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潜伏賢者は潜めない ~若返り隠者の学院戦記~  作者: 漂月


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第44話「サイカ衆」

044


 俺は『魂の円卓』に戻ると、『書庫』の人工霊から鉄砲使いを呼び出すことにした。

「カジャ、人工霊の検索だ」

「ええと、前回とは条件を変えるんですね?」

「そうだ」

 前と同じなら検索する必要はない。



「『神世界』のニッポン国から、火縄銃の扱いに最も長けた傭兵集団を探してくれ」

「傭兵集団……えーと、じゃあ身分は平民ですか?」

「その方がいいな」



 士分でも火縄銃の手入れぐらいはするだろうが、本格的な修理はしない気がする。士分は文武両面でやるべきことが多く、何でもかんでも自分でやる余裕はない。

 一方、平民の職業戦士だと武器の調達は自前が原則だ。銃の修理に長けた者がいる可能性は高い。



 すぐに検索結果が出た。

「えー……傭兵集団『サイカ』衆が第1候補です」

「ふむ」

 俺もそこまで異世界の歴史に詳しい訳ではないので、ざっと情報を読む。



「ニッポンの戦乱期で極めて重要な役割を果たした、精鋭の傭兵集団か。サイカは地名のようだな。……ほう、オダ家の猛攻も防いだか」

「オダ?」



 俺は該当項目を抜き出し、カジャに与える。

「オダ家は急激に勢力を拡大していたニッポン最大の貴族で、事実上の支配者だった。オダ家と何度も渡り合っているということは、強大な敵との戦い方も心得ていそうだな」



 さっそく呼び出してみることにしよう。骸骨兵の素体が残り少ないので、今回も召喚は50体だ。

 横たわっていた骸骨たちが起き上がり、俺を仄暗い眼窩で見つめてくる。



『あんたが俺たちを呼び起こしたのか』

「そうだ。仕事を頼みたい」

『……報酬は?』



 こちらは召喚主であり、彼らに意識と骸骨の体を与えているのは俺だ。拒めば素体に戻すまでの話なのだが、そういうことを言っていると霊は扱えない。

 報酬か。



「敵から奪った火縄銃が数千挺ある。好きなのを一挺ずつやろう」

『悪くない。だがそれはあんた自身の利益でもある。もう少し色をつけてくれんかね。銭はいらんから、別のものをな』

 こいつら厚かましいな。



 何だか面白くなってきた俺は、彼らの申し出を真剣に考える。

 骸骨兵は食事も睡眠も必要としない。魔力の供給だけで動いている。

 そんな彼らにとって、金銭はもはや大した意味を持たないのだろう。



 だとすれば、戦士が望むものはひとつだ。

「このサフィーデは今、ベオグランツという大国の侵攻を受けている。オダ家よりも強大な相手だ。もし撃退できれば、その名は歴史に刻まれるだろう」

 霊たちがぴくりと反応した。



 俺は内心で確かな手ごたえを感じ、こう続ける。

「この状況を打開できる優れた鉄砲使いを集めているところでな。今はシマヅ家のブシたちが味方にいる。大変に腕の立つ勇猛な戦士たちだ」



『シマヅ? どこの大名か知らんが、俺たちの前では素人同然であろうよ』

『島津と言えば、確か九州のド田舎の連中だぞ。比較にもならん』

『くぐってきた修羅場の数が違うからな』



 シマヅの骸骨兵たちが聞いたら逆上しそうなことを、平気でぽんぽん言うサイカの骸骨兵たちだ。

 どうやらサイカの連中は少し時代が違うらしく、シマヅのことをあまり知らないらしい。



 そこで俺はシマヅの骸骨兵たちを連れてくる。陣笠を被って鉄砲を担いだ骸骨兵たちが、ぞろぞろと現れた。

 サイカの骸骨兵たちが不審そうな態度を取る。

『なんだこいつらは』

『我らこそ島津公にお仕えする鉄砲衆よ。うぬら、地侍の分際でよくもほざきおったな』



 両者、髑髏の奥の虚ろな眼窩で睨み合っている。

 やがて霊体同士で激しい言い合いが始まり、最終的にはニホン語での挑発合戦に発展したようだ。骸骨たちは静止したままだが、霊波が激しく乱れている。



『おいどんばぼっけもんやっで、おはんらのごたるほがねひっかぶいばうてなわん』

『やっかしわ! なにゆとるかわかぁへんわい!』

『はん、ひんがわいか』

『コケにされとんはわことんねんぞ!』



 カジャが両陣営の骸骨を見比べながら、俺に尋ねてきた。

「あるじどの、これなんて言ってるんですか?」

「翻訳は試みているのだがな、訛りが激しくて全くわからん。好きなだけやらせておこう」



 人工霊たちに地方の訛りをインストールする意味があったのか謎だし、訛りが正確なのかも不明だが、とにかくこれは困るな。師匠に会えたら報告しておこう。



『おいもおいもうっさいねん! 芋畑でも耕しとけボケ!』

 シマヅ領でサツマイモの栽培が始まったのはエド時代で、お前らはもっと前の時代の霊だろ。人工霊だから細かい部分は粗だらけだ。



『ぼしんでかんがなんゆちらすっと。そいはおはんらのしごっじゃ、わはははは!』

 あっちはもう何を言ってるか全くわからないので、合ってるのかどうかもわからん。



「本当にほっといていいんですか、あれ」

「構わん構わん」

 仲裁に入らずとも、こいつらの動きはいつでも止められる。

 すると最後にサイカ側が、くるりとこちらを振り向いた。



『あそこまで言われて黙っていられるか。この勝負、しかと引き受けよう』

「それは助かる」

 やって欲しいのはシマヅとの勝負じゃないんだが、まあいいだろう。競い合うのは良いことだ。



「あるじどの、ますます詐欺師っぽくなってきましたよ」

 カジャがニャーと鳴いた。



 とにかくこれで、異なるタイプの銃兵を50人ずつ味方にすることができた。2個小隊というところだな。

 ただし骸骨兵の素体は師匠が残してくれたもので、あまり浪費はできない。これを作るのにも時間と金、それに熟練が必要だ。



 大事に使わなければならないので、彼らを前線に投入するのは極力控えておく。

 サイカ銃兵には鹵獲した火縄銃の点検と修理を依頼した。数千挺もあるので、まだ検分どころか集計すら終わっていない。



『これは酷いな』

『作りが粗いのか、それとも戦場でよほど派手にやられたのか……』

 文句言ってないで点検と修理を急いでくれ。1人100挺がノルマだぞ。



 一方、シマヅの骸骨兵たちにはサフィーデ兵の訓練を委託した。通訳が必要になるので、それはマリエにお願いする。

 サフィーデ銃兵の第1号となる近衛兵たちを見に行くと、マリエが骸骨兵たちの霊話を通訳していた。



「違うわ、しゃがむんじゃなくて腰を下ろすのよ」

「待ってくれ、戦場で腰を下ろすのか!?」

 火縄銃を構えた近衛兵たちが驚いているが、マリエはシマヅの骸骨兵たちの言葉にうなずいている。



「ええ、そうよ。お尻を地面に着けば、上体が安定して射撃精度が上がるの。一発外せば終わりなのだから、必中以外は許されないらしいわ」

「それはそうかも知れないが、敵勢と半アロン(50m)の距離で地面に尻を着けとは……」



 戸惑う近衛兵たちに、マリエはさらに言う。

「彼らが言うには、『敵が己の膝を駆け上がってくるまで撃ってはならぬ』ですって」

「そりゃ絶対に当たるだろうけど、こっちも死ぬだろ!」

 どうもシマヅ銃兵の教練はサフィーデ兵には不評のようだな。俺にはとても良い教えのように聞こえるのだが……。



 仕方ない、サイカ銃兵の教練も受けさせよう。彼らは傭兵だから、生還をもっと重視するはずだ。

 シマヅ銃兵よりも教え上手なところを見せてくれと言えば、サイカ銃兵たちは喜んで指導してくれるだろう。



 カジャが俺の顔をしばらく見ていたが、丸まりながら溜息をつく。

「あるじどの、邪悪な表情してますよ」

「そうか?」



 銃兵の訓練だけでなく、通信兵の訓練も急ピッチで進んでいた。

 マルデガル魔術学院の卒業生は、第1期から第20期まで合計千数百人いる。彼らの多くは王室に仕官しており、軍役の義務を負っていた。



 こちらの指導はゼファーだ。

「『念話』を修得すれば、魔術師同士で瞬時に連絡ができる。戦時でも平時でも大変に重用されるだろう」

 ゼファーの言葉に、魔術師たちが真剣にメモを取っている。



 彼らは既に文官としての安定した暮らしを手に入れている。今さら戦場で戦うなど、まっぴらごめんだろう。

 だが『念話』さえマスターすれば、最前線で火縄銃と撃ち合わずに済む。

 だからみんな必死だ。



「くそ、魔力の同調がうまくいかん……」

「諦めるな、これさえ覚えれば指揮官と一緒に守ってもらえるんだ」

「そうよ、この歳で殺し合いなんて絶対に嫌だわ」



 30代や40代の若手魔術師たちが、うんうん唸りながら学問に励んでいる。ゼファーの指導なら、彼らも漏れなく『念話』の使い手になれるだろう。

 すると指導を終えたゼファーが、俺のところにやってくる。



「できれば卒業生全員に教えたかったのだが、やはり漏れがあるな。所在不明の者が数十名いる」

『念話』があればそんなことも起きないのだが、その『念話』をまだ学んでいないのだからどうしようもない。



「おそらく彼らは王室ではなく、有力領主などに仕官したのだろうが……」

 王と諸侯の主従関係は絶対ではなく、諸侯は王室に対していろいろ隠し事をしている。

 王室の金で育てた魔術師を諸侯が囲い込んでも違法ではないが、さすがに少々体裁が悪い。あまりおおっぴらにはしないだろう。



「そういう者は当面、戦場には駆り出されないだろう。そっとしておいてやれ」

「そうだな。……だが『念話』を使える魔術師が増えていけば、『念話』が使えない魔術師は職を失うかもしれない。心配だ」

 それは確かにそうだ。



「そのときのために『マルデガル魔術学院に行けば、念話の講義を履修できる』というのを今のうちに広く宣伝しておいた方がいいのだろうが……」

「残念ながら、それはできないな。これは最先端の軍事機密だ」



 俺が首を横に振ると、ゼファーは溜息をつく。

「それも仕方あるまい。だがいずれは敵方にも『念話』の技術は伝わる。そうだな?」

「ああ。過去の歴史が証明している。だから傍受や妨害の技術も必須になるだろう」



 このへんはゼファーに何とかしてもらおう。

 もともとが魔術師同士の連絡手段に過ぎなかったので、軍事用途では不足している技術がたくさんある。



「やることが多くて疲れるな」

「全くだ」

 俺も溜息をつき、『雷震槍』で肩を揉みほぐした。


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[良い点] ジンさんの心の内を理解していそうなカジャ。
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