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13.魔王と半グレ自警団

こんにちは。読んでくれてありがとうございます。

「おしおきだぁ? なんか勘違いしてねえか、このドブネズミがセレナ様の薬を盗みやがったから、俺らの方が、おしおきしてるんだよお? 被害者は、俺たちなんだよう?」


 男性の一方が、肩をいからせ、眉間にしわを寄せながら、エリザにせまってきた。

 真冬だというのに、筋肉ではちきれんばかりの、半袖シャツを着ていた。


「俺らはこの地域の”自警団”なんだよ。悪事を働いた奴には、罰が必要だろう?」


 もう一方の、狡猾そうな茶色のジャケットを着た男性が、半袖シャツの隣に立つ。

 足の震えが止まらないエリザだったが、後ろで倒れている少女を見て、怒りと悲しみがわいてくるのがわかった。


「やったことに比べて、罰がひどすぎます! それに、罰を与えるのは、あなた方の仕事ではないはずです」


 きっと、”自警団”とは名ばかりの、ごろつきの集団に違いない。

 人を見た目で判断するのはよくないけれど、この二人は、顔つきや、体の傷からして、エリザが人間だった頃に、たびたび村を襲った、ならずもの達と同類に違いない。

 罰と称して、つかまえた人に過剰に暴行を加えているのだ。ついでに、金品も奪っているに違いない。

 それが、正義の名のもとに行われているのだから、余計に始末が悪い。


「うるせえなぁ~、ああ~っ、めんどくせえ、お前くせえよ?」


「こいつにも、”罰”が必要だな~、やりすぎちゃって殺しちゃうかもしれないけど、それはいたましい事故な!」


 半袖シャツの男性が半笑いで殴りかかってきたので、エリザはとっさに土魔法を発動させた。


「アースシールド!」


 エリザの前に、土壁が出現し、次の瞬間、半袖シャツの破壊力のある拳と衝突して、激しい金属音が鳴り響く。


「いっでええええええ!」


 思わぬ壁の出現に、半袖シャツが血まみれになった拳をかばうように、もう一方の手で包み込む。


「ちっ、こいつ、魔法が使えるのか。見た目が幼かったから油断した」


 茶色ジャケットの男が、倒れている少女の下へ戻る。そして、少女を胸の高さまで引きずりあげると、その白い首に、ナイフを突きつけた。


「おらぁ! こいつが死んでもいいのかよ! わかったら俺たちの仕事の邪魔するんじゃねえ! 部外者はとっとと失せろ!」


 茶色のジャケットの男は、エリザをにらみつけて叫ぶ。少女は、助けを求めることもなく、ぐったりと目を閉じていた。

 ぼさぼさの髪に、青あざだらけの血まみれの顔が痛々しい。


 それを見て、エリザは怒りがわいてきた。

 こいつを殺したって、神様はお許しくださるに違いない。

 悪魔になろうと、エリザは決意した。

 

──大気にたゆとう水の精霊、そして土の精霊よ、私の願いを聞き届けてください。そして、私の願うものをお授けください。


「アースリフリジレ… !」


 魔法を発動して、永久凍土の剣を生成しようとしたとき、魔王の冷たい手が、肩に置かれたので、エリザは、あわてて魔法をひっこめた。


「死なれるのは困るんだよな…」


 魔王はエリザの側を通り越して、二人に話しかけていた。


「ところで君たち、すばらしいね。才能あるよ。ぜひ、魔王である私の部下にならないか」


 魔王は両手を広げて、二人の男に歩み寄る。

 なにを考えているのかわからないエリザも、ぽかんとして様子を見守った。


「その邪悪な心、人間に苦しみを与えて快楽を感じる脳を持っているなんて、魔族になるにはぴったりだ」


「なにいってるんだこいつ? 魔族は500年前に、創造神により滅ぼされただろうが?」


 茶色ジャケットの言葉に耳を貸さず、魔王は続けた。


「魔族に転生すれば、湧き上がる力と無限の魔力、そして人間よりはるかに長い寿命が手に入る。どうだ? お前たちだって、気にくわない奴がいるのだろう。魔族になれば、殺りたい放題だ。その機会を与えてやろう」


 両手を正面にかざした魔王の手のひらが、真っ暗なはずなのに、黒く光る。

 

「魔族転生!」


 男二人が、魔王が放つ黒い霧状の煙に包まれる。


「ぎぃやあああぁああぁ!」


 二人の叫びが途絶えて、霧が晴れると、さっきまで人間だった2人の男は、二匹の魔族に生まれ変わっていた。

 茶色のジャケット男は、黒光りする体に、頭には角、背中に紫色の蝙蝠のような羽を生やしている。

 半そでシャツの男は、ゴリラのように体中に毛をはやし、その口からは牙が生えていた。


 しばらく呆然としていた二人だったが、自分たちの姿を見合わせて、体を震わせた。


「こんな姿にしやがってえぇええぇえ! もとに戻せやあああぁあぁあ!」


 ゴリラとデーモンが、もはや人間とは思えない咆哮を上げながら、大口を開けて魔王に迫る。


「お前たちの内面どおりの、お似合いの姿に変えてやったというのに、主に逆らうとは、どこまでも愚かな奴らだ…」


 魔王はやれやれといった様子で、右手をそっと払うように動かした。

 面前で、ゴリラとデーモンが真っ二つになり、魔王の顔面に、紫色の血が浴びせられた。

 エリザには、なにが起こったのか、まったく見えなかった。


「きゃあぁ!」


 エリザの足元には、ぐるりと白目を剥いたゴリラの上半身が転がってきた。

 慌てて、後ろへ飛び退る。


 魔王の回りには、バラバラになった、ゴリラとデーモンの死体が転がっていた。


「うん、やはりまずい。見た目どおりの単純な味だ」


 死ぬ直前に、魔王は男の心を食べたようだ。しかし、おいしくなかったらしく、魔王は舌を出して、吐き捨てるようにつぶやく。


 ひと仕事終えて、振り返った魔王とエリザの目があった。

 そして、魔王は何かを思いついたのか、地面に転がった死体を指さして、エリザに向けてにやりとした。


「お前も食べるのか?」


「そんなもの、食べません!」


 きっぱりと、エリザは断ったのだった。


(つづく)

ブックマークありがとうございます! とても嬉しいです。

次回更新は、1月9日(土)夕方6時頃を予定しております。

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