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第2話『二次選考:集団戦闘試験』

02


 俺と同じ組で他に二次試験に進んだ者はいなかった。

 不合格者は後日行われる一般入試を受験することになるだろう。今回の試験結果に応じて加点があるので、だいたいみんな合格するらしい。

 しかし特待生だと学費免除なので、貧乏な俺としてはぜひ特待生で合格しておきたい。



 二次試験は少し様子がおかしかった。

「005番、011番、016番、029番。今回、一次試験を通過したのは君たち4名です。ここから先は実践的な試験となります。無理だと思った場合はすぐに棄権するように」



 俺以外の3人を見るが、さすがにそこそこの使い手が集まっているようだ。

 男の子が1人と、女の子が2人。みんな若いが、一次不合格の連中よりは年齢も少し高めに見える。

 その男の子、赤毛をツンツンに逆立てた011番の少年が自信まんまんに笑う。

「棄権なんかしませんよ! この日の為に鍛え上げてきたんですから!」



 他の受験生たちも辞退する気はないようで、みんな自信に満ちあふれているようだった。

 試験官たちはそれを見て、小さくうなずく。

「では試験を開始する。次の試験も標的に魔法を命中させるが、今回は標的が動いて反撃してくる。極めて危険なので、くれぐれも死なないように」



「え?」

 011番が聞き返したときには、奥の扉が開いて何かぞろぞろとやってきた。

「きゃっ!?」

「うわっ!?」

 他の受験生たちが驚いて半歩後ずさる。

 やってきたのは、動く骸骨の集団だった。全部で40体ほど。



 骸骨たちは恐ろしげな髑髏を晒し、槍と大盾を構えている。

 まあでも、槍は穂先に丸いポンポンがついた練習用だ。それに大盾を持たせているのも、むしろ攻略を容易にする為だろう。骸骨兵は肉も臓腑もないスカスカの体だから、わざわざ重い大盾で守るほどのものが存在しない。



 試験官が壁際に退きながら俺たちに言う。

「骸骨兵が動き出したら魔法で攻撃しなさい。1体でも倒せた受験生は合格とします」

 確かに実践的ではある。



 早めに片付けて昼飯にしたい俺は、他の3人に問う。

「誰からやる?」

「バッ、バカ野郎! 1人であんなもん相手できるか!」

 011番が慌てて叫び、他の連中もうなずく。



 そういえば全員、一次試験で破壊魔法を使っているはずだな。

「みんな、あと何発撃てる?」

 俺が聞くと、3人は顔を見合わせてこう言った。



「さっきの試験みたいなのはもう無理だよ。軽いのなら1発は大丈夫」

「軽いのでいいんなら、俺もあと1発いけるぜ」

「あたしはまだまだやれるわ。まあ……1発ぐらいなら」

 要するにみんな、あと1発撃つのが限界だ。



 敵は40体。軽めの破壊魔法では1体倒すのがやっとだろうから、残り37体はどうあがいても倒せないだろう。

 となればまあ、大人としてやることはひとつだな。



「わかった。じゃあ敵が前進を開始したら詠唱を始めろ。ゆっくりでいい」

「でも1体倒すのがやっとだぜ?」

 ツンツン頭の少年が言うので、俺は笑う。

「1体倒せば合格なんだ。自分の合格のことだけ考えてろ」



 普通に考えれば、一次試験を突破した優秀な受験生をこんなところで死なせるはずがない。

 あの骸骨兵の槍にも刃はついていないし、安全には配慮しているのだろう。あくまでも模擬戦闘だ。



「骸骨兵の見た目に惑わされるな。あいつらは痛みや恐怖を感じないから手強いが、他は大したことない」

「言ってくれるわね……」

 005番の少女がぼやき、それから不敵に微笑む。



「まあいいわ。確かに今は、合格すること以外を考える必要はないわね」

「ま、それもそうか。骸骨なんか見慣れてるしな」

「え、011番怖い」

「いや、俺んち神官だから! 実家の神殿に納骨堂があるんだよ!」

 話がまとまったようなので、俺は試験官にうなずく。



「準備できました」

「わかった。では試験開始だ」

 骸骨兵たちが一斉に大盾を構え、盾の壁を作って前進を開始した。

 盾の間からは槍がずらりと突き出され、相当な迫力がある。



「おい029番、来たぞ来たぞ」

「待て、まだ詠唱するな。思ったより骸骨兵の脚が遅い」

 事前詠唱ができる俺と違い、初心者は詠唱を途中で止めておくことが難しい。唱え始めた時点で、破壊魔法が飛び出すタイミングがだいたい決定されてしまう。



 彼らの詠唱時間は、およそ20拍(秒)。かなり長い。

 だが骸骨兵たちの前進速度もかなりゆっくりだ。おそらく受験生の詠唱が間に合うように調整されているのだろう。配慮を感じる。



 しかし受験生たちは気が気ではないらしく、俺と骸骨兵を何度も見比べていた。

「でも029番、早く唱えないと……」

「間合いの外から放っても、威力が減衰して敵を倒せない。あと1発しか唱えられないのなら、十分に引きつけろ。時間は俺が稼ぐから心配するな」



 016番の気の強そうな少女が叫ぶ。

「時間を稼ぐって、どうやるつもり!?」

「俺が戦う」

 全身に強化魔法をかけ、俺は骸骨兵の隊列に歩いていく。新しい体の使い心地を試すのにちょうどいい。魔法で反射速度と筋力、それに代謝能力を強化した。



「おっ、おい、029番!?」

「ちょっと待って! 危ないわよ!」

「やめたほうがいいよ、死んじゃう!」

 俺は仕上げに『霊剣オーラブレイド』の魔法を両手にかけると、3人に告げる。



「この方が早い」

「早くねーよ!? 死ぬって言ってんだよバカ!」

 ツンツン頭の少年が本気で心配してくれているので、俺は思わず笑う。

「バカなのは否定できんが、さすがに模擬戦で死ぬほどバカじゃない。そろそろ詠唱を始めろ」

「おい待てっての! なんで笑ってんだよ!?」



 古来より、魔術師は自らの肉体で戦うことも多い。

 破壊魔法を投射すると距離と時間で威力が減衰するので、魔力の費用対効果が非常に悪いのだ。少ない魔力で多くの敵を倒そうと思ったら、なるべく近づいて攻撃するしかない。

 だから余裕がないときは至近距離まで接近し、白兵戦を行う。それだけだ。



「では参る!」

 どんな戦いであれ、全力で戦う以外の選択肢はありえない。それに俺は本職の戦士ではなく魔術師だ。余計なことを考える余裕はない。

 骸骨兵相手の模擬戦とはいえ、気を抜けば思わぬ怪我をする。死力を尽くさねば。



 骸骨兵たちが繰り出してくる槍を、俺は『霊剣』を帯びた手刀でまとめて斬り払う。

 敵の槍が仮に本物だったとしても、俺の掌を貫くことはできない。魔力を帯びた肉体は刃であり鎧でもある。攻防一体の技だ。



「せやあぁっ!」

 最初の骸骨を手刀で盾ごと真っ二つにすると、崩れた隊列の中に飛び込む。

 骸骨兵たちは横二列に並んでいたので、たった2体倒すだけで隊列の後ろ側に抜けられた。

 槍兵の横隊は正面に対して絶大な強さを発揮するが、背後や側面に回られると弱い。隊列の再編成が必要になる。



 もちろん、そんなものを待つつもりはない。

「くたばれ!」

 隣の骸骨の頭を掴むと、膝蹴りで頭蓋を蹴り砕く。次の骸骨は肋骨の隙間から脊椎を握り潰してやった。『霊剣』を帯びた俺の手指は、一本一本がウォーハンマーに匹敵する破壊力を持つ。



 バキバキと数体壊したところで、こいつらの動きは完全に見切った。

 思った以上に弱い。見てくれだけだな。反応が鈍いし動きも単調だ。技量も低い。

 あくまでも受験生に威圧感を与えるだけの「動く案山子」だ。



 そうとわかれば適度な運動が楽しくなってくる。若い肉体は息切れしないし、とにかく軽い。健康になれそうだ。

(見習い時代のマリアムがやらかした大失敗を思い出すな……)

 クソ生意気な妹弟子の泣きそうな顔を思い出しつつ、骸骨兵を片付けていく。



 あのときと違って骸骨兵の得物が本物ではないので、何の緊張感もない。

 実はさっきから槍についているポンポンで執拗にドスドス突かれているんだが、これは別に失格にならないようだ。何も言われてないしな。

 だが多少痛いし、地味にムカつく。



 背後では他の受験生たちがそろそろ術式を完成させるところだ。3人とも流派は違うが、投射開始の文節を唱え始めている。

 俺は邪魔にならないように骸骨兵を盾にして、受験生たちに叫ぶ。

「撃て!」



 やや小さめの火の球が3つ、骸骨兵めがけて放たれた。威力は低いが十分に引きつけて撃ったので、ちゃんと骸骨兵を1体ずつ倒す。焦げた骨がカラカラと崩れ落ちた。

 これで彼らは無事、特待生として合格という訳だ。めでたい。



 それと同時に俺は最後の骸骨兵に手刀を振り下ろす。そいつの頭蓋を叩き割ると、ようやく安堵の溜息を漏らした。

「こんなもんか」



 動いている敵はもういないようなので、俺は両手の『霊剣』を解除する。解除せずにうっかりあごを撫でようものなら、顔の形が変わってしまう。

 冗談だと思っていたら本当にやりかねないので、魔法の後始末は大事だ。



 ふと気がつくと、試験官たちが俺を見て困惑している。ついでに言うと、他の受験生たちも俺を不気味そうに見ていた。

 いや、俺もちゃんと魔法で攻撃したからな? 合格させてくれよ?



 俺は『霊剣』をもう一度発現させて、指先で大盾をスパスパ切断する。

「この通り、全て『霊剣』で攻撃しました。魔法による攻撃です」

「あ、うん。そうだな……確かに」



 試験官たちはますます困惑した表情で顔を見合わせ、それから1人がこう告げる。

「ええと、問題ありません。全員合格です。これにて二次試験を終了します」

 そして彼らはそこらじゅうに散らばっている骨の山を見て、深い溜息をついた。


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[一言] せっかくの骨兵が……もったいない……(死霊術師感)
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