第25話「シマヅ兵法・車撃ち」
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俺は指揮刀を振り上げ、シマヅの骸骨兵たちに命じる。
「シマヅの武勇を見せろ! 撃ちまくれ!」
『おう!』
骸骨兵は3体一組になり、2体が火縄銃の装填を行っている間に残り1体が射撃をする方式で攻撃を続行する。斉射はできなくなるが、これなら3体が各個に射撃するよりも早い。
これがシマヅの銃士たちが得意とする「車撃ち」という戦術だ。同様の戦術はこの世界にもあるが、シマヅのブシたちの「車撃ち」は一糸乱れぬ凄まじい連射だ。こいつら協調行動が恐ろしく巧い。
ただしこの戦術を始めると白兵戦ができなくなる。本来なら野戦でするべきではないのだが、相手は未熟な魔術師たちだ。白兵戦を仕掛けてくる心配はない。
みるみるうちに2年生たちはインクまみれになり、あっという間に半数以下になった。
当然、敵も撃ち返してくる。だが最初にかなりの無駄撃ちをしているので彼らの魔力は乏しい。おまけに残存戦力が半数以下であり、火力密度が落ちている。
一方こちらも油断はできない。火縄銃は数発の射撃で銃身にススが溜まり、射撃性能が大きく落ちる。
だから無駄な射撃は1発でも減らし、最も効果的な場所と時間……つまり今ここで火力を集中させる。
「わっ!?」
「あぁん、もう!」
インクまみれにされた2年生たちが退場し、みるみるうちに数を減らしていく。残りは10人ほど。敵の組織的な戦闘継続が不可能になった。
「今だ! 銃剣突撃!」
骸骨兵たちが立ち上がり、着剣した銃や腰の刀を構える。
『おお!』
『命捨つるときは今ぞ!』
お前らはもう死んでる。
もちろん2年生の残存兵力は大恐慌に陥った。
彼我の距離は半アロン。武装した兵でも10拍あれば走りきれる距離だ。
それでも攻撃される前に破壊魔法を1発ぐらいは撃てるはずだが、応戦はほとんどなかった。
マルデガル魔術学院で学ぶ高速詠唱は、詠唱時間を短縮できる代わりに詠唱失敗率が上がる。パニック状態ならなおさらだ。
結局、生き残りの2年生たちはシマヅの骸骨兵たちに突き倒され、あるいは組み伏せられ、何もできずに木製の模擬銃剣を突きつけられることになる。
「ひいいいぃっ!?」
「ま、参った! 降参だ!」
「やめてくれーっ!」
この骸骨兵たちメチャクチャ強いな。危惧していたトラブルが何ひとつ起きなかった。
素体となっている骸骨兵はそんなに強くないので、単純に中の霊たちの性能だろう。士気と判断力が高すぎる。……もしかすると実験要員として不適切だったかもしれない。
もはや戦闘区域内に戦闘可能な敵戦力はいない。俺は指揮刀を掲げ、勇敢なブシたちに命じる。
「我らの勝利だ! 攻撃中止!」
『おお! 勝ちどきをあげよ!』
『おう!』
いや、霊話だから。生徒たちには聞こえてないから。
ともかくこうして今回の模擬戦闘は、魔術師側の全滅という結果に終わったようだ。結果についてはおおむね俺の予想通りであり、新しい発見は何ひとつなかった。
つまり検証としてはこれ以上ないぐらい素晴らしい結果ということになる。
さて、ゼファーと検証結果について検討しよう。
* * *
【2年生筆頭スピネドール視点】
「酷い有様だな」
俺は服にべっとりとついた赤いインクを見ながら、溜息をついた。周囲にいる他の2年生も例外なくインクまみれだ。
「実戦だったら、これが俺の血だった訳か……」
胸に1発。足……というか内股にも1発。もう少しズレてたら股間を真っ赤に染めてるところだった。
実際に太腿に鉄砲玉をくらったら、まず助からないだろう。ここをやられると出血が止まらないと聞いている。
胸の1発も命取りだ。要するに両方とも致命傷だった。
指揮をしていたせいで破壊魔法は1発しか撃てなかった。たぶん敵兵を1体か2体は仕留めたはずだが、俺の命と引き換えにするほどの戦果じゃない。
これが試合で良かったとつくづく思う。
少し向こうでは、あのジンが学院長と何か熱心に相談している。
「なぜこのような結果になったのかね?」
「魔術師側が集団戦闘に習熟していなかったことや、戦術や指揮系統に不備があったのが大きな原因だろう。生徒たちの実力自体は、火縄銃を相手にするのに十分なものだった」
「ふむ……。確かに純粋な性能の勝負ではなく、戦術と駆け引きの勝負だったな。だが結果は結果だ。実戦なら貴重な魔術師を50人まとめて失っていたことになる」
「ああ、戦場に二度目はない」
ジンはうなずき、言葉を続ける。
「そして鉄砲隊の残存兵力はおよそ40。目減りしたが、小隊としての機能は有したままだ。進軍して戦闘継続が可能だろう」
「これではサフィーデの将軍たちは納得せんだろうな」
「そうだな。仮に魔術師側がもっと善戦できたとしても、鉄砲隊の方が圧倒的に補充が早い。消耗戦になれば結果は明らかだ」
「確かに、そもそもの国力に差があるからな……。では抜本的な改善が必要か」
あの2人の会話を聞いていると、教師と生徒というよりも共同研究者のような雰囲気だ。やはりあの1年生、ただ者ではない。魔術師として強いだけでなく、軍才まである。
学院長は深く思案する表情を浮かべ、重々しく言う。
「これは一度、王室に報告せねばならんな」
するとジンが心配そうな顔をした。あいつ、あんな顔をすることがあるのか。
「大丈夫か? 学院を創設したお前の責任問題にならないか?」
「だとしても事実を伏せることはできない。私たちは研究者なのだからな」
しばらく2人は熱心にあれこれ議論していたが、やがて「具体的な改善案は後にしよう」とうなずいて別れた。
そしてジンがこちらに歩いてくる。背後にぞろぞろと骸骨の銃兵を引き連れたままだ。
「ひっ……」
2年生の誰かが微かな悲鳴を漏らしたが、それは全員が同じ気分だっただろう。
あいつは得体が知れない。次はどんなことをしてくるのか、何をされるのか、誰にもわからない。俺だって怖い。さすがに失禁はしないが。
ジンは俺の前にまっすぐ歩いてくると、爽やかな笑みを浮かべてみせた。一戦交えた後とは思えない。
「検証に協力してくれて助かった。ありがとう」
「協力とはいうが、一方的に敗北しただけだ。マルデガル魔術学院の特待生ともあろう者が、こんな醜態では誇りに傷がつく」
するとジンは困ったような顔をして笑う。
「これは勝敗を競う勝負ではない。ただの実験だ。ただの実験結果でいちいち傷つくのも面倒な話だろう。第一、問題があったのはお前たちではない。この学院の指導方針だ」
「そうは言うがな……」
俺たちは自分の魔術に誇りを持っているんだ。そんなに簡単に割り切れない。
「この実験結果のおかげで、お前たちが戦場で死ぬ可能性は大幅に低くなる。生きてさえいれば、今よりも強く賢く、そして誇り高く生きられるだろう。今傷ついたとしても、それでお釣りがくる」
ジンは年寄りみたいなことを言うと、俺に小さな袋をポンと手渡してくる。
「それより服を洗濯すべきだな。これを使って直射日光で干せ。その染料の色素は紫外線で分解される」
俺は渡された袋に見覚えがあった。
「これはもしかして……」
ジンはニヤリと笑う。
「その洗剤を渡すのは二度目だな」
「……ちっ」
その話を蒸し返すなっていうんだ。他の連中に聞かれたらどうする。
俺は以前の決闘で失禁したことを早く忘れようと、首を横に振った。
「洗濯してくる。おいみんな、寮に引き揚げるぞ」
歩き出してふと振り返ると、ジンは真剣な表情で何かを考えている様子だった。
あいつが何を考えているのか俺には全くわからないが、きっと途方もないことに思いを巡らせているんだろう。
ムカつくヤツだが、やはり気になる。
早く洗濯を済ませて、またジンからいろいろ聞き出すとしよう。




