローブを着た女性が手元の鍋をかき回しながら、こちらを見た。

 その穏やかな笑顔の女性をと目があったエリザは、思わず言葉を失った。


「クレリアさん、生きていたの?」


 動揺しているエリザとは対照的に、クレリアは天使のような微笑みを浮かべて、ゆっくりと、エリザにうなずいたのだった。


(つづく)

次回更新予定は、12時頃と、18時頃を予定しています。

火曜日からは、毎日1話ずつの投稿になります。

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