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20. ゼダの告白

「リリ。お前のおかげで助かった。感謝している」


 ダライ様からプロポーズされた翌日。

 一睡もできずに再び体調を崩した私の元に、ゼダ王子がやって来た。私が目を覚ましたと聞いて、飛んできたのだという。


 朝方、食事の準備をしてくれた侍女の話によると、魔王戦から十日が経っているらしい。戦後の混乱もあり、転移ゲートがフル稼働していることから、私はネコール王国で療養することになったそうだ。

 ダライ様や魔王戦に参加していた他の巨人族から、私がゼダ様の危機を救ったことがネコール王国に伝わり、私はちょっとした英雄扱いになっているらしい。『戦女神』から弓を学びたいと志願する巨人族が急増しているそうだ。

 また、すでにトルク王国には莫大なお礼の品が届いているらしい。誇らしげに胸をドドンと叩いて喜ぶ父の姿が目に浮かぶ。


 私は英雄になりたかったわけではない。

 それに最後の矢を放つことができたのはダライ様のおかげだ。だから英雄と言われ感謝されてもピンとこないし、申し訳なさが込み上げてくるだけだが、皆が喜んでくれるのは素直に嬉しい。

 生まれてきたことに、少しだけ誇りが持てた。これからは、顔を上げて生きて行ける気がした。


 だが。


「リリ。俺と結婚してくれ」

「あわわわわわわわわ」


 ダライ様にプロポーズされてから10時間も経たぬ間に、ゼダ王子からプロポーズされている状況に頭が追い付かない。

 とてもじゃないが、顔を上げていられない。


「リリ。顔を上げてくれ。お前の笑顔が見たいんだ」

「無理無理無理無理っ! 無理です!」

「はは! 照れているのか。亀みたいで可愛いな」


 まだ立ち上がることが出来ないため、ベッドに突っ伏したまま布団を頭からかぶって丸くなる。そんな私を見て、ゼダ王子が楽しそうに笑う。

 魔王戦が終わり緊張が解けたのか、王子は私を初めて会った時の様に「リリ姫」ではなく「リリ」と呼ぶようになっていた。私を正面から見つめる明るい瞳は、以前よりも輝きと熱が増している。恋愛について鈍い事で定評のある私でも、王子の気持ちが本物であると分かる。

 だから余計に、困惑する。


「き、昨日、ダライ様にもプロポーズされたばかりなんです!」

「何だと!?」

「私っ、こんな状況に慣れてなくて……こここ困りますっ!!」

「……それは確かに……困ったな」


 急にゼダ王子の声が低くなった。気を悪くしたのかな、と布団の隙間から見上げると、王子は片手を顎に添えて、何かを思案しているようだった。こんな状況で言うのもなんだが、王子は本当に美しい。

 ああ、この人を救えたんだな、と、胸がじわりと熱くなった。


「あの時」


 ポツリ、とゼダ王子が口を開いた。何か大事なことを言おうとしているのだと分かり、私は身を起こした。丸めた布団を脇に置いて、ベッドの上で正座する。

 そんな私の様子を見て、王子は柔らかく微笑んだ。


「アルバトロスの門を潜る時、魔法を使って小さくなることも出来た。だが、あの魔法はかなりの魔力を消費する。出来るだけ温存したくて、そのままの姿で通り抜けようとしたんだ。……そのせいで、死にかけていたとは思いもしなかった。リリが助けてくれたのだと知ったのは、戦が終わった後だった」


 そう言うと、ゼダ王子はそっと私の手をとった。大きな手の平から、労りと慈しみの気持ちが伝わってくるようだった。


「戦が終わって、リリのことを聞いて真っ先にここに駆け付けた。砂まみれで、血に塗れて、ぐったりと気を失ったお前を見て、俺は……俺は胸が張り裂けそうだった。この手も……ひどい状態だった」


 私の手のひらを愛おしそうに自分の頬に当てる王子の瞳が潤んでいる。

 その表情に、私の胸にも熱いものが込み上げてきた。


「お前があんなに傷付きながら俺を守ってくれたことも知らずに、魔王との戦いにそれなりに貢献できたと浮かれていた自分を恥じた。すまない、リリ。そして、ありがとう。お前のおかげで俺は生き延びた」


 王子の大きな手が、ギュっと私の手を握りしめた。


「お前は、俺を救っただけでなく、この世界を救ったんだ」

「!!」


 ―――『この世界を救った』


 その言葉は大袈裟で、私には分不相応だ。

 だけど、この世界に生まれた意味を求めてもがき続けていた私にとって、それは何より欲しかった言葉だった。


「……うっ……」


 堪えきれず、嗚咽が洩れる。

 優しく名を呼びながら、私を胸に抱き寄せ、ゼダ王子は頭を撫でてくれた。エルフ特有の柔らかな森の香りが鼻腔をくすぐる。

 大木に抱かれているような、心地よい安心感。このまま眠りにつけたら、どれほど幸せだろうか。


『あなたがゼダ王子を想っていることは知っています』


「!?」


 不意に、昨夜のダライ様の言葉が蘇った。

 同時に、ダライ様の胸の熱さを思い出した。


「ご、ごめんなさい。王子」

「リリ?」


 腕に力を込めて胸から離れた私に、ゼダ王子は少し哀しそうな顔を見せた。その見慣れない表情に胸の奥がズギンと痛む。


 ゼダ王子に甘えるのは簡単だ。

 このままこの大きな胸に飛び込めば、何のためらいも無く抱きしめてくれるだろう。

 それは女性として、とてつもなく幸せなことに思える。


 だが、心地よさに流されてはいけない。

 ゼダ王子も、ダライ様も本気で私に想いを伝えてくれた。なのに私は、即答できる言葉を持っていない。

 子供ではないのだ。

 2人とも好き、では話にならない。

 今の私は、相手がダライ様でもゼダ王子でも、同じように甘え、幸せを感じてしまうだろう。

 それは相手に対し、酷く残酷で不誠実な事だ。


 それだけではない。

 私は一国の王女で、相手は大国の王太子と名門貴族の跡取りだ。

 乙女ゲームのヒロインのように、自由気ままな恋愛をする訳にはいかない。これは恋愛ゲームではなく、現実なのだ。


 だから。


「ごめんなさい。ゼダ王子」


 涙を拭いて、顔を上げて、ちゃんと目を見て。

 ゼダ王子の表情に泣きそうになるが、グッと歯を食いしばって。


「私は、2人とも選べません」


 私は、決別を宣言した。


ずいぶんお待たせして申し訳ございません!

そして、新年あけましておめでとうございます。

今年は、ちゃんと頑張ろうと思います!

最後までお付き合いいただけると幸いです。今年もよろしくお願いします。

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