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馬鹿と話す時間はもったいない

 「麗雄君、あれから調子はどう?」

 「あっ、おはようお姉ちゃん。なんかね、あの姿になれなくなっちゃった。でも、お姉ちゃんと一緒だから、全然怖くないよ。」

 磨那からの質問に麗雄は答える。

 「麗雄君、ありがとう。今から私は奏さんの所に行って経過を話してくるから、この部屋で待っているんだよ。」

 「うん、わかった!」

 磨那が部屋から出るのに合わせて麗雄は手を降る。そして、

 「よし、探検スタート!」

 麗雄は磨那の言葉を無視して部屋から出て行く。

 「おぉ~、メッチャ格好いい!」

 麗雄は廊下を走りながら幾何学模様の風景を見て喜ぶ。すると、

 「いてっ!ごめんなさい!」

 前を歩いていた二人組の男性にぶつかり転倒してしまい、自分の不注意でぶつかってしまったため、謝る。

 「あれから、麗雄君に特に異変らしいものは起きているか?」

 「どうやら、おっぱい魔人への変身が出来なくなったらしくて。」

 その頃、磨那は奏に定期報告を行っていた。

 「子供の可能性は計り知れないからな。きっと、将来的に巨乳好きになる可能性があったから、おっぱい魔人になれたのだろう。しかし、磨那さんとの出会いで胸に対する執着心を失い、その結果おっぱい魔人への変身が出来なくなったのだろう。磨那さん、そろそろ麗雄君にきちんと話がしたい。これから話をしに行っていいかな?」

 「大丈夫ですよ。普段から片付けていますので。」

 「よし。では行こうか。」

 奏と磨那は司令室から出る。

 「麗雄君は本当に元気なんですよ。」

 「磨那さんも、麗雄君と過ごすようになって随分表情が緩くなったね。」

 「そうですか?」

 磨那と奏が笑顔で話していると、

 「おい、どこ見て歩いてんだ?」

 「てかこいつ、あの化け物じゃん。」

 「おいおい、本当じゃねぇか。まったく、あのおっさんもなんで化け物なんか庇うんだか。」

 「そんなことより、どうします?」

 「決まってんだろ、楽しいお仕置きの時間だよ!」

 男の一人が麗雄に対して蹴りを放って麗雄を壁に叩きつける。

 「オ゛ッ!」

 麗雄は呻き声をあげる。

 「おいおい、何いっちょまえに弱ったふりしてんだよ!おめぇ化け物だろ!」

 男達の暴行は続く。

 「化け物はな、生きている価値なんてねぇんだよ!」

 更に男が殴ろうとする。

 「やめなさい!」

 そこに磨那は割り込み、男の拳は磨那の胸部に当たる。

 「うぐっ!」

 男の放った拳は重く、磨那は怯む。

 「ちっ、せっかく人が化け物退治していたのに、何してんだよ!」

 「そうそう、そいつは化け物なんだからいたぶり抜いてから殺さないと。」

 男達は磨那を殴っておきながら反省の色を見せない。

 「君達、麗雄君はもう変身することが出来ないんだ。」

 「そんなの、そいつの嘘じゃねえの?」

 「ってか、せっかくレジスタンスに入ったのに、やっていることは難民の保護だけで、派手に殺すことも出来ないんだ。これくらいやらせろよ。」

 奏の言葉に男達は食ってかかる。

 「あんた達、体の造りが脆い女子供にしか暴力を振るえないの?」

 「うっせぇな。俺達はただ憂さ晴らしが出来れば何でもいいんだよ。今回は偶然そいつが目の前にいたからやっただけだし。」

 磨那の言葉に男は反論する。

 「君達、戦いたい気持ちはわかる。だが、力なき者を一方的に傷付けているのではムネトピアの奴らと何も変わらない。我らウォールストリートにそんな人がいられては困る。出て行ってもらえないか?」

 奏は穏やかに、しかし怒りを見せながら言う。

 「ちっ、こんな窮屈な所、こっちから願いさげだ。行こうぜ。」

 男達はそう言うと、止まっていた要塞の窓から出て行ってしまう。

 「奏さん、追わなくていいのですか?」

 磨那は殴られた胸部を押さえながら言う。

 「構わない。それより、麗雄君を早く治療室へ運ぼう。奴らから酷い暴行を受けたんだ。骨だって折れているかもしれない。」

 「それなら任せてください。ゲイル、行くよ。エメラルド・ラピッド!」

 磨那はナイチチゲイルに変身する。

 「ヒーリングウェーブ!」

 ナイチチゲイルは麗雄の怪我を治す。

 「…お姉ちゃん?」

 「麗雄君、大丈夫!?」

 磨那は変身を解除し、意識を取り戻した麗雄を抱きしめる。

 「お姉ちゃん、ごめんなさい。僕、お姉ちゃんとの約束を破って、外に出ちゃって…」

 麗雄はしょぼくれるように言う。

 「大丈夫、それより麗雄君が生きていてくれただけで充分だよ。」

 磨那は麗雄を宥めるように言う。

 「麗雄君、もう大丈夫だ。さっきの悪い奴らは私が追い出したから。麗雄君も磨那お姉ちゃんの部屋に閉じ込められていてつまらなかっただろう?今日からはこの要塞の中を好きに使っていい。」

 「おじさん、本当にいいの?だって僕…」

 「麗雄君は麗雄君だろう?みんなには、私の方からしっかり話すから。麗雄君は目いっぱい遊んでいい。そうだ!今から他の子達に挨拶に行こう。きっとみんな、麗雄君と仲良くなってくれるよ。」

 不安に怯える麗雄に奏は提案する。

 「でも…」

 「大丈夫!麗雄君をいじめる奴はお姉ちゃんがやっつけてあげるんだから。」

 戸惑う麗雄に磨那は後押しをする。

 「わかった。お姉ちゃんが言うなら、行ってみる。」

 麗雄は納得し、奏達と一緒にウォールストリートの子供用体育施設に向かう。

 「みんな、元気にしているか?」

 体育施設の扉を開け、奏は子供達に元気に質問する。

 「おじさん、おはよう!」

 子供の一人が奏にタックルをしようとするが、奏は軽々持ち上げる。

 「今日も元気だな!今日はみんなに、新しいお友達を紹介しよう。ほら、麗雄君。」

 「…はい。初めまして、草壁麗雄っていいます。好きなことは走ることです。」

 「みんなも、麗雄君がおっぱい魔人に改造されていることは知っていると思うが、麗雄君はお父さんを連れ帰ろうとしている途中にムネトピアに捕まってしまって、麗雄君の意思とは関係なく改造されちゃったんだ。だから、おっぱい魔人だからって差別しちゃ駄目だよ。」

 奏は麗雄のことをしっかり説明する。

 「なんだ、パパを助けようとするなんてスゲーじゃん!麗雄、よろしくな!」

 子供の一人が麗雄と握手をすると、麗雄の表情も和らぐ。

 「みんな、僕はもうあの怪物になれないけど、よろしく!」

 「よし!じゃあまずはあのゴールネットまで走ろうぜ!」

 「うん!」

 麗雄は子供達と混ざってかけっこをはじめる。

 「ああやって見ていると、本当に普通の子供ですね。」

 「ああ、だからこそ自分達の目的の為にあんな子供さえ利用するムネトピアを一刻も早く倒さないと、安全な未来が作れない。」

 「そうですね。」

 磨那と奏は子供らしい無邪気な笑みを浮かべている麗雄を見て平和に話している。そんなことを数時間続ける頃には、麗雄も地面を倒れていた。

 「麗雄、すっげえ速いな!」

 「マラソン大会はずっと一位だったからね!」

 「速すぎかよ!」

 麗雄達は笑いあっている。すると、

 “真盾指令、東の方角からおっぱい魔人の反応です!”

 オペレーターから連絡が入る。

 「奏さん、行って来ます。」

 「ああ、気をつけるんだ。」

 磨那はウォールストリートから出てウィンドレイダーに乗って目的地に向かう。

 「ここね…」

 磨那はウィンドレイダーから降りて捜索している。すると、

 「漸くお出ましかよ!」

 「早くこの力を試したかったぜ!」

 磨那の後ろからツチノコのように広く平べったい体に太い手脚を持ち、二つの頭を持つおっぱい魔人が現れる。

 「その声!?まさか!?」

 「そうだよ!俺達だよ!」

 「こっちの方が戦えそうだから、ムネトピアに寝返らせてもらったぜ!」

 おっぱい魔人の正体は、数時間前に奏が追い出した男達であった。

 「あいつらには話が通じない。行くよ、ゲイル!」

 「オッケー!」

 「エメラルド・ラピッド!」

 磨那はナイチチゲイルに変身する。

 「ラピッドスティンガー!」

 ナイチチゲイルはラピッドスティンガーを出現させて手に取る。

 「「俺達ツインブラスターの力を見せてやる!」」

 ツインブラスターはドカドカと走る。

 「ゲイル、あいつらかなりパワーに極振りしているみたい。」

 ナイチチゲイルはその突進を避ける。

 「みたいね。ここは必殺技で一気に決める方がいいかも。」

 「わかった。今ね!ラピッドインパルス!」

 ナイチチゲイルは必殺の刺突攻撃を放とうとするが、

 「知るかよ!」

 ツインブラスターはラピッドスティンガーを掴み、ナイチチゲイルを引き寄せると、その豪腕でナイチチゲイルを殴りつけて地面に叩き落とすと右手でその首を掴み、左手の拳を握り幾度にもわたってナイチチゲイルを殴り続けて首を離す。

 「やっぱ無抵抗な奴を一方的に殴るのは爽快だな!」

 「ああ!だけど、こいつももう殺さねぇとな。グラメニアから頼まれたからな。」

 ツインブラスターはその巨大な脚を持ち上げる。

 「磨那、ここは一旦退くよ!」

 「……うん…ウィンドマジック…」

 ナイチチゲイルの周りを突風が覆い、ツインブラスターの視界は遮られ、突風が晴れるとナイチチゲイルは撤退していた。

 「ちくしょう!」

 ツインブラスターは悔しがっていた。

 「ぐっ!ガハッ!」

 ウォールストリートにテレポートした磨那は血反吐を吐く。

 「磨那さん、大丈夫か!」

 奏は磨那に話しかけるが、一切の返事がなかった。

 「磨那さんを早く治療室へ!」

 奏の指令を受け、救護班は磨那を治療室へ運び、治療を始める。

 「磨那さん、無事であってくれ…」

 治療室の扉の前で奏は祈る。すると、

 「あなた、これを見て。」

 佳織が青い宝石を持ってやって来る。

 「どうした佳織?これはもしかして!?」

 「はい、青のフラットストーンです。」

 「どうしてこんなものを?」

 「タンスの整理をしていたら、これが見つかりまして。」

 佳織がそう言うと、青いフラットストーンは光だし、磨那のゲイル・エメラルドも呼応するように光を放つと、磨那の折れていた肋骨は接合され、肋骨が刺さり穴の空いていた心臓と肺の穴は塞がる。

 「先生…これは…」

 「これは、奇跡としか言えないだろう。とにかく、縫合するぞ!」

 医師達は驚きつつも、的確な判断を行い磨那の手術は何もすることもなく終わってしまった。

 「神秘的としか言い様がありません。まさか、フラットストーンが光り出して傷を治してしまうなんて。」

 医師が真盾夫妻に話していると、治療室の扉が開き、磨那が出てくる。

 「磨那さん、まだ安静にしていてください!」

 医師達は驚く。

 「ゲイルが教えてくれました。新たな貧乳超人が覚醒したことで、傷が完治したって。奏さん、佳織さん、何か解りませんか?」

 「やっぱり、これはフラットストーンだったのね。」

 佳織は青いフラットストーンを磨那に渡す。

 「あの波長、やっぱりあなただったんだね。磨那、私と初めて会話した時みたいに、そのフラットストーンに念じてみて。」

 「わかった。」

 磨那が念じると、髭を生やし、どこか古代人のような衣服を身に纏った男性が現れる。

 「あなたは?」

 「私は古代ギリシャの学者、アルキメデス。今は貧乳超人に選ばれ、ナイムネデスと名を変えている。」

 「私は磨那。ナイムネデスさん、ちょっと名前が長いからネデスさんって呼んでいいですか?」

 「ああ、その程度なら問題はない。さしたる問題点ではないからな。君がナイチンゲールに選ばれた貧乳超人の使い手か。確かに、そのようだな。」

 ネデスは磨那に自己紹介を済ませると、磨那の容姿を見て納得する。

 「ちょっとネデス!それ、ただのセクハラにしか聞こえないんだけど!」

 ネデスの言葉にゲイルは怒る。

 「ああすまない。深く考えずに言ってしまったが、気分を害してしまったならば申し訳ない。」

 ネデスは謝る。

 「いえ、深く気にしないでください。それより、ネデスさんの知恵を貸して欲しくて。」

 「どのような問題だ?」

 「私とゲイルが刃が立たなかったおっぱい魔人の倒し方についてですが。」

 「そのおっぱい魔人の特徴を教えてくれないか?」

 「一つの肉体に二つの頭部を持っていて、手脚は二人分が合わさったように太かったです。」

 「ふむ、頭部が二つ。それは例えば前後の面にそれぞれ顔がある形か?それとも独立した別々の頭部を有しているということか?」

 「後者の方です。」

 「そうか、それで、そのおっぱい魔人の体はどの程度を大きさであった?」

 「縦横の長さは普通の人間より一回り大きかったけれど、厚みはほとんど同じでした。」

 「なるほどな。それなら簡単な方法を見つけた。この近くに川辺はあるか?」

 「海なら近くにあります。」

 「そうか、そこが決戦の場所になる。なんとかおびき寄せる必要があるな。」

 「あのおっぱい魔人は私の命を狙っていた。おそらく、また私を狙ってくると思うから、外へ出れば自然とやって来るはず。」

 「よし、善は急げだ。作戦を開始するぞ。」

 ネデスの発言を聴き、磨那は外へ出る。

 「よし、ここにいれば…」

 磨那は身構えていると、ツインブラスターが現れる。

 「けっ、のこのこ現れるとはな。」

 「なに、またいたぶれるってもんだ。やっぱ女子供の悲鳴は聞いていて楽しいからな。」

 ツインブラスターは笑う。

 「なるほど。馬鹿と話すのはもったいないな。磨那氏よ、私のフラットストーンを掲げて『サファイア・スプラッシュ』と叫ぶのだ。」

 「わかった。サファイア・スプラッシュ!」

 磨那は認証コードを唱え、青い光に包まれて一糸まとわぬ姿になる。

 「やっぱり、この工程は入るのね…」

 「諦めるしかなかろう。」

 磨那は青を基調とした法衣のような戦闘服に身を包む。

 「氾濫する知性!ナイムネデス!」

 ナイムネデスは高らかに名乗る。

 「無い乳の次は無い胸かよ!」

 「見た目まんまだな!まあ、殴り甲斐があるけどよ!」

 ツインブラスターは突進してくる。

 「磨那氏、避けるんだ!」

 「はい!」

 ナイムネデスが避けると、ツインブラスターは柵を破壊しながら海に落下する。

 「なんだ、海に誘導して、何がしたかったんだ!」

 ツインブラスターは泳ごうとするが、いくら泳いでもその体は浮くどころか沈んでゆく。

 「おい!どうなって…」

 ツインブラスターは海中でもがき苦しむ。

 「そうだろうな。頭が二つあるということは、消費される酸素も二倍になる。本来、内臓器官が二人分あれば問題は無かったが、一人分の内臓器官しか無いその肉体では、浮力が足りずに沈むのは当然。平和を願う貧乳超人が、お前達の悪意を消し去ってみせる。」

 ネデスが言い終わる頃には、既にツインブラスターは完全に海に沈み、水圧によって破裂していた。

 「彼らは元々、暴れたいから私達の仲間になった。だけど、暴れることができなかったからムネトピアに寝返った。」

 「まるでけだものだな。それならおっぱい魔人になったのも納得がいく。磨那氏よ、帰るぞ。」

 「そうね。」

 磨那は変身を解除し、破裂したことで浮力を得たツインブラスターの残骸に背を向けながらウォールストリートに戻ってゆく。

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