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19.ダライの告白

 目を開けると、そこには石造りの高い天井があった。

 程よい弾力のあるマットレスに、肌触りの良い真っ白なシーツ。

 体に纏わりつくような柔らかいブランケットも、ガラスの入った窓も、そこから降り注ぐ優しい光も、トルク王国ではあり得ない仕様だ。


 ここは、ダライ様の邸宅だ。


 私がここに寝ているということは、魔王戦は終わったのだろう。

 連合軍……人族の勝利に終わることは最初から分かっていた。ただ、どれくらの被害が出たのかまでは知らない。


「そうだ……王子は……!?」


 反射的に飛び起きようとしたが、体がずっしりと重くて起き上がれない。体力が落ちていたところに、あれだけ無理をしたのだ。仕方がない。指の怪我は治癒しているが、衰えた筋力や体力は普通の治癒魔法では回復しない。

 しばらくは、また寝たきりの生活になるだろう。

 気の重さに「はぁ」とため息を吐きながら、とりあえず枕元にある呼び鈴を鳴らした。きっと使用人が来てくれるはずだ。ゼダ王子がどうなったのか、連合軍の被害はどの程度だったのか等、その人に聞いてみよう。


 しばらくすると、ドシンドシンと足音が聞こえてきた。礼儀正しいダライ家の使用人にしては、優雅さに欠けている。

 ……そんなに慌てるほど、寝ていたのだろうか。


「リリ姫!!」

「え!?」


 バタン、と勢いよく部屋に飛び込んできたのは、使用人ではなくダライ様だった。

 顔を真っ赤にして息を切らしている姿がワンコのようで、思わず心が和む。


「ダライ様」

「っ……!! ああ、リリ姫っ!」

「えっ!? ダライ様っ!?」


 ガバリ、と大きな体が押し寄せ、気が付くとブランケットごとダライ様の腕の中に居た。


「……きぁああ!」


 不意に気を失う前の出来事が脳裏に蘇り、悲鳴が出た。


(きききききききキスされなかったっけ!? 私っ!)


 ボンッ、と顔が赤くなる。

 夢だと思っていたが、ダライ様の温もりとセンスの良い柔らかな香水の匂いを嗅いで、鮮明に記憶が蘇ってきた。


「だ、ダライ様っ、私っ、そのっ」

「リリ姫っ!」

「は、はい!?」

「よく……よくぞ目を覚ましてくださった……!!」


 ダライ様の腕の力が一層強くなる。

 ギュッと、以前よりもずっと逞しくなった胸に抱きしめられ、私の胸もギュッと熱くなった。

 力を振絞って、ダライ様の背に腕を回す。


「心配をおかけして申し訳ありません。……大丈夫ですから。もう無茶はしませんから。だから……泣かないでくださいませ」

「……リリ姫っ……リリ!」


 ダライ様が震えている。こんなにも、こんなにも私を心配してくれていたのかと、私の目頭も熱くなった。


(なんて、優しくて温かい胸だろう)


「ダライ様、ゼダ王子はご無事でしたか?」

「!? ……はい。あなたのおかげです。無事に魔王の元に辿り着き、聖女や勇者と共に魔王を倒しました」

「そうですか! 良かった。ほんとに、本当に良かった……!!」

「……」


 ゼダ王子が無事と聞いて、胸の奥深くから熱い塊がドッと押し寄せてきた。

 ダライ様の腕が少しだけ緩んだのを良いことに、私は態勢を変えてダライ様の首にしがみつく。手に力が入らないので二の腕から抱きつく形になってしまい、ダライ様が苦しそうに呻くが我慢して欲しい。

 今の気持ちをどうしても伝えたいのだ。


「あの時……弓が上手く引けなくて、もう駄目だと諦めかけていたんです」


 ゼダ王子目掛けて飛来する魔族。言うことをきかない自分の体。

 せっかく自分の生まれた意味を見出したのにと、悔しくて泣きそうだった。


「そんな時、急に背中が熱くなって。弓に、力が籠って」


 ダライがいると気が付いた瞬間。自分の中で何かが変わった。


「ありがとうございました……!! 私、生まれて初めて『生きていて良かった』と思えたんです。ああ、私はこの世界に生まれてきた意味をようやく見つけた、って。だから……だから本当に、ありがとうございました!」


 精一杯の感謝を込めて、ダライ様にしがみつく。

 この感謝の気持ちが、熱を通じて伝わればいいのに。


(……熱?)


「あ……きゃああああああ!!」


 私は、ハイテンションの勢いのままダライ様に密着していたことを思い出した。


(何日も風呂にも入っていない体で、殿方にセクハラしてしまった……!)


「すみません! すみません! 抱きついてすみません! 私、匂いますよね!?」

「い、いえ」

「ごめんなさい! 嬉しすぎて、はしゃぎ過ぎました! ああ、どうしようっ」


 ダライ様は顔を真っ赤にして明らかに困惑している様子だ。

 穴があったら入りたい。

 早くこの場から離れて、お風呂に入りたい。


「リリ」

「はい、きゃあっ!」


 離れようと背を向けたところで、再びダライ様の方から抱きしめられた。いつの間にか呼び捨てになっているが、そんなことはどうでもいい。

 首筋にダライ様の息がかかり、かああっと全身が熱くなる。


「は、離れてください! 私、汚いですからっ!」

「汚くありません。毎日、浄化魔法をかけていましたし。それに……離れたくありません」

「ひえ!?」

「私と、結婚して下さい」

「!?」


 突然の告白。

 あまりのことに、頭の中が真っ白になる。


 昔は幸せな結婚に憧れていたが、一族の誰よりも背が伸びてからは諦めていた。それに、この一年はこの世界で生きる意味を見出すことに必死だった。

 ……必死で、恋愛感情を押し殺していたのに……!


「あ……私、私は……」


 上手く、言葉が出てこない。

 何か言わなくちゃと焦れば焦るほど、頭が混乱していく。


「リリ。あなたがゼダ王子を想っていることは知っています」

「!?」

「命懸けで戦場に行くくらいです。私などでは太刀打ちできないと、分かっています。それでも私は、伝えたかった。あなたに、私の気持ちを。……返事はゆっくりで構いません。私は、待ちます。どんな返事でも」


 胸が痛い。

 ダライ様の震える肩から、それが本心であることが伝わってくる。即答できない自分が情けない。


 私が口を開けないでいると、ダライ様の体がそっと離れた。


「……すみません。一方的でしたね。まだ病み上がりなのに。どうか、ゆっくり休んでください」

「あ……」


 何も返せないまま、ダライ様は部屋から出て行ってしまった。


 赤い顔で、視線を逸らして。

 きっと精一杯の勇気を出して告白してくれたのだろう。


「……ぅうわあああああ」


 じわじわと実感が湧いてきて、叫びながらベッドに倒れ込んだ。

 今夜はもう、眠れない。


お久しぶりです!

ノロノロ更新で本当にすみません。

頑張りたいけど頑張れない身体が恨めしい……ちくしょー!(突然の小梅太夫)


とりあえず、早くこの物語を終わらせて、

本作の番外編が書きたいです。気持ちばっかり焦ります。


最後までお付き合いいただけると幸いです。

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