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16.魔王と殺されたクレリア

こんにちは。読んでくれてありがとうございます。

 クレリアは、エリザのヒーリングで、ひとまず落ち着きをとりもどした。

 でも、エリザのヒーリングでは、根本的な治療にはならない。

 数時間おきにヒーリングをかけ続けなければ、すぐに死んでしまうほど、容態は悪化していた。

 

 魔王曰く、「俺が食事を終えたら、あとは野となれ山となれ」なのだという。

 でも、エリザは魔王のように、割り切れる自信はなかった。


 いつか、セレナの治療薬を、届けてあげようと心に誓った。

 でも、リアナが復讐を遂げることで、”薬師の聖女”であるセレナが死ねば、治療薬は二度と生み出されなくなる。

 天啓の才能”薬師”を持つ者が生まれるまで待たなければならない。そして、その才能を持った者が生まれるのは、100年に1人あるかどうかであった。


 クレリアを救い、そして、リアナの復讐を遂げるには、どうしたらいいのか、エリザは考え続けていた。




 リアナのあばら屋に戻ると、エリザの頭のなかに、魔王からのメッセージが飛んできた。


(おい、セレナへの復讐を手伝うと申し出るんだ)

 

 心の中で、エリザは魔王から促される。魔王によれば、リアナが今回の獲物らしい。

 そして、魔王の食事のためには、リアナの復讐を遂げさせてあげる必要がある。

 でも、どうやって切り出したらいいのだろう。

 それに、リアナはいま、復讐よりも、クレリアのことで頭がいっぱいの様子だ。


「お前は、聖女セレナを殺したくて仕方ないのだろう」


 エリザがためらっていると、魔王が単刀直入に、リアナに訊ねる。


「ま、魔王さまっ…」

 

 エリザはあわてて魔王の口をふさごうとする。

 リアナは一瞬目を大きく見開いたが、やがてこっくりとうなずいた。


「そうよ。誰にもいってなかったけど、よくわかったわね」


「先ほど、お前の頭をのぞかせてもらった。経緯はすべて把握した」


 魔王の言葉に、リアナはすべてをあきらめたように告白する。


「明日の、創造神の生誕祭に、聖女セレナがこのスノーフィールドの町に巡業にやってくるの。そこを、襲う計画なの」


「お前ひとりでだいじょうぶなのか? 行列には、護衛の騎士がたくさんついているのだろう。よかったら協力するが、どうだ?」


 魔王のささやきに、リアナの顔がパッと輝いた。


「本当ですか? 心強いです! あなたはは、なんだか不思議な力を持っているみたいだし」


「…こいつがな」


 いつの間にか後ろに立っていた魔王に、エリザは頭をわしづかみにされる。


「えっ? ええ~っ!」


 エリザはびっくりして大声を出してしまって、あわてて口をつぐんだ。元はか弱い人間の少女なのである。箸より重たいものなんて、持ったことがないのだ。


「私、攻撃魔法なんて、ほとんど知らないんですけど…、騎士様と戦うなんて…そんな」


 エリザは俯き加減に、自信なさそうにつぶやいた。


「俺が出ると、町ごとぶっ壊してしまうのだ。がんばれエリザ」


 魔王の陽気な声とともに、エリザは肩をポンと叩かれた。

 目の前には、いい返事を待っているリアナが、期待に目を輝かせて、エリザを見つめている。

 こうなると、ひとのいいエリザは、断われなかった。


「わかりました。でも、ピンチになったら、助けてくださいね」


 エリザはそう、魔王にくぎを刺したのだった。


「それにしても、記憶を覗くなんて、あなた達、何者なの? でも、話す手間が省けたからいいけど」


 リアナは私をじっと見て、笑う。


 そして、床一面に、鉛筆で書かれた、大通りの地図が敷かれた。

 道には赤い線でルートが示されている。エリザはなんとなく、その赤い線を指でたどる。

 町の入り口からたどっていくと、町を練り歩くルートを経由して、エリザの指先は、最終的には、中心の大聖堂にたどりついた。


「この場所で、セレナを殺すの!」


 リアナは持っていた赤鉛筆をぐさりと地図の一点に刺した。

 

 そこは、建物が密集した、狭い路地裏の一角。隠れる場所も多く、また道も細くなっていて、護衛の騎士も縦に長く広がり、セレナへの護衛が手薄になると、リアナは思っているようだ。


「悪くないんじゃない、ねえ魔王」


 作戦としては、この場所以外にはないように思い、エリザは確認するように、魔王をみやる。

 魔王は地図を手に取り一瞥すると、鋭い目でリアナを見る。


「リアナよ、本当にこれでいいのか?」


「えっ…?」


 魔王の問いかけに、リアナは意味がわからず戸惑っている。


「こんな路地裏で、コソコソ暗殺するみたいにセレナを殺して、お前の気が本当に晴れるのかと聞いているんだ」


 中途半端な復讐では、魔王を満足させるだけのものを生み出せない。

 感情が激しく揺さぶられる、心のやり取りが、獲物をさらにおいしくする、と大通りを歩きながら魔王が言っていたことを、エリザは思い出す。


「それは…、でも、失敗したら、元も子もないじゃない。成功しても、失敗しても、結局私は死刑になるのだから、チャンスは一度きりなの」


「お前に相応しい舞台は、ここだ」


 リアナは魔王が突き刺した赤鉛筆の先をみて、驚いた。それは大聖堂であった。


「こんなところ、まるで公開処刑してくださいって、いっているようなものじゃない!」


「そうだ。リアナよ、お前がセレナを公開処刑してやるのだ。万人が注目し、そして創造神が見下す面前である大聖堂。復讐には最高のステージと思わないか?」


「そんなこといっても、そんな広い場所だと、護衛の騎士たちや弓兵から一斉に襲われて、とてもセレナまでたどり着けないですよ」


 横で聞いていたエリザは、身を乗り出して魔王に意見した。


「それをなんとかしてやるのがお前の役目なのだぞ、エリザよ」


「また、私ですか?」


 魔王に指摘され、エリザは思わず自分を指さした。


「そうだ。騎士たちを足止めして、リアナの前に、セレナへと続く道をこじ開けてやるんだ。どうやるかは、自分で考えろ」


 魔王はゆらりと立ち上がると、部屋を出ていく。エリザはあわてて、魔王の背中に呼びかける。


「どこへ行かれるのですか?」


「ふふ、仕上げの味付けさ」


 魔王は意味深な笑みを残して、部屋を出て行った。




 

「ぎゃあぁああぁあ!」


 しばらくして、闇を切り裂くような女性の悲鳴が聞こえて、エリザ達は、家を飛び出した。

 外に出ると、闇のなかで、地面に血だまりができている。そしてそこには、魔王が立っていた。

 

 暗闇の中から、ぼんやりと浮かび上ってきたのは、血の気がない、クレリアの真っ白な顔。

 口から血を垂らし、胸元からは、魔王の黒い手にわしずかみにされた心臓が飛び出していながらも、未だ拍動を続けていた。


「魔王様、なんてことを…」


 一瞬でも、優しいところもあるなんて思った自分が、浅はかだったとエリザは後悔する。

 やはり、魔王は魔王でしかないのだ。

 欲望のためには、息を吸うように、人を殺すのだ。魔王にとって、役に立たなくなれば、自分のああいう風に始末されるに違いないと思い、エリザは震えた。

 魔王はクレリアの死体をリアナに見せつけながら、愉しそうに口角を吊り上げる。


「リアナよ、クレリアは命を終えた。もうこの世界にお前の居場所どこにもない。思う存分、復讐に専念するがいい…」


(つづく)

次回更新は、今日の夕方6時頃を予定しています。

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