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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第6章 ファンタジー・オブ・ザ・デッド
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6-8 書庫と書斎

 ゾンビ復活の儀式について詳しく記した資料があるとすれば、それを書物だと仮定するなら書庫に置いてある可能性は高い。

 そういうわけで千年の歴史がある名家が誇る蔵書を拝見しようと、教えられた書庫の扉を開く。


 なるほど、たしかに本がたくさんある。リゼの背よりも少し高い程度の棚が並んでいた。棚の数は、十個程度。棚一つの幅は一メートル少しという感じだ。棚の中は、巻物本と綴じ本が混在している。


 この時代の価値観で考えれば、とてつもない量の蔵書と言えるだろう。なにしろ紙も本も高価な世界だ。

 俺の世界で書店を開こうと思ったら、この量では街の小さな本屋さんでも寂しいと感じるだろうけど。



「コータ見て見て! 使い魔召喚の魔導書があるよ! それもいっぱい! ねえこれファラちゃんに渡したら許してもらえるかな?」

「駄目だからな。この蔵書は今、城の持ち物なんだから。勝手に持ち出したら怒られるぞ」

 ごく自然に窃盗行為に入ろうとするリゼを止める。



 ここヴァラスビアが生まれ変わるためにも必要な知識の拠り所だ。

 この使い魔の魔導書だって、城に仕える新たな魔法使いに手渡されるべきだろう。いや城主が実際これをどう使うかなんて知らないけど。でも盗んでいいものじゃない。



「えー。でも一冊ぐらいならばれないってー」

「ばれるかもしれないだろ。一旦城の人間が見てるんだから」

 四、五冊は同じ新品の魔導書が置いてある。これが召喚の魔導書なんだな。もちろん、リゼには触らせない。それよりも儀式について調べないと。



 俺に促されて、リゼは渋々棚の中の本を見る。背表紙の文字を入念に確認していく。


「この棚は魔導書が中心に収められてるけど、その隣のは読み物だね。物語の本。ここからは実用書かな? 魔法の歴史に関して書かれてたりする。魔導書ではないねー」


 それはそれで興味を引かれる本ではある。とはいえ、今の目的は歴史や物語ではない。では探しているのは魔導書かといえば、そうとも限らない。儀式の手順を示した説明書自体が、魔導書である必要はない。


「うん、それっぽいものは見つかりません!」

 結局、棚の中の本を二周して探した結果がそれである。背表紙のタイトルをひとつひとつ確認したが、内容がかすってそうなものすらゼロだった。



「そうか…………どうするかな。もしかしてだけど、普通の本に偽装して隠してるってことはないか?」

「どうかな? 例えばこの本が……ペガサスの飼い方の本だねー」


 本棚に並んでいる巻物をひとつ、手にとってタイトルを読むリゼ。

 そういえばあの戦いで敵はペガサスを使ってきたな。みんな殺しちゃったけど。リゼがそれを開けば、ペガサスの絵が見えた。なるほど表紙に書いてある通りペガサスの本らしい。


 一冊一冊内容を確認してもいいけど、リゼひとりでやるには時間がかかるな。人手がほしいところだ。背表紙を確認するだけとは、かかる労力が段違いである。


「……そもそも題名で嘘をつくということは、隠したいってことだよな。……だったら本棚に紛れ込ませるなんてせずに、最初から見つかりにくいところに隠しておいた方がずっと安全だと思う」

「確かに! コータ頭いいね!」

「いやまあ。もっと早く気づくべきだった」


 今回の捜査で俺にできることと言えば、リゼの行動に助言……横から口出しするぐらいだ。

 実際に動いて調べるのはリゼなのだから、俺はせめてリゼに無駄な労力を使わせないよう頭を働かせるしかない。もちろんリゼが盗みとかを働こうとしたら、容赦なく止めるというのも仕事だとわかっているけど。


 つまり、今回の件で俺はあんまり役に立っていないのではという疑念に思い至ったわけだ。そんな俺を褒めてくれるリゼに、なんか悪い気がした。

 とにかく調査再開だ。



 大事なものを隠しているなら、当主の書斎だろう。ここを訪れるのは二回目だ。


 シュリーと一緒にこの屋敷を訪ねて当主と対面した時は、あの男は善人の皮をかぶっていた。血塗られた家の歴史をそれで隠せるものではなかったけれど。そして古い歴史を持っている家の長の仕事場らしく、この書斎は落ち着いた趣味の良い家具で整えられていた。そういう印象だった。俺に高級感のある家具がどんなものかとかを詳しく語れと言われても困るんだけどな。


 しかしこの書斎にも、一度は捜査の手が及んでいる。荒らされたというわけじゃないが、物が隠せそうな場所は徹底的に暴かれ中を見られている。机の引き出しはもちろん、本棚とか壁にかかっている絵画の裏側まで確認されているのなら、いまさら俺達が探す場所なんてあるんだろうか。


「ほう。コータはもうやることはないとでも言うのですかな?」


 リゼは当主の椅子に座っている。こんな時しか座れないから、せっかくだからと言いながら。気持ちはわかるけど真面目にやってほしい。


「正直、次に何やればいいかわからない。いや、儀式の手順について調べなきゃいけないってのは同じなんだけど、方法がわからない。この屋敷全部ひっくり返して探すのは、さすがに骨が折れるな」

「そうじゃのう。なにか手がかりがあればいいのじゃが……」

「手がかりなー。まったく思いつかない。……そもそも本当にそんなものがあるのか? 説明書があるとすれば、儀式をやってる場でそれを見ながら進めていくものじゃないか?」


 つまりそれがあるとすれば、地下のあの魔法陣が描かれていた場にあると考えた方がいい。けれどそれらしいものは見当たらなかった。


「儀式の内容はそれほど複雑ではなくて、普通に覚えておけるぐらいのものと考えられんかの?」

「そうだな。あの場に説明書が無かったってことはそういうことかもしれない」

 魔法陣は魔導書にも描いてあるし、あとは詠唱を覚えてればそれで済みそうな感じはある。

 では、儀式ができる人間はどこで覚えたかが問題だ。


「となると、儀式については屋敷の外で学んだのかもしれませんの……」

「屋敷の外か。確かに、屋敷の中で見当たらないなら外を探すべきかもしれない。だがその場合、余計に探すのが難しくなる……ていうかリゼ、さっきからその話し方はなんだ」


 妙に年寄りみたいな口調をさっきから続けていて、違和感しかないぞ。


「ふぉっふぉっふぉ。どう? 名門の当主みたいに偉い人に見える?」

「見えない。口調を真似たところで、リゼに当主の威厳とか出せるはずないだろ」

「うー。そんなこと言わなくてもいいじゃん……」


 当主の椅子に座ってみたから、ついでに真似もしてみましたってことだろうな。


「ていうか、そこに座ってたチェバルの当主はそんな喋り方じゃなかっただろ」

「イエガンの校長先生はこんな喋り方だったよー。あの人、魔術で百年以上生きてるって噂だよー。すごいよね」

「そいつは確かにすごいけど、でも今は関係ないだろ。学校のことなんて…………うん?」


 そうか、学校か。

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