歴史の嘘なんていくらでもあるのよ
「麗雄君、あれから調子はどう?」
「あっ、その…僕、奏さんに自分の部屋を用意してもらって、今日からそこで暮らすことになったんだ。」
「えっ、大丈夫なの?」
磨那が心配していると、奏が入ってくる。
「心配いらないさ、磨那さん。麗雄君のことはみんなわかってくれている。それに、麗雄君も一人のほうがいい時だってある。なに、部屋は許可さえあれば自由に入れる。麗雄君だって、磨那さんと一緒にいたい時もあるだろうから、そこはうまくやってほしい。」
奏は磨那に説明する。
「わかりました。麗雄君、一人部屋でも頑張るんだよ。」
「うん、任せて。奏さん、案内お願いします。」
麗雄は荷物を纏めて磨那の部屋から出て行く。
「可愛い弟君が出て行っちゃったねぇ。」
「麗雄氏、磨那氏に随分と懐いていたからなぁ。」
ゲイルとネデスはニヤつくような声で言う。
「ちょっと、ゲイルもネデスさんも変なこと言わないで!私と麗雄君って年齢が一回りくらい差があるんだけど!」
磨那は顔を真っ赤にして言う。
「あっ、照れてる?」
「照れておるな。」
ゲイルとネデスは磨那をからかう。
「もう、二人とも…」
実際、一人部屋に戻ってしまう寂しさのある磨那は反論出来ずにいる。すると、
〝磨那さん、ここから南に8キロの地点でおっぱい魔人の反応があるわ!〟
女性オペレーターから連絡が入る。
「二人とも、行くよ!」
磨那はゲイルエメラルドとネデスサファイアを持って出動する。
磨那がウィンドレイダーに乗って目的地に到着する頃には既に大勢の人達が倒れており、何カ所が焦げた跡が残っていた。
「まったく、ホント貧乳を守る男なんて大したこと無い奴しかいないのね。」
磨那の目の前には、女性型のおっぱい魔人がいた。
「あなたが、この惨状を作ったの?」
「ええそうよ。私のこの美しい黄金比で整った胸に見合う男を探すついでにね。前情報で現代人は集団行動を行うってことを知っていたから、一人探せば後は一網打尽。予想通り貧乳達もいたから、消えてもらったわ。」
おっぱい魔人はケラケラと笑う。
「許せない!行くよ、ゲイル!エメラルド・ラピッド!」
磨那はナイチチゲイルに変身する。
「さあ来なさい!このギガインサイザーが相手になってあげるわ!」
ナイチチゲイルはラピッドスティンガーを手に取り、ギガインサイザーを突こうとするが、
「甘いわね。これだから貧乳は。」
ギガインサイザーはその張りのある胸でラピッドスティンガーを挟んで攻撃を受け止める。
「攻撃を受け止められた!?」
「これこそが巨乳に与えられた特権、巨乳式白羽取り!」
ギガインサイザーはラピッドスティンガーを何度も胸で挟んで受け止める。
「磨那氏、それからナイチンゲール、私に代わるのだ。アクアバトンなら防げまい!」
「わかった!サファイア・スプラッシュ!」
ナイチチゲイルはナイムネデスに変身する。
「アクアバトン!」
ナイムネデスはアクアバトンでギガインサイザーを攻撃しようとするが、
「あ~ら、残念♪」
ギガインサイザーは巨大な鋏でアクアバトンを捕らえると、そのまま挟んで真っ二つにへし折る。
「嘘っ!?」
ナイムネデスは驚きつつも折られたアクアバトンを両手でそれぞれ持ち、バチのように打撃を行おうとする。
「だぁかぁらっ、そんなひょろひょろした棒じゃ私は楽しめないっての。」
ギガインサイザーはアクアバトンを軽々受け止める。
「磨那氏、ここは一旦退こう。今の私達がは奴に対する対抗策が無い。」
「悔しいけど仕方ない…アクアマジック!」
ナイムネデスは水飛沫を放って目眩ましを行い撤退する。
「ちっ、逃げられたわね。まあいいわ。新しい始末対象を探しましょ。別にあの貧乳女は後で倒せばいいだけだし。」
ギガインサイザーはその場から離れた。
磨那は司令室に入る。
「奏さん、申し訳ございません!私の攻撃が一切通用しませんでした。」
磨那は謝る。
「仕方が無いさ。あのおっぱい魔人、ギガインサイザーは明らかに磨那さんに対して対策を施していた。今のままでは勝てない。どうすればよいものか…」
奏は悩む。すると、
「磨那さん、これを見てください。」
佳織が古文書を持ってやって来る。
「佳織さん、どうしたのですか?」
「この古文書の文ですが。」
「ええと…『静かに眠りし熱き巨体の北の根元より、上に水、下に空を用意せし時、人の根源たる希望、現れん』これって!」
「はい、私の家にあったものなので、おそらくフラットストーンの在り方だと思うのですけど…」
「この最初にある静かに眠る熱い巨体、これって富士山のことだと思います。富士山は噴火をやめた死火山ではなく、休眠状態の活火山なので、熱い巨体そのものと言えます。」
「そうなると、富士山の北にあるということか。よし、まずは富士山に向かおう。」
奏の指示により、要塞ウォールストリートは富士山に向かった。
ウォールストリートは富士山の麓に到着する。
「北側だと、大体この辺りか。」
奏は確認を繰り返す。
「後はこの上に水と下に空を用意って所だけど、どういう意味でしょう?」
磨那達が悩んでいると、
「どこかで水を掬ってきて、磨那が私に変身して空より上に水を用意すればいいんじゃない?」
ゲイルが考えたことを言う。
「出来るわけないでしょ!成層圏まで行けないよ!」
「その通りだ。お前は磨那氏を窒息死させたいのか!まったく、これだから。いいか、もっと楽に済ませるなら磨那氏が私に変身し、私の力で水を発生させる。そしてそのまま逆立ちすれば上が水、下が空という状況を作り出せる。」
磨那とネデスはツッコミを入れ、ネデスはとんちを利かせたことを言う。
「なんだろう。絶対違うと思うけど、それをやってみる必要があると思う自分がいる…」
「磨那氏よ、それならやって後悔した方がよいぞ。」
ネデスは後押しをする。
「と、とにかくやってみよう!サファイア・スプラッシュ!」
磨那はナイムネデスに変身し、水の塊を出現させる。
「後は、これで逆立ちをすれば…」
ナイムネデスは逆立ちをするが、
「まあ、普通に考えればそうよね…」
何も起きず、ナイムネデスは下着が丸見えという間抜けな状態で逆立ちをしているだけだった。
「よっと!」
ナイムネデスは逆立ちをやめて変身を解除する。
「今思ったんだけど、最後の部分に関して、前提条件がそもそも違うんじゃないかな?」
ゲイルは言う。
「前提条件が違うとは?」
ネデスは疑問に思う。
「だって、最初の方は比喩的表現なのに、後ろの方はそのまんまの意味ってことは無いと思うの。それで思ったんだけど磨那、私のことを持った手を下に下ろして、ネデスを持った手を上に上げて。」
ゲイルは磨那に指示を出す。
「えっ?わかった。」
磨那は言われた通りネデスサファイアを右手で上に持ち上げ、ゲイルエメラルドを左手で持ち、下に下ろす。すると、二つのフラットストーンの光は磨那の後ろで交差し、赤いフラットストーンが現れる。
「予想通りね!」
「ナイチンゲールよ、どういうことだ?」
「これも私達に関する比喩的表現。水はネデスを、空に関しては風の私を、それぞれの位置にあわせて持つことで、人間にしか扱えない火のフラットストーンが現れるって意味。火は希望とも言われることがあるからね。磨那、そのフラットストーンの声を聞いて。」
ゲイルは二人に説明し、磨那は赤いフラットストーンに念じる。
「あら、誰かが私を起こしてくださったのかしら?」
赤いフラットストーンからどこか気品のある声が聞こえる。
「はじめまして。私は板野磨那、ゲイル達の力を借りて貧乳超人をやらせてもらっています。」
磨那は自己紹介をする。
「あなたが貧乳超人に選ばれた方なのね?私はマリー=アントワネット。フランス最後の王妃です。今は貧乳超人のマリー・パットガネーヨと名乗らせてもらっています。」
貧乳超人、マリー・パットガネーヨは穏やかに名乗る。
「マリー=アントワネット、確か『パンが無ければケーキを』という言葉で有名な浪費癖のある反革命家か。何故其方が正義と平和の為に戦う貧乳超人に選ばれた?」
ネデスは史実としてかつて語られていたことを基に話す。
「ネデスさん、その逸話はもう古いですよ。」
磨那はネデスの誤りを否定する。
「磨那さんのおっしゃる通りです。あの発言は別の貴族の夫人が発言されたものを利用し、私に嫉妬していた王の愛人達が関係者達を利用してまるであたかも私が発言したように国中に流布されたものです。その証拠に、国民が餓えで苦しむよりずっと前にこの言葉は存在していました。」
「マリーさんの言う通りです。それに、マリーさんが反革命家だったのは、君主制を守り抜く為だったんですよ。」
「はい。既にあの時代で血筋が遡れる王家は殆ど在りませんでした。王家を守り、支えることも王妃の役目の一つです。」
「なるほど、本来知っているはずの知識を蔑ろにし、俗説に流されてしまい、誠に申し訳ない。」
ネデスは謝る。
「大丈夫ですわ。歴史の嘘なんていくらでもあるのよ。」
マリーはにこやかに返す。
「お心遣い、大変感謝いたす。」
ネデスはマリーの対応に感謝する。
「それで、磨那さんはどうして私の眠りを解いたのですか?」
「それが、今の私の力では勝てないおっぱい魔人が現れて、力の火を宿したマリーさんの力を借りたくて。」
「わかりました。貧乳超人の使命は傷つく民を悪から守り、巨悪を挫くことで平和を築きあげること。そのお願い、承ります。」
「今、おっぱい魔人の方は私達のリーダー達が探してくれています。私達は外にいるよりも要塞の中でいつでも出動出来るように待機しましょう。」
「あら、要塞なんて素晴らしいものがあるのですね。それでは磨那さん、案内をお願いいたします。」
磨那達はウォールストリートに戻る。
「佳織さん、火のフラットストーン、マリーガーネットが見つかりました。」
「やっぱり火のフラットストーンのある場所だったのね。それで、どんな方だったの?」
「火の貧乳超人はマリー=アントワネットさんです。」
「そうなの?よろしくね、マリー王妃。」
「ここは、とても温かい場所ですね。こちらこそ、よろしくお願いします。」
佳織とマリーは互いに挨拶を交わす。すると、
「磨那さん、ここから北東15キロ先に先程のおっぱい魔人の反応がある。向かってくれないか。」
「はい、任せて下さい!行きましょう、マリーさん!」
「はい、わかりました。」
磨那はマリーガーネットとゲイルエメラルドを持ち、ウィンドレイダーで目的地に向かう。
「性懲りもなく来たのね。今、貧乳女を虐殺している最中だから後にしてくれないかしら?」
ギガインサイザーは鋏で少女を切り裂く。
「磨那さん、ガーネット・アンガーと叫んでください。私の力が使えます。」
「わかりました!ガーネット・アンガー!」
磨那は認証コードを叫び、真紅の光に包まれ、燃え盛る炎によって衣服は消滅し、一糸まとわぬ姿になる。
「そろそろ、この状態に慣れてきた自分がすごく悲しい。」
「お気持ちは解りますわ。」
磨那はフリルの多い衣装を纏いマリー・パットガネーヨに変身する。
「怒れる力の火、マリー・パットガネーヨ!」
マリー・パットガネーヨは名乗る。
「パットが無いですって!そんな不毛の荒野みたいな無乳にパットが入っているわけ無いでしょ!」
ギガインサイザーは笑いながら巨大な鋏を双剣のように分割してマリー・パットガネーヨに近づき、切り裂こうとする。しかし、
「笑うな!」
マリー・パットガネーヨは力強く拳を握り、その拳で巨大鋏の片方を砕き、もう反対側を払いのける。
「何、あの馬鹿力!?」
ギガインサイザーは咄嗟のことで驚く。
「お前達おっぱい魔人はみんなそうだ!口を開けば胸の大きさの話ばかり!女性の価値は胸では決まらない!」
マリー・パットガネーヨはギガインサイザーの左手首を掴み、怒濤のパンチを連発する。
「ちょっ!痛っ!」
対象を挟み込むことで攻撃を無力化していたギガインサイザーだが、打撃に対してはそれが逆効果となり、軟らかく脆い部分に的確なダメージが入る。
「このっ!離しなさい、っよ!」
ギガインサイザーは腕を引き戻すことでマリー・パットガネーヨの体勢を崩そうとするが逆に自身がマリー・パットガネーヨに引き寄せられ、その反動をマリー・パットガネーヨは利用して頭突きを放ち、ギガインサイザーは地面に倒れる。
「答えなさい!どうして女性を胸で判断するの!」
「当然のことでしょ?女の胸は男を喜ばせるためにあるのよ。胸の無い女なんて男を喜ばせることすらできない。そんなこともわからないのかしら?」
「そんなこと無い!世の中の男性全てが、見た目で女性を判断しているわけじゃない!平和を願う貧乳超人が、お前の悪意を消し去ってみせる!」
マリー・パットガネーヨは渾身の一撃でギガインサイザーを殴り瓦礫に叩きつける。
「これで、どうだ!」
マリー・パットガネーヨは断頭台を出現させると、それを力づくで破壊し、刃を取り出す。
「食らいなさい!烈火断罪!」
マリー・パットガネーヨは断頭台の刃を力強く投げ、刃は炎を纏ってギガインサイザーを横一文字に断つ。
「ムネトピア帝国に、栄光あれぇぇぇ!」
ギガインサイザーは断末魔をあげると、爆散する。
「おのれ貧乳超人め!後何人出てくるのだ!?」
ムネトピア神殿から様子を見ていたグラメニアは恨めしそうに叫んだ。
「みなさん、守ることが出来ずに申し訳ありませんでした。」
磨那は形だけの墓を作り、花を供える。
「私達だって万能じゃない。守れない時だってある。だけど、守れる時に守るのが私達の力なんだよ、磨那。」
「そうですわ。これからもムネトピアから人々を守りましょう。」
「…うん、そうだね。ありがとう、二人とも。それじゃあ行こうか。」
磨那はゲイルとマリーに後押しされ、涙を拭うとウィンドレイダーでウォールストリートに戻った。