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14.魔王と洗濯されるリアナ

こんばんわ。今日も読んでくれてありがとうございます。

「だいじょうぶですか?」


 エリザは倒れている少女を抱き起こして、声をかける。

 少女の眉毛がぴくりと動き、やがてゆっくりとひらいた瞳と目があった。


「あ、あの…、私、自警団に襲われて、それで…」


「とりあえず、お家に帰りましょう。案内してくれる?」


 不安にさせないようにと、エリザはやさしい微笑みを少女に向けた。

 魔王はというと、橋にもたれて、退屈そうにあくびをしている。


 獲物を懐柔するのは、人間の心の機微が全く理解できない魔王ではなく、自分の役目だと、エリザは自覚していた。

 そのために魔王は自分をお供につれてきたのだということも、わかっていた。


 次第に意識を取り戻したのか、少女は地面に両手をついて、立ち上がると、エリザをにらみつけた。

 それは、誰も信じないという、強い決意に満ちた、冷たい瞳だった。


「ひとりで帰れます…」


 ふらふらになりながら立ち上がった少女は、乱暴にエリザの手を振り払う。

 

「そんなこと言わないで、一緒に行かせて。それに、今夜は寒いよ、そんな体だと、野垂れ死にしちゃうよ」


 エリザは、必死で少女を引き留める。

 というのは、魔王がエリザの心の中に、話しかけていたからだった。


──さあ、エリザよ、獲物を確保しろ。しくじったら、さっきの奴らと同じ運命をたどることになるぞ…。


 復活を遂げた魔王にとって、もうお世話係であるエリザは必要ないはず。

 だから、魔王の言っていることが、あながち冗談とも思えなかった。


「水魔法、ヒーリング!」


 エリザがつぶやくと、少女にかざしていた手がぼんやりと黄色く光る。

 少女は、きょとんとしてその様子を見つめていたが、しばらくして、おどろきの表情を浮かべた。

 体の傷をいやす、ヒーリングの効き目を体感したに違いない。

 

「ね、痛みが消えたでしょう」


 エリザが微笑むと、少女は仕方なさそうに、うなずく。

 それを見て、さらにエリザはたたみかける。


「水魔法、クリーニング!」


 今度は、人差し指で、少女をくるりと指さして、エリザは唱える。

 地面に円形の魔法陣が光り輝き、そして少女は、エリザが作り出した円筒形の空間に満たされた水のなかで、回転していた。


「いやあぁああぁああ!」


 それが消えると、今度は魔法陣から熱風が吹きあがり、びしょ濡れの少女を乾かしていく。

 ちょっと乱暴だけど、こびりついたがんこな汚れを落とすには、この魔法が一番なのだ。


 一連の作業が終わると、少女が着ていたドレスはまるで新品に戻ったかのような、鮮やかな青色を取り戻していた。

 エリザは櫛を取り出すと、仕上げに少女のぼさぼさ頭を整える。エリザが人撫でするごとに、少女の髪がつやを取り戻していく。


「はい、鏡」


 エリザは少女に手鏡を手渡した。


「これが、わたし…」


 頬に手をあててぽかんとする少女は、すっかりきれいになっていた。


「ありがとう。あなたすごいんだね。魔法が使えるんだ。いいところの貴族のメイドさんなの?」


 質問されて、どう答えるべきか迷ったエリザは、魔王を振り返る。

 しかし、魔王はエリザと目が合うと、わざとらしくそらしてきた。

 こういう世俗の常識には、魔王はうといのだった。


「まあ、そんなところかな…」


「魔法が使えるなら、ぜひ一緒に来て欲しいのだけど…。あ、自己紹介がまだだったね。私はリアナ。この町でホームレスをしてるんだけど…」


 今までの冷たい態度を悪いと思ったのか、少女はもじもじと遠慮がちにお願いしてきた。

 

「いいわよ、私はエリザっていうの。どうぞよろしく」


 エリザは両手を広げて、スカートを持ち上げてから、うやうやしくリアナにお辞儀したのだった。


 

 

 リアナに連れてこられたのは、橋のたもとのあばら屋だった。


「遠慮しないで入って」


 リアナに促されて、エリザは身をかがめて入口をくぐる。あまり大きくないエリザさえ窮屈なのだから、背が高い魔王は、もっと大変そうだ。

 案の定、めんどくさそうな顔でついてくる。そんな魔王を見て、エリザは内心いい気味だと思った。おいしい食事のためには仕方ないですよね、魔王さま。


「クレリアさん、セレナの治療薬持ってきたんだ!」


 リアナは青いドレスの胸元から、ガラスの小瓶を取り出すと、嬉しそうにクレリアと呼ばれた女性にそれを見せた。


「そんな高い物、いったいどうして? まさか…」


「ううん、この人たちに買ってもらったんだ、ね」


 突然予定外の話を振られて、エリザは戸惑ってしまうが、代わりに魔王がさらりとウソをつく。


「はい、困っているときはお互いさまですからね!」


 魔王のキラキラした笑顔を、エリザは横目でじろりとにらむ。一見すると、イケメンの好青年だから、困ったものだ。

 それにしても、リアナの側で寝ている、クレリアという人は、病気のようだ。

 たしかに、熱で目が潤み、顔が赤く、苦しそうに肩で息をしている。


 リアナは待ちきれない様子で、小瓶の封印を解いて、コルク栓を開く。

 すると、エメラルドブルーにきらめいていた液体が、みるみるうちにどす黒い血のような色に変化した。

 続いて、悪臭が部屋に満ちる。どう見ても、薬とは思えない色と臭いだ。


「なにこれ、どういうこと…?」


 泣きそうなリアナの声が、狭い部屋に聞こえていた。


(つづく)

ブックマークありがとうございました! とても嬉しいです。そして、期待に応えるよう頑張りたいと思います。

次回更新予定は、1月10日(日)を予定しています。


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