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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第6章 ファンタジー・オブ・ザ・デッド
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6-6 儀式の様子

 しばらくジタバタを繰り返していたリゼは突如として動きを止め、パタリと力なく手足を投げ出す。


「お腹すいた。ねえコータ、ご飯にしない?」

「まだなんの成果も出てないのにか? …………まあいいか。そろそろそんな時間か」


 昼飯時ではあるから、一応はリゼに賛成する。もっとも、俺はこんな身体だから食事なんて取れないわけで。ご飯なんてリゼが好きに食べればいいといえばその通りだ。


 とにかくリゼはがばりと起き上がり、俺の体を引っ掴んで部屋を出る。ぐえー。向かうは厨房だ。


「ねえコータ、なに食べたい? お母さんなんでも作ってあげるよ?」

「俺は食事ができないってば。知ってるだろ? あとお前の息子でもない」

「もー。コータってばノリが悪いよ? さーて、なにか作れるかなー?」

 ところが、厨房の棚にはなにもなかった。正確に言えば包丁とか食器とかはある。けれど食材はなくなっていた。


「そりゃそうか。放っておけば腐るもんな。持ち出されるに決まってるよな」

 缶詰とか冷凍食品とか真空パックの長期保存食なんてものは、一切存在していない世界だ。

 食料は基本的に生物で、どれだけ日持ちするかどうかの差でしかない。屋敷の調査に乗り出した城の人間がもったいないと判断して、食べ物は全部回収されたんだろうな。

 いくつかは、昨日のレガルテ達との朝食に出されたかもしれない。賄賂として有効に再利用されたわけだ。


「ううっ……これじゃあご飯作れない……お腹すいたのに……」

「食料庫が別にあるかもしれないぞ。そこに行けばなにかあるかも」

 缶詰は無くても、この世界にはこの世界なりに食料が腐らないような仕組みがある。乾燥させたり発酵させたり。塩漬け砂糖漬け酢漬けで菌の繁殖を抑えたり。そういうものが、別の部屋に残っているかもしれない。


「そもそも、どうせ食料があってもお前料理できないだろ? だったら干し肉かじるとかで我慢しておけ」

「うー。温かいスープが食べたい……」

「だったら一旦外に出るか……?」

 なんとなく察せられることだとは思うけど、リゼは料理ができない。

 生まれてこの方やったことがないらしい。手先が器用だから、やってみたら意外に才能があるかもしれないけれど、案の定とんでもないドジをやらかして食材を無駄にする可能性も否定できない。

 俺達のパーティでは料理の必要に迫られた時は、カイかフィアナの担当と決まっていた。これまでそんな状況にはなってないけどな。


 とにかく、食事をするなら一旦ここから出て街の食堂に向かったほうがいい。そう結論づけた。レガルテやターナや、ここの入り口を守る兵士達も普通にそれぐらい許可するだろう。

 そういうわけで屋敷の正面入口に向かう。と、そこで俺は向こうから人が入ってくるのに気づく。

 ターナだった。両手に箱を抱えていた。たぶん俺達の進捗を聞きに来るとかで、様子を見に来たんだろうな。



「やあ。そういえば食べ物を用意してなかったからね! 進捗を聞きがてら差し入れさ」

「おおお! ターナさんありがとうございます!」

 思ったとおりの様子見らしい。特に進展はないと言うしか無いのは心苦しいが、リゼが喜んでるから別にいいか。こっちからも訊きたいことがあるし。


 そういうわけで、ターナが持ってきたパンや果物を齧りながらしばしお喋りだ。



「秘密の隠し通路? もちろんあるさ。ちゃんと塞いでるから安心しな」


 この屋敷に俺達しかいない状態で、誰かの侵入されたらちょっと面倒だ。

 そういうわけで目下の懸念事項について質問したところ、ターナはそんな回答をした。


 古い建物だし、当時もあった政治闘争を前提として建てられた屋敷だ。外部には知られていない隠し通路はいくつかあるらしい。

 とはいえチェバルの一員であるターナはそれを知っていて、使えないよう封印しておいたと。だったら安心だな。ターナの知らされていない通路があればそれはまずいけど。


「知らない通路……意外にあるかもしれないな。この屋敷建てられてから相当経ってるし。誰も知らないというか、忘れられている通路があってもおかしくはない」

 誰も知らない通路なら警戒することもないだろうけど。でも、なにかの拍子に偶然見つけた悪いやつがここに侵入してこないとも限らない。探査魔法は屋敷の中では使えないし、用心ってどうやればいいんだろうな。



 次に、肝心のゾンビに関する儀式のことだ。ターナは若く、まだ家の重大な秘密について教えてはもらっていなかったらしい。それでもチェバルの人間ではある。なんらかの情報を聞いていた可能性はある。


「すまないね。本当に何も知らないんだ。あの夜も、わたしはこの屋敷に踏み込んだわけじゃない。だから儀式の様子も見ちゃいないんだよ」

「そうですか……」

 あの夜、シュリーや城主と合流したターナは、レガルテと一緒にサキナックの屋敷に対峙していた。

 チェバルと同じく城主の軍隊や当主が拘束されたという事実にも屈さずサキナックの家は抵抗を続けて、ターナ達は屋敷を強襲して……という流れは共通している。


「実際に見たわけじゃないが、ここに踏み込んだ兵士から状況は聞いていおいた。つまり儀式の様子だな」

 それは嬉しい。ありがたく聞いておこう。



 チェバルの魔法使い達は魔法陣の中に等間隔に立って詠唱を続けていた。その数は六人。それぞれが魔導書を手にしていたという。

 術者の詠唱に合わせて魔法陣からは光が発せられていて、間違いなく儀式が進行中であることがわかった。

 術者は全員がチェバルの一族であり、一般的な魔法使いの水準からしても優秀と形容していいだけの、実力と経験を積んだものだった。



「リゼ。地下で拾った魔導書の数はいくつだっけ?」

「六つだねー」

 言いながら、リゼはボロボロになった魔導書のひとつを開く。魔法陣にはその中ほどに、六つの小さい円が輪を描くように等間隔に並んでいた。


「この円の中に術者が一人ずつ立ってたっていうことでしょうか」

「たぶんそうだろうね。わたしも直接見たわけじゃないが、そういう種類の魔法陣は他にもある。間違いないだろう」


 ということは、この儀式を行うには少なくとも六人の術者が必要ということか。大量のゾンビを作り出すのだから、それぐらい大掛かりな儀式だってのは納得だ。


 一方で今回起こっている事件は、ゾンビが一体ずつ復活する小規模なものっていうのが引っかかるけど。

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